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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第40回   40
祖母の父親の勝四郎さんは、日露戦争の時、衛生兵だったと祖母は言う。十六、七歳の頃、祖母は手のひらに腫れ物ができたのを、ナイフで切って膿みを出してもらったことを憶えているそうだ。ハデ好きで新しい物好きで将棋が大好きだった勝四郎さんは、山を買って薪を伐り出し、小江戸川越の一大消費地に売る、『燃料屋の親玉』だったそうで、栞にわかりやすいように言うならプロパンガス屋の社長みたいなもんだ、などと父が言う。山師というのは山で働く人という意味よりも、投機を好む人だとか詐欺師というような意味あいでつかわれる言い方だが、祖母は山林を売買する人という意味で、自分の父は山師だと平然と言う。なんか誤解を招きそう…と、栞は思うが、祖母は投機を好む人とか詐欺師とかの意味あいを知らないのだろうか。燃料屋だけではなくて駅前でお店も経営していて、自転車屋と駄菓子屋と一杯飲み屋という脈絡の無い多角経営の店だったと、父がまた横から口を挟む。祖母は十七、八歳の頃、店頭でパンク修理をしていて、昭和六年か七年頃、うら若い娘が自転車のパンクの修理ができるというのは、かなり珍しいことだったから、自転車屋部門はなかなか活況を呈していたらしい。当時のパンクの修理代は、一回十銭。先月、子供の自転車のパンクを修理してもらったら、千円だったよ、と栞が言うと、祖母は
「え〜っ!?」
と声をあげる。


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