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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第39回   39
祖母の生家は、富裕層というほどの資産家ではなかったけれど、当時の近隣の一般的な家庭よりほんの少しだけ、裕福なほうであったらしい。祖母が生まれたのは大正三年二月で、六月にはサラエボ事件が起きて、第一次世界大戦が始まった。幼少の頃は大戦ブームに沸いて、景気も良かった。埼玉県では物価の高騰への救済策もすばやく、米騒動の暴動も少なかった。おそらくはそんなに苦労などはしたこともない、わりと恵まれた少女時代だったのだろう。タエちゃんのように想像を絶する体験をして心に深い疵を負った人に対し、どう接すればいいのかわからなかったのは、いかにも苦労知らずな、田舎のお嬢ちゃんであったからにほかならない。実際、祖母には自分は裕福な家のお嬢さんとして蝶よ花よと育てられたのだという思い込みがあって、そうした幼少期の人格形成に起因するのが明白な驕慢さは、老いてからも随所に見受けられた。それは男性の目には時として新鮮な可愛らしさとして映ることもあったかもしれないが、多くの場合は人の眉を顰めさせていた。


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