祖母の偏見という老害は、他にもあった。 被差別部落出身者や韓国人への差別というのには、栞はかなり驚かされたし、悲しい思いをさせられたこともある。小学校で席替えがあった、少し後のことだ。仲良くなったクラスメイトのことを祖母に話したところ、 「あそこんちの親爺はチョンコーだから、つきあうんじゃねえ!」 と言われたことがある。『チョンコー』という言葉の意味がわからず、父に訊ねてみると、韓国や北朝鮮の人に対する非道い差別の言葉で、昔の日本人は朝鮮人を日本人よりも劣った人種であるとして無理矢理に連行したり、騙して過酷な労働をさせたり迫害したりという国家的犯罪を行っていたのだと説明してくれた。 「アメリカ人が黒人を奴隷にしたみたいに?」 『トムじいさんの小屋』とか『アンネの日記』は読んでいたけれど、それはあくまで遠い外国の昔の話で、『シンデレラ』や『アラビアンナイト』と同じくらいに、別の世界のお話だと思っていた。祖母が若い頃なんていうほんのちょっと昔の日本で同じようなことがあったなんて、とても信じられなかった。 「日本でもあったんだよ。ドイツ人がユダヤ人を殺したように、朝鮮人を虐殺したよ。」 「本当?」 「本当だよ。母ちゃんがおまえくらいの頃に関東大震災があった。ちょうどお昼時だったから、七輪がひっくり返ったりして火事があっちでもこっちでも起きて、東京中が火の海になったんだって。それを『朝鮮人が放火した。』って言い出して、『朝鮮人が攻めて来る。』って流言飛語にパニックになって、大勢の朝鮮人を虐殺したんだよ。」
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