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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第33回   33
広汎性発達障害なんていう言葉はまだ一般にはほとんど未知のものだったし、自閉症についてあまりにも無知であった絵美子は、医師の口から出たその言葉に目の前が真っ暗になった。父は、自閉症を障害ではなくて被害妄想のひきこもりのノイローゼのようなものだと誤認していたから、ため息をついて黙殺した。衝撃にうちのめされている母をいたわることも慰めることもせず、祖母は単純に自分の疑問だけを口にした。
「絵美子の親戚に、そういう変なのがいるんじゃあねえのか。」
祖母の無慈悲な一言は、絵美子の中に一生消えない疵となって残った。単なる疵ではない。いつまでもいつまでも生々しく血を噴き、膿んで母の心を蝕み続ける疽のようにとり憑き、消えることはなくなった。
祖母に悪気は無かった。祖母はただ無知だっただけで、絵美子を嫌っているわけでも憎んでいるわけでもなく、自分の血縁にはそういう障害のある人はいなかったから、それなら絵美子の血縁からの遺伝なのだろうと思った、ただそれだけだった。
絵美子も無知だった。しかし高齢者と若年者では、無知を責められるべきは高齢者であろう。徒に齢だけを重ね、大日本帝国の歪曲された教育や偏った言い伝えや、科学的根拠の無い因習などを正しいと信じ込み、真実を知ろうとしなかったツケが、憎悪という形で跳ね返って来るのが、無知な高齢者が受ける劫罰というものだ。障害を即、嫁の遺伝だと決めつける傲慢さや無神経さや偏見は、無知な高齢者の愚かさの最たるものだ。


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