「当たり前だろ。」 露骨に尋ねる栞も栞だが、当然だと言い切る祖母も祖母だ。離れの炬燵の部屋の奥、いつも襖を閉めてある部屋の祖母の寝台は、いったい何人の男の汗を染み込ませてきたのだろう。 「セックスはしてなくても、裸で抱き合ったりさわりっこしてたんだったら、嫉妬もするんじゃないの?男のほうが独占欲強いんだからさあ。」 「そうかねえ。八百松とつきあってた時に、農協に勤めてたワリイおじいともあったけど、八百松は何にも言わなかったよ。」 「なにそれー。」 栞は思わず大声を出してしまっていた。ずいぶんと呆れた言いぐさではないか。 「なんなの、その、ワリイおじいってえ。名前は?」 「忘れたよ。とにかく不細工でちんちくりんのワリイ男だったんだよ。英俊がバイクを買うから三万だったか五万だったか、貸してくれって言ったら貸してくれて、ずーっと後になって英俊が返しに行ったら、『よく返したな。』って言って、あたしにポンとくれたんだよ。」 当時の三万円もしくは五万円というのが現在の貨幣価値のどのくらいなのか、ちょっとわからない。しかしそれをポンとくれたというのは、単なる知人とか友人のつきあいではなさそうだ。下衆ばった見方をすれば、祖母は身体をエサにしてその男から金を引き出していたのかもしれない。その話がいつ頃のことだったのかは、祖母は忘れたとか言っているけれど、少なくとも八百松との関係が倦怠期だったり、互いが空気のように馴れ合いの存在になっていて嫉妬なんかしない、というような状態になっていた頃と推測すると、つきあい始めてから五年とか十年とか経過した頃ではないだろうか。英俊の年齢がバイクを欲しがる頃というふうに考えれば合点がいく。とすると、昭和三十年代後半で、祖母は四十代の終わり頃だったのではなかろうかと思う。しかし、この借金の件は父は否定していて、その証拠に、バイクに乗っていたのは祖母で、自分は中学生の頃に後ろに乗せてもらって小川町へ行ったことがあるだけだと言う。玉川村から小川町へは、県道が八高線の線路と一番接近する辺りまではダラダラと登り坂で、そこから先は緩やかに降っていっているのだけれど、父は祖母の駆るバイクの後ろに乗せてもらって坂を登って行ったら、自転車の後ろに母親を乗せて真っ赤な顔でペダルをこいでいる同級生を追い抜いたのだそうだ。 「じゃあその同級生のほうがエライじゃん。」
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