一方の女性に関しても、閉経してからのほうが避妊などに気をつかわなくていいから性生活をエンジョイできるという下世話な説と、更年期以降はホルモンバランスが急激に変化するので、性欲そのものがきれいさっぱり消失してしまう人もいれば、したい気持ちはあるのに身体がそれに対応できなくなってしまう人もいるし、あるいは若い頃よりも性欲が強くなってしまう人もいたりと、十人十色の状態で、一律に論ずるわけにはいかない。ただ、一つだけどうやら確実らしいことは、女性は千差万別で性欲が消失する場合もあるのに対し、男性は勃たなくなっても出なくなっても、女性の身体にさわりたい、さわられたい、抱き合ったりくっついて眠ったりしたいという気持ちが消失することはないらしいということだ。 祖母は、自分はとりたてて淫蕩な女ではない、と言う。自分は別に男好きなわけではないけれど、男のほうが自分をほっとかないのだと、繰返し言う。絵美子は鼻で笑って、ただの男好きのエロエロババアだ、とか言う。どっちであるにしても、性欲そのものが消失してしまって夫の顔を見るのもイヤ、という状態になってしまったり、更年期以降のホルモンバランスの激変によって夫婦生活が暴力や拷問のようにつらいものになってしまったという女性などよりは、祖母は幸運なのではないかと、栞は思う。 もちろん、すべての面において恵まれていたというわけではない。祖母は六十八歳の時に、脚の付け根が痛くて歩けなくなり、手術を受けた。そんな身体で、性行為は可能なのだろうか。 「そりゃあ若い頃みたいにはできないさ。でも、男の側がこっちをいたわってくれれば、いくらでも工夫はあるじゃないか。」 「八百松は工夫が上手だった?」
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