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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第24回   24
質問を失敗したと思った。八百松との交際期間はあまりにも長いから、七十一歳で別れる直前までベッドインしていたのか、例えば六十歳くらいでもう、ちょこっと飲んで談笑してだけのような状態の惰性的な感じになっていたのか。どの人まで、ではなくて何歳まで、と質問すればよかった。しかしそう質問したら、あまり具体的な数字は出てこなさそうな気がする。祖母は真田さんや岡田さんとの想い出はわりと楽しげに話してくれるのに、八百松について聞こうとすると、妙に感情的になって、憶えてないとか忘れたとか言うのだ。その口調の荒らさは憶えていないのではなくて思い出したくないのが露骨にわかるほどで、祖母は本当に心から八百松を愛していたんだなあと、栞は思う。否、心じゃなくて身体かもしれない。祖母は認めないけれど、きっとそうだ。
認めないというより、わからない、もしくは理解できないんだろうと思う。男の単純な性欲とは少し違うが、心よりも身体のほうが暴走する状態が、女にもある。八百松に関して祖母は心よりも身体が忘れられなくて、けれど心は忘れたがっているし、頭では忘れたつもりになっているんだろうと思う。
「まったく、男ってのはなんで幾つになってもさわったりさわられたりしたいんかねえ。いつまでさわってたって、勃つわけでもないし、出るモンも無いのにねえ。」
そんな無造作な言い方に、栞のほうが目眩を起こしそうになる。二十歳前後の頃、男の人は全部使いきると赤い玉がポンッと出てきて、その玉に『お・わ・り』と書いてある、なんていう冗談を真に受けておもいっきりバカにされたことがあったけれど、現実に中高年とか高齢男性の性についてなんて皆目見当もつかないから、何歳くらいまで勃つのかなんて知らないし、何歳くらいまで出るのかももちろん知らない。六十代とか七十代で不能になると書いてある本もあれば、八十代でも九十代でも現役の人もいると書いてある本もある。しかしそれらは専門書とか医学書ではなくて小説とかエッセイとかだから、どこまで本当なのか全然わからない。人にきくわけにもいかない。もしもそんなことを質問したりしたら、相手が女性なら、金持ちのエロジジイの愛人にでもなったのかしらとか、いらない詮索をされて噂になっても困るし、その世代の男性にきいたら、じゃあ実験してみようとか言われてホテルに連れ込まれても困る。


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