「岡田さんはプレイボーイだし、ビールを自分で買って来て『一緒に飲もう。』って言うんだもの、断れないでしょ、って言ったら、納得してたよ。」 その程度の言い訳で真田さんが納得していたのかどうかは、甚だあやしい。今までの栞の実体験や見聞で考えてみるに、絶対に女より男のほうが嫉妬深い。ストーカー事件とか別れ話がもつれた末の殺人事件とか、ほとんどは男の嫉妬や執着が剰りにも激烈で見境が無くて、頭に血が上ると何らかのカタストロフを見るまで我にかえらないから起こるものだ。 祖母はそんなことは全然、夢にも思わないらしい。嫉妬は亭主に浮気された女房がするもので、それ以外の嫉妬は祖母にとっては考えの及ばないもので、男の嫉妬などあり得ないと、思っているらしいのだ。 「だって茶飲み友達だよ。まあビールも飲んでるけど。愛人でもないのに嫉妬なんかするはずないじゃないか。」 「だって男の人は、自分の好きな女性が他の男の人と仲良くしたら、怒るでしょ。」 「そうだけど、まあ面白くなかったってだけで、その程度は嫉妬じゃないよ。」 男は嫉妬なんてしない、という考えの根拠がよくわからない。自分が複数の男性と肌を重ねるという、嫉妬の一番の原因行為をしてきたことから目を背けたいのだろうか。婦道とか婦徳とか、栞たちの世代には意味不明な、祖母が若い頃に受けた教育からかけ離れた女になってしまったことから目を背けるためには、自分は男に嫉妬されるような女だとは思いたくないのかもしれない。嫉妬なんていうなまぐさいドロドロしたものとは無関係だと思いたい心と、いくつになってもあたしはキレイで可愛い、男の人が逢いに来てくれる女なのよ、という自尊心。激動のと言われる昭和を生き抜いてなお喪われない、少女の潔癖と、ナルシシズム。 しかし栞は、もっとリアルな実態を、祖母の口から聞き出したかった。孫と祖母の話題としては非常識かもしれない、破廉恥きわまりない、しかしどうせならばはっきり聞いてみたいと腹をくくって、栞はそのものズバリを聞いてみた。 「ぶっちゃけ、セックスしてたのって、どの人までなの?」 さすがに少し逡巡しながらの栞の質問に、祖母は至極あっさりと 「八百松までだよ、あとはさわりっこしてるだけだったよ。」
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