淡々と粛々と目の前の現実の中から自分に必要なものだけを選び取っている。過去のことなんか言っても意味が無い、未来なんぞはいくら考えたところで、その前にお迎えが来るかもしれないんだから、考えるだけ時間の無駄…、という、竹のような割りきり方。 そういう性格だから、真田さんが来ない日に別の男性が遊びに来ても真田さんに気がねするような様子は全然なかった。たぶん、八百松とつきあっていた頃も別の男の人が遊びに来れば普通に対応していたのだろうと思う。栞は子供だったから見たとしても憶えていないだけだ。しかし真田さんの頃は、真田さんが来ない日を狙ったかのように岡田さんが来ていたのを栞は憶えている。岡田さん以外にも、名前を知らないけれど顔は知っている近所のオジーサン達が入れかわり立ちかわり祖母の離れに遊びに来ていた。 岡田さんについては、祖母が岡田さんのことを『すごいプレイボーイ』だと言っていたから、妙にはっきり憶えているのかもしれない。年齢は知らないが、真田さんや八百松よりは若く見えた。髪は黒く、整髪料でテカテカしていて、糸のように細い目に黒いフレームの眼鏡をかけていたことを憶えている。体つきも比較的スリムで、動作もなかなか機敏だった。ヨレヨレの青っぽい背広を着ていて、秋刀魚に手足がついて炬燵に入っているような印象だった。 「俺ア、甲種合格だったけど、品川で高射砲をうっていたから、外地には行ってねえんだ。」 と言っていた。プレイボーイだからガールフレンドがいっぱいいるけど、本命はあたしなんだって、と、祖母は得意気に言って、栞を苦笑させた。 「岡田さんとビール飲んでいるところを真田さんに見られて、怒られたんだよ。」 祖母はビールが好きだ。小さな細いグラスに一杯しか飲まないが、すごくうまそうに飲む。一人で家で飲むことは全くないが、真田さんや岡田さんが来れば、昼間でも飲んで談笑していたりする。家は小売店であって飲食店ではないのだけれど、祖母を訪うオジーサン達にとっては一杯飲み屋に近い認識だったのかもしれない。
|
|