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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第20回   20
祖母の場合、八百松には配偶者が健在だったから、祖母と八百松の関係は多少は、後ろ指をさされたとしても仕方ないかもしれない。しかし真田さんは配偶者に先立たれていたし、祖母に正式に再婚してほしいと言ってきたこともあったという。そういうきちんとしたおつきあいでもとやかく言われてしまうのが世の常であるなら、事実上、高齢女性の恋愛は禁止されているようなものではないかと、栞は思う。
「プロポーズされたんなら結婚しちゃえばよかったじゃーん。」
真由美たちを相手にしゃべるようなぞんざいな口調で言ったのは、栞自身の結婚が決まって、仕事を辞めて家にいた頃だから、真田さんが亡くなられてから二年くらい経っていたと思う。祖母は八十三歳になっていたが、まだ綺麗なピンク色の頬をしていたから、進行形で別のボーイフレンドがいたかもしれない。
「お前らみたいに勝手にはいかないさあ。」
「なんでー?好きだったんなら、別にいーじゃん。」
「好きなら結婚できるってもんでもないんだよ、この歳になると。」
「その歳でも元気なんだし、お母さんにグチグチ言われながら家にいるより、好きな人とのんびり過ごしたほうがよくない?」
「結婚なんかしたら、のんびり過ごせないじゃないか。男が伴侶に求めるのは、結局、身の回りの世話と自分の死を看取ってもらうことなんだよ。あたしはこの歳で家政婦になる気はないし、寝たきり老人の下の世話をする気もないよ。」
「…。」
そう言われてしまうと、反論はできない。恋愛と結婚は別、というのは、容姿に自信があって若くて未婚でたくさんの男にモテて、でも結婚はサラリーマンより年収が多い、医師とか弁護士としたい、というナニサマ女たちの専売特許だったと思う。そういう女たちが現実をきちんと見ないからそういう発言をするのに対し、祖母は冷静に自分と相手を見た極めて現実的な事実として、恋愛と結婚は別だと言う。人恋しさや独占欲で祖母との再婚を望んでいた真田さんのほうが、祖母よりロマンチストだ。祖母は何も考えていないように見えて、ものすごいリアリストだ。否、何も考えていないように見えるのが、リアリストであるということなのだろう。今、目の前にある現実だけを見ている。あの時ああすればよかった、などと過去を振り返ることはしないし、未来をバラ色に夢見ることもしない。


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