それにしても、世間の一般的な考え方としては、不倫とか浮気というのはこんなふうに深刻かつ重大なことなわけだ。もちろん栞だって、父の英俊が浮気をしたり不倫をしたりしたら、香苗と同じようにショックを受けるだろうし、母の絵美子も、香苗のお母さんのように泣き…は性格からしてありえないにしても、怒って大喧嘩とかは、するかもしれない。逆に絵美子が不倫をしたら、父はどうするだろう。たぶん、信じないのではないかと思う。母は処女のまま結婚して、男は父一人しか知らないらしい。だからといって栞に口やかましく貞操教育をするわけではなかったが、栞が男の人に車で送ってもらって帰って来たり、新しい彼氏は前のより背が高い、というような話を小耳にはさむと、栞に対して妙に刺々しくなったりした。そういうタイプだから、栞もそれから父も兄達も、母が不倫とか浮気なんて絶対にするはずがないと思っている。 両親に関しては、多少の違いはあるにしても不倫とか浮気は一大事で容易には受け入れられないことだという点では共通している。では祖母にボーイフレンドがいることに関しては、恭明は許せないと思っているのに栞はべつになんとも思っていないのは、何故だろう。祖母の場合は配偶者と死別していて、真田さんも奥さんをはやくに亡くされたということだから、真田さんと交際していたのは不倫とか浮気には該当しないと、栞は思う。八百松には奥さんがいたということだけれど、自分が生まれる前からの祖母の友達が実は禁断の交際相手だったなんて、栞は全然知らなかったのだ。兄はいつ頃気づいたのだろう。何歳くらいの頃に性について知り、祖母と八百松の関係を知ったのだろう。 若い頃は、大人達が隠している性愛に関する情報を嗅ぎ付けるのは男の子達のほうが早いと思っていた。しかし大人になると、男性というのは呆れるほど狭量で、意外なほど想像力が無いのだということに気づく。ほとんどの男性は、自分自身が恋愛対象とする女の子と性的な関係を結びたいとする情熱はものすごいのに、恋愛対象にならない女性の性事情に関してはほぼ全く無知だし、思いやりの心も無いし、考えてみること自体、百パーセントありえないのだ。可愛い女の子の裸に関しては無限に想像力を膨らませるくせに、自分の母親や姉などがたまたま風呂あがりにキャミソール一枚でいる状況に遭遇して、大変なショックを受けたりする。極端なヤツになると、父親と母親がセックスをした結果として自分が存在しているのだという現実を全く認識できていなかったりする。
|
|