すると香苗が、帰って来ないどころかいっそ死んじゃえばいいのに、と言い出した。びっくりした栞が 「どうして?」 と問い、真由美も 「なんかあったの?」 と香苗の顔をのぞきこむ。香苗は言いにくそうにしていたが、二人の頭を引き寄せるようにして言うには、どうやら香苗の父親は、夜の仕事をしている若い女の子と援助交際をしているらしい。 「はっきりはわからないけど、あたしより若いみたいなの。カネヅルになりそうな人とはすぐベッドインしちゃうとか、お金のためならなんでもするとか、言われている子なんだって。」 「なんでそんなことわかったのよ?」 「石川さんに頼んだの。あの人、今、彼女いないの知ってたから、お金渡して、お店に行ってもらって、調べてもらったの。」 「そこまでやる?」 「だってお母さん、すごい泣いて可哀想で、一体どんな女?!って思っちゃって…。」 石川さんという人は、栞も一度、引き合わされたことがある。香苗の元カレの先輩で、今だけじゃなく当時も彼女がいなかった人だ。太った男が嫌いな栞はそれっきりだが、香苗と真由美は香苗が元カレと別れてからも石川さんと連絡をとっているらしい。 「石川さんになにか証拠でも掴んでもらって、離婚訴訟とか考えてるの?」 「まさか。うちのお母さん、体弱くて、子供の頃から何回も入院してて、仕事なんかしたことないんだよ。離婚なんかしたら生きていけないよ。」 そういえば香苗は以前、自分は予定日より1ヶ月も早く生まれて、母子ともに命が助かったのは奇跡で、一人娘だからすごい可愛がってくれる、というようなことを言っていた。友達母娘とか一卵性母娘とか言われるようなベッタリの母娘関係らしくて、ひょっとしてそういう母と娘の在り方が、お父さんの浮気の原因なんじゃないのかな、と、栞は思う。言ったら怒られそうだから、言わないけれど。
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