友達との会話の中で父親が話題になる時、父親が大嫌いだと言う同世代の女性が多い中、重度のファザコンであることの優越感と羞恥心の複雑な交錯を、若い頃の栞は過剰に言葉に出してしまっていた。 「あたし高校生の頃、父親に『お父さんて、お母さんが初めての女?』って、きいてみたことあるよ。」 「ええ〜?!」 「うっそお?!」 すっとんきょうな声を上げるのは、真由美と香苗。短大時代からのつきあいで家も東京のほうで離れているから、地元の友人達と違って『いつも愛想のいい酒屋のおじさん』である栞の父親を全く知らない友人達である。サラリーマンの娘として生まれ育った彼女達とは、父親に関する考え方がずいぶん違っていて、それが栞にはものめずらしかった。彼女達をはじめ、サラリーマン家庭に育った友人の多くは、父親と一緒に風呂に入ったことなんか無いというし、父親の下着や靴下と自分の服を一緒に洗濯機に入れるのは絶対に嫌だと言うのだ。 「それでお父さん、なんて答えたの?」 家では父親とは喋ることすら無いという真由美が、目をギラギラさせて栞に迫る。彼氏に比べたら父親なんて腐った脂肪の塊とまで切り捨てる真由美には、何でも喋り合える栞の家の父娘関係が想像すらできないらしい。 「『二十六歳で初めての男なんて、キモチワルイだろ。』だってさ。」 「それは確かにキモイけど、高校生の娘に言う?!」 「考えらんないよね〜。」 栞にしてみれば、父親をキモイとかウザイとかクサイとか言うことのほうが、よっぽどありえない。クサイはまあ、多少はあり得るかもしれないけれど、真由美のように同じ家の中にいることが耐えられないから帰って来なければいいのにとか言うほど父親を嫌う心理は、栞には理解できない。
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