服装もきちっとしていたし、それに祖母のほうも八百松とつきあっていた頃よりも格段にお洒落になったから、男の影響ってやっぱり大きいなあ、と、つくづく思った。栞も、左官屋だったか板金屋だったか表面を綺麗に仕上げる職業の男とつきあった頃に、メイクがぐんと上達したと友達に言われたし、銀行マンの男の時にはコンサバ系のファッションにした。三度の飯よりセックスが好きだった男の時は、清純系からセクシー系まで様々なインナーに凝りまくった。好きな男に合わせて変わった自分を見るのは、その度に違う発見があって、新鮮さに驚いたり、コンプレックスが解消されて自信につながったり、すごく楽しくて嬉しいことだった。祖母も、仕事着のまま上がり込む八百松を割烹着で迎えるよりも、お洒落をして真田さんにあちこち連れて行ってもらうことで、新しい自分の発見があったのかもしれない。 「おばあちゃん、シマムラに服を買いに行こうよ。」 栞が誘うと祖母は喜んで車に乗り、小川町のシマムラや駅のそばのヤオコーの二階に当時あった『オバチャン服』の売り場に行って、嬉々として服を選んでいた。なんの迷いも照れも無く、自分のことを男が愛さずにはいられない可愛い美人だと信じ込んでいる祖母を、栞は呆れながらも微笑ましいと思う。 祖母が八十一歳の時に、真田さんは八十六歳で亡くなった。亡くなる一年半くらい前から入院していて、祖母は栞に送迎させたり、一人で日に数本しかない村営のバスに乗ってお見舞いに行っていた。回数券を使っていたくらいだから、かなり足繁く通っていたのだろう。その頃、栞は自分の恋愛に夢中でほとんど家にいなかったからあまり送迎をしてあげなかったが、入院していた時もそれより前に一緒に入浴施設に行っていた頃も、祖母は真田さんに会う度に二万円ずつお金をもらっていたのだと、後で栞に話した。入浴施設の料金もバスの回数券も、みんな真田さんがお金を出してくれたし、元気だった頃には九州に旅行にも連れて行ってくれたのだと、懐かしそうに語った。 「あたしが遺族年金をもらえないでしょう、可哀想に可哀想にって言ってねえ。真田さんからもらったお金で真田さんのためのものを買うと、ムキになって怒るんだよ。『服とか化粧品とか、自分のためのものを買え!』ってね。口紅を買って、つけてお見舞いに行った時なんか、『似合うねえ、綺麗だねえ。』って言ってくれて、嬉しかったよ。」
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