終章
前述したように、祖母は戦没者遺族年金をもらえなかったので、遺族会の旅行などには働いて稼いだお金で参加した。他の人達が慰霊よりもお土産を買うことに熱心だったらしい(それは帰って来て村役場の駐車場でバスから降りてきた時の手荷物の量で一目瞭然だった)中、栞や兄たちのために、少しだけお土産を買って来た。祖父はサイパンに着く前に戦死したのだから、厳密に言えばサイパンの海に眠っているわけではないと、栞は思う。それでも祖母は最初で最後の海外旅行でサイパンへ行き、バンザイクリフに立って花を手向けた。船で沖へ出て、死者の魂に祈った。 それが昭和何年で何歳の時だったのか、祖母は憶えていない。父も憶えていないが、栞は自分が小学校の四年生か五年生くらいだった記憶があるので、たぶん昭和五十年代なかばで、祖母は六十代後半くらいだったのではないかと思う。なぜ憶えているのかというと、祖母に千羽鶴を折ってくれと頼まれたからだ。兄の後ろにくっついて木に登ったり川で遊ぶのが好きで、あまり折り紙が得意ではなかった栞が折った千羽鶴は、小さくてキレイな千代紙ではなく十五センチ四方の大きな折り紙なのに角もきちんと揃っていない、雑でイビツな折り方だったし、千羽には遠く及ばない数だった。それでも、祖母は喜んで礼を言い、その下手くそな鶴たちを糸でつなげてサイパンへ持って行った。
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