八百松の優しさ、愛する命を守ろうとするパワフルさについては、英俊から聞いたエピソードがある。 「お前、熊谷の空襲は知ってるか?」 「え〜と、『星川の提灯』っていう昔話を子供の頃に読んだ記憶があるけど…。」 「昔話だあ?」 父にとって昔話とは『鶴の恩返し』とか『かちかち山』の類である。つまりおとぎ話であって、『星川の提灯』のようなノンフィクションふうの話は、たとえ子供向けであっても昔話の範疇には入らないらしい。 熊谷の空襲は終戦の日の未明にあった。昭和二十年八月十五日の午前零時二十三分から一時三十九分までの七十六分間に、四千ポンド爆弾が六発と焼夷弾八千四十九発が落とされ、市街地面積の七十四パーセントが焼け野原になった。その時、熊谷に行く途中だったのか帰る途中だったのかわからないけれど、玉川村の上空を米軍の飛行機がとおったらしい。そしてなぜか一発だけ、焼夷弾が落とされたのだと父は言う。山の中に落とされたそれはその時には爆発せず、後日、好奇心の強い子供が見に行った時に、爆発したのだそうだ。 「それが八百松の息子だよ。」 「えーっ、本当に?」
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