不倫をするような男はほとんどが二種類に大別できると、栞は考えている。単にチャンスがあれば自分の女房以外の女とヤりたいだけの犬タイプか、高嶺の花や人妻など狙ったターゲットを射止めるプロセスにやたらモエる猫タイプのいずれかだ。しかしごくまれに、不倫をするつもりなんて毛頭無かったはずなのに、生命力とか持って生まれた人間の器が大きいがために複数の女を包み込む結果になってしまう男というのがいる。そういう男は不倫によって家庭を破綻させたり配偶者を悲しませることはなく、不倫相手を簡単に遊び棄てるようなこともしない。それは誠意だとか男の真心なんていう付け焼き刃ではなく、生命力とか精力とかの持って生まれたキャパが並みの男たちとは比べ物にならないくらいデカい、ただそれ以外に相応しい言い方が無い桁外れの包容力だ。そういう究極の優しさを持った男なんて天然記念物というか滅多にお目にかかれない珍獣だから、栞は現物を見たことはない。それに栞はどんなすばらしい男であっても他の女と共有するのは我慢できないと思うので、不倫そのものに興味が無いから、そういう男が目の前にいたとしても、たぶんわからない。 けれどもしかしたら、八百松はそういう男だったのではないかと、今は思う。そうでなければ三十年間も不倫の関係を続けるなんてありえないと思うし、祖母を怒らせて未練が残らないようにして去っていった優しさにも、説明がつけられない。
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