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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第118回   118
栞が小学生くらいの頃からずうっと祖母はそんなふうだから、女性の友人は少ない。貴重なはずのその人達に関しても、遊びに来てくれて嬉しかったとかよりも『今日は何々を盗られた。』とか『何々をじろじろ見てたから、きっと狙ってるんだ。』とか言っていた。祖母の被害妄想はなぜ同性にばかり向けられるのだろう。幸平さんに家の金を持ち出されたり苦労をさせられたのだから男性不信になって、男性全般を警戒したり拒絶したりするようになったというのならわかるけれど、同性を信じられなくなるにいたるようなエピソードは、祖母自身からも父やユミさんからも聞かない。とすると、もともとそういう性分なんだと結論づけるしかないのだろうか。
では、男性不信にならず、それどころか今でも自分は男性がほうっておかない魅力的な女なんだと思い込める根拠は、いったいなんだろう。
数年前に栞が、過去の男の人達の中でどの人が一番好きだったのかときいてみた時、祖母はおじいちゃんに決まっていると間髪を入れずに断言した。そのことについて栞は、その場ではちょっと感動したけれど後になって祖母にはちょっと申し訳無いけれど、祖母は観念的で理想的な自己肯定によってそう答えたのだという感想を持つようになった。なぜなら、祖母は自分が魅力的で男が次から次へと寄って来る可愛い女だと信じて疑わないけれど、そんなふうに思えるようにしてくれたのはどう見ても祖父よりも八百松だと思えるからである。幸平さんの乱行と死によって深く傷つけられた祖母の自尊心を修復し、凍てついて硬く閉ざされた祖母の心をこじ開けて火を灯し、三十年間もその炎をかきたて続けたという点において、八百松の功績は大きい。祖母自身には自尊心が傷つけられた自覚も修復してもらった自覚も全くないのはあきらかであるにしても。


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