母は絶対に認めないけれど、歳をとるにつれて、自身の生母よりも義母である祖母に似てきたと思う。困ったことにいい面ではなく悪い面ばかりが、どんどんそっくりになっていくのだ。特に顕著なのが被害妄想で、二人とも歳とともにひどくなっていくように、栞には見える。自分も歳をとったらそうなるのだろうかと考えると、長生きなんかしたくないと、栞は思ってしまう。 母の被害妄想は主に、自分ばっかりが苦労させられている、自分の発言が歪曲されて第三者に伝えられているといった内容であるのに対し、祖母は単純に物に終始している。つまり、無くなったとか盗まれたという妄想だから、品物が見つかれば雲散霧消する。その傾向は栞がまだ小学生くらいの頃からずうっとそうで、数少ない女性の茶飲み友達やユミさんなど義妹たち、それに母の友人で祖母の離れになど足を踏み入れない人たちでも、顔を合わせたその時はニコニコと愛想よくしているのに、帰った後には眼鏡が無いとか指環が無いとか杖が無いとか騒ぎたてて、『あの女が持ってっちまった。』などと言っていた。今も、息子や孫の嫁たちや、介護施設の職員さん、一緒に入居しているオバーサンたちなど、見境なくドロボー呼ばわりする祖母の姿は、なまじ認知症とかではなく栞とは全く正常に会話が通じるから余計に哀しくて、栞はいたたまれなくてむきになって訂正しようとキツい口調で、 「ここにあるじゃん!!」 とか言ってしまう。しかし祖母は真剣な顔で、 「これはあたしのじゃない。あたしのはあの女が盗って行った。」 といいつのるのだ。
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