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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第115回   115
商売をしている家にとって、『悪いウワサ』というのは強盗が入ったり火事になったりするよりも、もしかするとつらいと言えるかもしれない。自分を心の中であざ笑っているのであろう人達に愛想をふりまいて、笑顔で接客して、商品を売ってお金をもらう。そんなのはよっぽど神経の図太い人間でなければ、到底続けられないと思う。家の金を持ち出してハデに飲み歩くシベリア帰りのゴクツブシと、気丈に商売と家事をこなしてはいるけれどキツイ性格で優しさの欠片も無い歳上の再婚妻。そんなふうに陰口をたたかれ、冷えきった仲を冷笑される耐えがたい日々があったらしいけれど、祖母は自分にとって都合の悪いことは、絶対に話そうとしない。幸平さんはアタシを慕ってたんだ、と、頑として言い張り、幸平さんが泥酔しなければ自分と同衾できなかったなどという話は断固として認めない。その強烈な自己肯定、自信満々というような鼻につく傲慢さは感じさせず、幼児が見てもいないものを見たと言い張るような頑是無さで、けれど巌のように微塵も揺るがない自尊心。何を根拠にと呆れるけれど、そんなふうに自分の人生を語れる生き方ができたら、人生に悔いは無いだろう。他者の目には幸福とは言いかねる状況があったとしても、本人は全然そうは思っていなくて、自分の生きざまをガンガン自慢しまくれる心の持ち方。まだ祖母の半分も無い今までの人生の中で、祖母みたいな苦労なんてちっともしていない、微温湯に浸かったような生活をしてきたのに不平不満だらけで迷ったり悩んだり後悔したり、ウジウジメソメソばっかりしていた気がする栞は、祖母のおめでたい強靭さにあやかりたいとは思うけれど、いったいどうすればあんなにも昂然と自己肯定できるのか、皆目わからない。


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