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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第111回   111
昭和二十四年はアメリカで行われた水泳大会で古橋広之進が世界新記録を出して『フジヤマのトビウオ』と呼ばれたり、湯川秀樹博士が日本人で初めてノーベル賞を受章したりと、日本が国際社会に平和的に復帰を認められていくにあたって輝かしい明るいニュースのあった年である。しかし人間は、明るく喜ばしい話題に瞬時には拍手をおくっても、暗く陰惨な話題や恐ろしいニュースのほうを長く語り継ぎたがり、ふれまわりたがる生き物だ。六月二十七日から十二月二日までの間の四十四隻の引き揚げ船のうち三十三隻で騒動があったと、シベリア抑留の本には記されている。『シベリア帰りは危険な共産主義者だ』という話題は野火のように巷に広がり、長い間、消えることはなかった。
共産主義者かもしれないということがなぜそんなに危険視され、迫害されたのか、栞にはイマイチよくわからない。本当に共産主義者なのかきちんと確かめもしないでやみくもに迫害するなんて、非道いと思う。栞は抑留の被害者は性犯罪の被害者に似ていると思う。中学生の頃だったと思うが、兄が通っていた高校で、一人の女子生徒が不登校になった。強姦されたとか妊娠したとか大人たちが話しているのを聞いたけれど、ウワサの中で女子生徒はもともと男の子を誘惑したり挑発するようなチャラチャラした子だったとか、服装や化粧がハデでフシダラな子だったとか、そういう言い方をされていた。本当にフシダラだったかどうかなんてわからないし、フシダラの基準だって人それぞれ違うのに、中傷はどんどんエスカレートする。抑留の被害者も性犯罪の被害者も何も悪いことしていないのに、非道い犯罪の犠牲になってつらい目に遭って傷ついて苦しんでいるのに、どうして悪く言われなければならないのだろう。世間というのはそういうふうに弱い立場の人をなぶり、虐待してもてあそぶのが大好きなのだと、栞はその時に知ったように思う。


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