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作品名:花筏〜はないかだ 作者:SHIORI

第11回   11
絵美子がこの家に嫁いできた時にはすでに、八百松が勝手に上がり込むスタイルが定着していたし、祖母は五十代半ば、残り僅かな女の残照を全力で八百松に傾注しているのを隠そうともしなかったから、絵美子が衝撃を受けようが不快さに眉をしかめようが、家に招き入れるのをやめるはずもなかったし、父の英俊も祖母を諌めたりなど、するはずもなかった。それどころか、父親代わりとして慕っている様子すら見せた。一歳で実の父親が戦死した英俊にしてみれば、写真でしか知らない実父よりも、仕事もせずに飲んだくれていた継父よりも、いつも土産を持って遊びに来て、女手ひとつで店をきりもりしている母親に優しい言葉をかけている八百松のほうが、よっぽど心をゆるせる存在だったのだろう。父の兄たちが家を出て行ったのは、家業を継ぐのを嫌がったというよりも、人目も憚らない祖母と八百松の不倫の関係に耐えられなかったかららしい。多くの場合、子供は母親の恋愛に不寛容なものだ。しかし英俊は驚異的な寛容さで母親の情人を受け入れていた。八百松より後のボーイフレンドの頃にも、デートに行く祖母の送迎を平然と引き受けていたが、母親の逢い引きの送迎をする息子というのは、寛容を超越している。父は、自分が店を背負って立つようになってからは、八百松に商売の先達としてなにかと助言してもらうようなこともあったろうし、実父に続いて六歳の時には祖父、十歳の時には継父にも死に別れている英俊にとって、一番身近な大人の男が八百松だったのだろう。絵美子と結婚した時、女房をもらって所帯を持って一丁前になったということよりも、義理のであれもう一度父親ができたことのほうが遥かに嬉しかったと、英俊は栞に語ったことがある。実際、義父と親密になりたいと奮闘する英俊の様子は、絵美子の兄弟などには奇異と見られるほどであったようだ。ただ、義父は農家の男であったので、商売人とは物の見方や考え方が違っていたから、やはり八百松のほうが、理解しあえる部分が多かったようだ。


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