そして、ガチガチの軍国少女というわけではなかったらしいユミさんは、箸が転がっても可笑しい年頃に相応しい、少女ならではの想い出がばっちりある。 「コックリさんって、わかる?」 「あー、小学生の頃にやってましたねえ。」 今にしてみれば他愛のない遊びだけれど、小学生の頃はかなり真剣に恐ろしい遊びだった。戦争中から既にあった遊びなのだと知って、栞はコックリさんをちょっと見直す思いだったが、自分たちはせいぜい、誰々クンは誰々チャンを好きですか?とか、そんなかわいらしいことを尋ねていたのに対し、戦時中の女学生はコックリさんに、次元が違うというか、今では想像もできないような質問をしていた。 「コックリさんコックリさん、サイパン島は玉砕しますか?とか、イオウ島は陥落しますか?とか…。」 そんなことを訊いていたのよ、というユミさんの語尾に、栞の悲鳴のような質問が重なる。 「そんなことやって、見つかったら非国民とか言われちゃうんじゃあないですか?!」 あの時代、非国民呼ばわりされることは、まともな人間ではないという烙印をおされるということだ。 「だから見つからないようにこっそり、ね。」 現代の大人が女子中高生の言動に眉をひそめるのとは、背景の時代状況が違いすぎる。国の存亡がかかった、一億総玉砕とかそういう世相下でコックリさんに戦局のおうかがいをたてるとは、やっぱり十代の少女というのはいつの時代でも大人とは違う次元に精神を浮遊させてあるものであるらしい。学徒動員で作業とかばかりさせられていて、勉強なんかほとんどさせてもらえなかったという、灰色を通り越して暗黒の青春時代、大本営の発表なんかよりもコックリさんの御告げのほうが、少女たちには断然、信頼に足るものであったのかもしれない。
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