その後も三塚は普通だ
意識を失っていたのも手伝って 私の記憶は、ますまおぼろげになっていった
ひょっとして、あの日科学室で見た光景は私の 見間違いだったんじゃないかと自分の記憶を 疑い始めるのに充分な程に
(アレは、何だったんだう?)
変わったと事といえば、それ以来三塚の周りで 神谷を見なくなったことぐらいだった
「月島さん〜」
自分の名前が呼ばれているのに気が付いて 顔を上げると、教室の戸口でクラスメートの 子が手招きをしている
急にざわざわしだして、クラスの女子の半分くらいが 私を見てる気がした
何も男子からの呼び出しが 珍しい訳じゃない
注目を浴びてる理由、それは
相手が”裄埜 光”だったからだ
今まで何回もスカウトされたという噂の容姿 公開テスト時には必ず3位内にいる頭脳明晰さ あと、6年連続全国大会出場中のサッカー部 レギュラーともなれば、もう必要以上に 目立つ存在で
と言いつつ私は、顔を知ってる程度で この前の科学室の一件から、やたら 自称裄埜君フリークの玲ちゃんのレクチャー のお蔭で、こんな風に詳しくなったんだけど
そんな有名人に 何で呼ばれているのか分からないまま 取り合えず、その方向へと足を運ぶ
あまりに皆がこっちを向いてるのに 気遣ってか裄埜君が軽く私の腕を引っ張った
「コレ、月島さんの本が俺のところに紛れてて 同じクラスの人に渡していても良かったんだけど ……これが挟まっていたから」
横から見えたのはこの前の 最低最悪の物理のテストだった
(ぎゃーーーーっ!!!!!!)
「わ、わざわざありがとう」
私はさり気無く受け取りながらも 内心では絶叫していた
……助かった
いや、本当に助かったんだけど どうせならもっとそっと返して欲しかったよ……裄埜君
じゃぁと帰っていった後の背中越しの ギャラリーをしょってる私は どうしたらいいのよ……ぉ
「お前ら付き合ってるのか?」
いきなり、そんなことを言われたのは
職員室で、日誌を渡そうとした 担任の口から
「は?」
「またまた〜とぼけちゃって 月島、3組の裄埜と付き合ってるんだろ?」
「なななな、何言ってるんですか!?」
職員室で。何かのついでみたいな軽いノリで しかも根も葉もないコトを
もともと担任は裏表が無いと言えば 聞こえが良いいけど、かなり天然で 状況判断が甘い
ようはデリカシーに欠けてるってこと
普段は面白いし、嫌いじゃない
この言葉の意味だってきっと担任とっては さして深い意味は無いんだろうけど
よりによってここ職員室で 言う言葉?
それは単に付き合ってるって言葉に 反応したのか、或いは”あの“裄埜”君って 事のどっちかはわからないけど 周りを見ると、他の先生達が聞くとは無しに チラチラとこっちを伺ってるのが分かる
ふと視線の先に 三塚がいて机で何か書いてる姿が見えた
「違います!
テキトーな事言わないで下さい」
「アレ?そうなのか?何か噂聞いたぞ?」
「噂?本人が違うって言ってるんです!」
私が必死で反論してるのを見て
「……いいですなぁ。青春ってヤツは」
担任の隣の席の社会の本田先生がボソリと 呟いた
「ああ、照れてるのか」
担任は私が照れて否定してるのだと そう勝手に肯定したみたいだった
「ごめんごめん〜」
見当違いで且つ、悪気のかけらも無い 謝罪で言葉を濁す担任
「……」
何を言っても通じない青春をとっくに過ぎた 先生らを説得するのは無駄みたいと 思い直し始めた頃
再度、目を向けたその席に もう三塚はいなかった
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