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作品名:エゴイスト・マージ 作者:暁☆

第15回   先生の人となり
蔦さんは遠目にその状況を思い描いてるようで
紫煙を吐きながら
薄っすらと目を細めた

「人生って人と比べるようなモンやないって
言うけど

ホンマやろか?
人と自分を比べん人とかおるんかなぁ」


「……」

「小学校の頃、たまにな親が迎えとか来るやんか
手を繋いで帰る光景を
アイツが不思議そうに見ていたのを覚えてるわ」

「俺達のいた施設、割とまともなで
規模が小さい分、結構子供達を親身になってくれる
人、多かった

それでも夜中泣く子もいて
”おうち帰りたい”とかね

一体どこに帰るっていうのか

俺ら、帰るトコなんか何処にもないのに」


「皆な色んな理由で泣くんよ
普段勝気な子も、見えんとこでこっそりとな

やけど、醒ちゃんが泣いたトコ見たこと無いねん
小学校の位からの付き合いで

ただの一度も


周りの大人は強い子やと言ってたけど

言うたかて、たかだが子供やで?
そんなんあると思う?


俺には泣き方を知らんように思えたわ
誰もアイツに笑うことも怒ることも
教えてくれなかたんやろうって」




「あ。所で、醒いつもなんか分厚い妙〜な本
読んでへん?」

「あ、はい」

いきなり話が変わって驚く

「これは後から知人に言われて
気がついた事なんやけど、出会った頃、施設で醒ちゃん
全く喋らんかったゆーたやろ」

私は頷いた

「アレ、言葉喋れんかったとうか理解出来てなかった
やないかって言われた」

「……え?どういう事ですか?」

「まんまや。俺達が話してる言葉を
必死で覚えていたんじゃないかって」



子供って母親とか周りがどれだけ
自分に対して喋り掛けてくれたかによって
覚えるんやて、言葉。

アイツの環境……やろ?」

背筋が冷たくなった

先生の話から
母親がちゃんと話とか
していたようには到底思えなくて


私が固まってると
”俺も指摘されるまで気ぃつかんかったんや”と
ボソリと呟いた

あの頃から本を引っ張ってきては
なんや眺めとった

最初は言葉を覚える為、
それから何も考えたくない
現実逃避の手段だったのかもな」

「……」

「あそこにいる者
皆、自分なりに自分の気持ちと現実を必死に
折り合いをつけようと模索してた時期

その中、醒は感情を殺すことを覚えて

色んなモン殺ぎ落とすことで生きることが楽くに
なったんやないかな


小さいながら自分をコントロールし
制御してなきゃきっと正気でいることが
出来きひんかった
ってとこやろって今なら思える」



目の前に曖昧な色彩で模った幼き日の先生が
独り鈍色の空を見上げている情景が見えた気がした

それは瞬きと共に
掻き消されてしまったけれど


「学生時分、あの容姿やんか、
ものごっつモテててんけど
多分母親の影響やろうな……女に冷とうて
かなりムチャクチャな付き合い方しとった

傍目には羨ましく感じていたヤツもいたやろうけど
俺は見ていてハラハラしてた

醒が壊れていきそうで

だってな

女といる時、アイツ薄笑いを浮かべるんやで
中坊のガキが……ゾッとしたわ」

蔦さんは思い出したかのように眉を潜めた

「先生って普段何であんな口調なんですか?」

「ああ……醒は教師を”偽善者”だと思もてる
だからわざとあんな物の言いをしよるんや」

「……偽善者」

蔦さんは、’せや’と頷いてみせた


「あんなに嫌ろとったのに
いきなり何やあったかは知らんけど
教師になるって言いだした時
天地引っくり返るくらいビックリした

で、ちゃんと”先生”やれてるのか心配で時々こうやって
見に来てる」


「教え方上手いですよ」

「そうか」

「素行は悪いですけど」

「やな」

そういって二人で顔を見合わせて悪戯っぽく笑った


「醒の事好きなん?」

「……嫌い、じゃありません」

「自分、正直でええ子やな」

「蔦さんこそ」

蔦さんは少し首を横に振った

「……まぁ、ともかく」

陥落するの超難易度高いで、頑張り」

「はい!!」


「今でこそあんな八方美人みたいに
笑った顔してるけど」



いつか心から笑ってる顔見てみたいねん

まだ諦めてないし、頑張ろうなって

そういってくれた

「先生の事、好きなんですね」

「……そや。仲良ようしたってな、
俺アイツお気に入りやねん」


私は力強く頷いた

蔦さんの想いを引き継ぎたい

心からそう思って



蔦さんは私の頭に大きな手を乗っけると
笑いながらクチャクチャとかき乱し
もう一度笑ってくれた


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