白い流行
都会の中心にそびえ立つ高いビルは、デザイン社を経営している。そのビルは晴れの雰囲気も、曇りの雰囲気もどっちでも快い感情を与えてくれる豊かさがあった。そんなに目立ってもないのに、いろんな楽しさが、その都会中心にはある。あの人間(ひと)はコーヒーを飲みながら喋ったり、またある人は、新しいデザインを話していたり、そして社長は窓の外を見ていたり。僕は、そこの従業員の一員(ひとり)となり、コピー機をいじっている。若い女の人に滅法弱い僕は、女の人に立ち寄られて、そのコピー機の使い方を教えられるとつい弱くなり、口調も上ずむ。そして女の人が立ち去ると、また無口になって無関心を目指すのだ。(半分怒りを保とうとしながら)。
その日の朝は、紅茶ではなく、コーヒーで、軽めのトースト一枚かじって、デザートにはヨーグルトを。アイス・クリームは食べない、歯にしみるので。通勤は電車で、休みの日の車を頭の中で楽しみながら会社に向かう。途中で出逢った女性(じょし)従業員と軽く声をかけ合って、仲良く通勤するのだ。行きの電車内でも缶コーヒーを片手に、そのまわりの流行に目をやる。なるほど彼等は、我が社のデザインを流行に重ねた上で、様々なエピソードをつくっている。老若男女、問わず、我が社のデザインは、通用しているのだ。確かに通用させるために費やす労費は並じゃない。一度目がつらいように、二度目もつらいのだ。精神不安定になる。僕はトイレの鏡で顔を見ている。”今の流行は、どこで売れているのか、”とその顔に尋ねたら、”さあ、僕は知らない。”と。窓の外は、雲ゆきで少し暗くなっていた。
僕のディスクにはいつも通りにペン立てと、定規と、白い紙が置かれていた。その紙にまた流行を描くのだ。まるでその僕(会社)は、台風の目のように、まわりの風がよく眺められるのだ。つい、迷ってしまう程。いつも人の顔色と僕の顔色とを合わせて創る絵だが、一度、自分の顔色だけを鏡に映して描いてみた。するとたちまちその台風の目が他の誰かにうつってしまって、僕はそのすさまじい風で飛ばされてしまった。誰かが嫌な顔をしたのだ。
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