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作品名:ひとりの男 作者:天川祐司

最終回   ひとりの男
ひとりの男

 あれは、月のとても大きい夜のことだった。どこかの犬の遠吠えが、何度もしていて、やまない夜、男が杖をついて道を歩いていた。その男は、”ああ、外国の人になれたらなぁ..”と呟きながら、月を見ていた。様々な回想を踏まえながら、閉まっている銀行のそばを通りかかった。辺りは自分ひとりで、誰もいなかった。銀行の中も誰もいない。”面白くないか..”と呟き、また歩き始めた。
 人一人いないその通りを黙って歩いていたので、杖の音だけがこだまして、心を明るくしてくれていた。男はのどが渇いていたので、どこかで水を飲もうとあたりを見回した。だが、人が一人もいないので、また”面白くない..”と呟き、歩き出した。丁度、川にさしかかった時、遠くで犬が川に溺れていた。前の晩、大雨が降ったので増水したと見える。男は、あたりを見回し、誰もいないと悟ったので、上着を脱ぎ捨てその濁流に足を入れた。しばらくして犬を我が手の中にした。少しの余裕を心に作って、その犬を助けた。犬はどこかへ走って行き、男はあたりを見回した。さっきと同じように、人は誰もいない、と悟ったので、その感動は冷め、また歩き出した。月はとても大きかったのである。


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