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作品名:軽蔑 作者:天川祐司

最終回   軽蔑
軽蔑

 少年は、レンタル・ビデオ店にいやらしいビデオを借りに行くことにした。そんなには、見たくもなかったのだが、なりゆきでバイクを走らせて借りに行った。そこは、店員もいれば客も結構いるところで、初めて借りる人にしてみれば、少し避けたいところだった。その少年は、面倒くさがり屋でそこで借りることにした。そして、そのビデオがあるコーナーへ行き、選び始めた。ようやく選び出して手に取った時、そのレンの向こう側から、すき間をのぞいた女性に見られた。その女性は、年頃は、似たようなもので、容姿もかなり美形だった。少年は異性に見られたとあって、少々焦りもしたがその日初めて会った女性だと思い、それ以上は戸惑わなかった。そのケースを持って、カウンターまで行く途中、うっかりその女性を目の前にしてしまった。さすがに目が合ってしまえば、いささか気弱になってしまい、慌てた。そして、普通にその女性の横を通り過ぎようとした時、不意にその女性が少年に声を掛けた。

”私のこと覚えていますか?”

その女性は、昔同じ中学校で過ごした知りあいだったのだ。その少年は、異性から掛けられた声の嬉しさと恥しさが相まって、顔を赤らめた。が、その女性は、そのビデオには気付かないふりをした。

 少年は、その女性を思い出し、話に華をさかせた。話がすすむ中で、少年は、女性がビデオのことに気付いていないのがわかったらしく、少し強気で話すように心がけた。しかし、手に持っている以上、おちつく筈はなく、なんとか、元の場所へ戻そうと考えた。そして、最近の映画の話をしながら、コーナーを回り続け、その女性の気をそらそうと考えていた。そして、質問攻めで、その女性は考えることが多くなり少年はビデオを元の場所へは戻せないものの、ワザと置き忘れることができた。恥がなくなったその瞬間、少年は途端に落ち着きそわそわがなくなった。ヘラヘラ笑うようになり、質問もする必要がなくなり、するのをやめた。そうして、今度は、感動ものの映画を借りようと、その女性と名作部門を歩いて回った。そこでも話がはずみ、より仲良くなった。しかし、その少年は、よくある哲学少年で、付き合おうとは一切思わないようにした。自分の幸せを守るためである。その女性は、その少年のことを中学生の頃から気に入っており、これを機に、接近を測ってみた。女性は、アダルトコーナーへと少年を誘い、そのコーナーへ入る前まで来ると、急に口調をかえた。妙に色気づいた口調で少年と話し始めた。

”このビデオ借りてみない?”

とその女性は少年を誘った。そのビデオジャケットに映った女性は、目の前にいるその女性に似ていた。少年は、そこで突然哲学思想が出てきて、この女性を軽蔑した。すると突然女性は怒った口調で、さっき少年が置き去りにしたビデオのことを指摘した。少年は、そこでひるまずに、男だから、当たり前のことだと主張し、その証拠に女性はここへ入らないと釘をさした。女性はその少年を軽蔑したまま、その店を出て行った。少年は心の中でいつまでも、この女性を軽蔑することを誓い、アダルトビデオを借りて店を出た。


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