氷雨のカナリア
空は灰色だった。映画にはできない様だが、とても嫌な雰囲気だった。俺の心には何て言えばいいのか、とても迷う。それでも、俺の友達は来る。その中に女はいないのが不幸なのか幸なのかわからないが、女はいない。冷たい現実だ。どうして悪いのだ、俺がここにいることが。声の出てないデモ・テープを聞きながら、ヒーターの音はとてもうるさい。目は少し痛く、嫌な予感をさせる。おかしな文章は、まだまだ続く...................................。
あの星の数ほどの幸福?不幸?....空想。 氷雨のカナリア。
「氷雨のカナリア」 水曜日の朝、氷がふっていた。とても冷たい窓には、嫌な人の名前が。”お代金いくら..”の紙がカナリアの鳥カゴの下敷きに敷かれてある。”お代金いくら?”とカナリアはしゃべる、外は氷がふり続く。..... ガス・コンロの火はパチパチ音をたてて、燃えさかる。人は、本を読みながらゆり椅子にもたれる。ぎこちない音楽を聞きながら、表紙をめくる。表紙をめくる音だけが、部屋中にこだます。コーヒーができたのでコーヒーをすすって、味をいただく。その時、ふいにスプーンの”き金属”の音がした。それに反動して、カナリアが、”お代金いくら?”としゃべった。意味はわかっていないのだろう、と少し安心して、人は、テーブルに向かう。キレイ言はもうやめにしようではないか、と、人はカナリアに話しかける。カナリアが次に覚えた言葉は、”キレイ言はもうやめにしようではないか”である。人は笑った。 淡い白日夢は唐突に夢をかき消すが如く、もったいつけた主人の手先へとその旋律を奏でる。主人はドラマ仕立ての心境を少し一新して、また一張羅をむさぼり、デカンタから滴る水の透明を眺めている。すきま風が吹く。おかしなことに、鳥カゴが吊ってあるところから少し左にある窓が開けられている。 ”誰か来たんだろうか?” 無心に訴えながら主人は、コーヒーを一度テーブルに置いて、窓を閉めに行く。言葉が聞えた。 ”お前は一度空を飛びたいと、心から願ったことが少年の時期にあったね。その夢、叶えようではないか。私ときなさい。” 何気なく訴えてきたその言葉の主に、主人は見憶えがあった。 ”あの時のシャンデリアの下にいた黒いハットを被った男だ” そう思うが早いか、主人はカナリアがいるそのカゴのことも忘れて、一度閉めたその窓を全開にして、顔を突き出し、空を見た。次に、下方を見下ろして、通りを行く二台の馬車と、御者を携えた若い夫婦が、しずしずと歩く姿があるのを知った。 ”あなたは今どこにいるのですか?もし本当にいるのでしたら、今こそ私の目の前に現れて私の永年の夢を叶えて下さい。” 無心にお願いをする主人をカナリアは、ただじっと見ている。風が滅法吹きこむその部屋は、主人の普段読む雑誌や新聞、誰かの論文、また自筆のノートで散乱しており、それ等の一つ一つが異なる様子を以て、バラバラとやみくもな音を立てており、カナリアは主人の声を聞きとれないでいた。ほんの一瞬、主人は妙に動く対象に目をやった。鳥の習性なのか、カナリアは小刻みに動いている。毛繕い、主人の行動を見ること、風に驚いたあとの体裁の繕いを、我が物顔でやっており、その詰った行動が主人の関心を呼んだのである。 薄らいだ光が雲間から漏れ始め、主人の顔を差したあと、街全体を包み始めた。主人は少々気落ちしたような体裁を以て桟に両手をつき体を支え、たそがれていた。カナリアはまだじっと主人を見つめる。主人は気付かず街並み、戯れる人、目的に向かう人、また次に雨が来そうな予感に躍起になって踊る野鳥をぼうっと見つめていた。理想を奏でる思惑を共にして。カナリアは二度、おじぎをした。主人は気付くことなく、ずっと街並を眺めている。 ”きみの願いは叶えられた” 不意に声がして、主人は部屋を見回すが、変化のない光景がそこに横たわっている。何だったのか、不意に気を改め、部屋を見回すついでにカナリアを見る。カナリアは水を飲んでいる。雨がふってきた。怒涛のような激しさを終えたあと、次第にゆるやみ本降りとなった。 ”ああ、夢だったのか。いや、気のせいだ。少し休もう。” 主人はそう言って、またテーブルに向い、読みかけていた雑誌を手に取り、今度はあまり浸ることがないように、読み始めた。コーヒーはさっき飲んだ分、淵に丸い輪っかを残したまま少し減っている。
鳥は人の夢、空をとぶことができる。一生のテーマである。
主人はテーブルにあったペンをとり、野鳥とカナリアの素描を仕掛けたノートに、この一文を刻んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「隠遁生活」 この今の喜びは束の間か?隠遁、彼が出す試験に僕は合格して、何となく隠遁生活を始めた。はじめの内は、通り過ぎる人を横目で追うくらいだった。だが、日が経つにつれて、徐々に孤独を悟り、僕の横にはいつも孤独がいた。毎日が同じで、単調なり。生徒、人間は皆他人であること、現実に言い聞かせる。生きているのは僕だ。僕の命は自分にしかわからない。それが真実である。皆は疎外している内に、もう卒業が来てしまった。何と面白くない隠遁生活であろう。誰一人、shyの壁を我に対し打ち砕いた者はいない。今の僅かな友人も、全て僕自ら壁を壊したものだ。このまわりは、すべて臆病者のいすぎない。これが、隠遁生活4年間である。
孤独を打ち砕くものは、”束の間の調子の良さ”、これがひとつである。もうひとつは、永遠性を思わせる蔭りあり。未だに理解し得ない。
「ストレス」 若者の街、都会を歩いていた。彼は、哲学少年にあり勝ちなシックにかかっていたので、それなりの思惑がどうしても頭の中に残っていた。田舎を見たり、軽蔑したりをくり返すのである。女を見ると、また軽蔑し、街角のポスターを見るとそれも軽蔑するのである。 丁度、彼が化粧品売り場の前を通り過ぎようとした時、ひとりの友人と出くわした。その友人は、彼の古い友人で、小学校の頃から一緒だった。彼は、小さく笑い、近寄り、友人に話しかけた。たわいのないことで、二人はおち合い、一緒に街を歩き出した。その友人とは、彼の性格とは全く逆で、流行を丸のみしても、それほど苦には、ならないのである。だから、彼も少しやりにくく、その友人を気遣いながら話をすすめていった。その友人は、彼の気遣いなどつゆ知らず、その流行のことを話し始めた。そして、彼の一番嫌いな俳優の長所を話し出した。彼は、相当我慢しなければその話は聴けなかったので、なんとか今後のことも考え、気遣いを思いやりに変えて話を聞くことに努めた。そして話し終えた友人の顔を見て、”なるほどなぁ、”としみじみ答えた。そこでなんとか緊張は保てたのである。 彼も友人も、表向きはまるで何事もなかったかのように明るく振舞い、歩いている。だが、内心、二人は別なのである。彼は、既に我慢の限界に達していた。友人は黙り込んでいたのである。ついに限界を越して、彼は少し控えめにして、彼の思うスターのことを、友人に話した。友人は無視に近い形で、彼に対応した。その反動で、さっきまでのストレスが破裂し、彼の想像がその友人を殺してしまった。その場でも、彼は、今後を考えていたのだ。彼の古くからの友人は、そのことを少しも知らず、早めに歩いたままで人混みに消えていった。彼が束の間足をとめているのも気付かず、これも彼の発作だと思い込んだままで。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
裏窓...思春期の楽しみ 裏窓からも母親の手がのびてくる、これは恐怖か。
両親が僕に教えてくれたことと、この現実が教えてくれたことの間には、違いがありすぎた。何故か。神の定めた十戒をこの世間は守っていてこれか?僕にはわからない。(もう、知らない。)
「シリアス」 物語など..、生きてる内に書くものだ。我の生の永遠のテーマは、死にある。懺悔の挽歌で何が描ける、死と生とは、ほんの紙一重。我と我の友人は、ほんの紙一重の生をもって生きている。ドラマで聞いた台詞を一度現実で言ってみた。簡単に言えたが、簡単になかったことにされたのは我のみ?人並みに生き、人並みに死ぬために、ここに生まれてきたのか。また明日かけ引きにふける。いつになれば、物語が描けるのか、早く描きたい。テーマを思い付きたい。でなければ、どうして生きていけばいいのだ。僕はもう20歳、おどけた様ではいけないらしい。楽しいことと、生きてゆくのは別の人生。今、神のもとへ辿り着きたい。自信がないのだ。 僕が書いたものを、誰がわかってくれるのか。神すら”わからない”と言うだろうか。わからないことを書いているから。
|
|