流行と哲学少年
世界は戦争になり、人はいなくなり、唯一、哲学少年と、流行を歩いた女だけが残った。世界の広さはかわらず、その二人だけである。お互い通り過ぎれば今度逢うまでずっと一人で、逢えるかどうかもわからず、孤独でいなければならなかった。川や、空や、海は同じようにあり、不思議と動物達がまだ生き残っていた。ただ動物は、言葉を知らず、しゃべれない。女は、すでに半狂乱に近くなっていた。流行のものは何ひとつなく、けなす相手もいない。ただ哲学少年ひとりいることだけ知っている。その日初めて見た顔の哲学少年に女は話しかけた。唯一、孤独が途切れるかどうかの期待の時だった。
哲学少年は、流行を嫌い、普段から一人だったので孤独をプライドとしていた。女の視線を切り、初めて逢った人と話など、と皮肉じみた顔で立ち去ろうとした。しかし、女は、孤独に数分耐えることができず、少年をしつこく追った。それでも意地を張り、哲学少年は女をなぐりつけ、”近づくな”と言い、”欲は、俺にはもうないのだ”とセリフを吐いた。女は、その時の感情で事情がよくわからず、泣きながら、立ち去り、遠くへ行った。哲学少年は、”これでいいさ”と軽く笑い、未だかわらず、流行を嫌い続けた。その気持ちは、もう憎しみにまで達していた。その後、女はまた哲学少年を探し始め、哲学少年はその女からワザと隠れ続けた。やがて、死のうと考えた女の目の前に、突然現れた哲学少年は、狂ったように女にとびつき、体を求めようとした。女は、狂わんばかりに喜び、”私に心をひらいてくれた”とすっかり純粋に思い込んでいた。
すると少年は突然形相がかわり、女が手にしていたピストルを自分のこめかみに突きつけ、自殺した。即死だった。女はぼうぜんとしたままじっとしていた。しばらくして、現実を悟り、笑った。女も自分のこめかみに少年の手を持ったまま突きつけ、撃った。そして人はいなくなった。
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