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作品名:六月までの自立 作者:天川祐司

第5回   美作家
美作家

「美作家」
 昔の作家の華やかさ、耽溺に落とす妖艶、があるのは、その作家が、その昔に生れている事にある。時の巧妙。

 文学の根源とは、誰でも思う事にある。売れなきゃ、生活出来ない。

「現実」
 この世界は嘘であろうか?

「月下美人」
 所詮、誰も私の話など、聞こうとはしない。だから、私は、沈黙を抱えたままで、沈黙する他術がないのだ。あの和歌山県の毒殺事件の主犯人の家へ行き、飲み物、食べ物、を飲み食いした後で、その主犯人の母親のように気分が悪くなったらそれを理由として、私はその主犯人を殺すのだ。他に術がないから。きっと、その後、私は警察へ行き、尋問をくらう。そこでも警察の人々は、私の話を聞こうとはしない。今までがそうだったように。この先も、きっと「友達」という友人達は、皆、友達甲斐のない恰好を装う。皆、自分の言い分だけを言いながら、私の所へ来るのだ。そして「言い分」が尽きれば、身を引いて行く。私を真面目にさせてから、私の真意を聞く事はせず、軽く笑い飛ばして、私は散らされてしまった。私が孤独を恐れている事を知っているのだろう。私はそれ故に、友達との縁を切る事が出来なかった。それ故に、「孤独に慣れろ」と言うのが、口癖でもあり、苦しみ続けた。そのような、すべての所為で、私は、会話が出来なくなったのだ。誰と話す時でも、変な、鏡に映る景色ばかりを見てしまうのだ。私の言う事は、きっと、難しいのだろう。したくもないY談に、延々と耳を貸すのは、きっと、それ故。最早、私の話をまともに聞いてくれる輩は、この白紙しか、見当たらなくなる。例え、良い人が、目前に現れても、人間であるという理由だけで、あの輩達と坩堝に填めてしまうのだ。遠く身を引き、遠慮してしまう。暴力でしか、解決出来ないものか。何やら恐怖が華を取り巻き、陶酔で保身を試みる人体は、厳寒を前にして、誰かの為に、咲き誇る。

「錯覚」
 ここに人間が一人いる。この者は、黒い服を着て、祈る姿勢を採っていた。そして、咄嗟に、その姿勢を止め、何やら、ものを書き始めた。この者の姿を見る他者は、今、誰もいまい。恐らく、神にしか、見られている気配は感じていないだろう。もしも、誰かに見られていれば、この者は幸せに思うかも知れない。所詮、感動も、蜥蜴の尻尾切り。何をしても、ここでは、反動がない。こうしながら、この者は、自分の質がわかっている。ここで、ものかきを諦(や)めてしまうと、もう、一生、この続きを書き始める事は出来ない。作家の忍耐。才能など、所詮、誰かの匙加減一つで、実は、どうにでもなる。この者は、そう思っていたのだ。今まで、外界に於いて、様々な、才者を見て来た。ある国語の授業では、丸十二年間、才能ある者というのを、押し売りして来た。その事実(こと)に気付いたその者は、深く、溜息を吐き、頭を垂れた。そして、又、はっと、顔を上げた。見えるものは、感動の残骸である。一切の著書を、ベッドの上から投げ捨て、見ないようにした。読み方を誤ったのかも知れない。しかし、仕方がなかった。この者の感動は、その時、死んだのである。その破滅に向かって。やがて、その者は、ベッドから起きて、さっき、投げた著書を、拾い始める。どれも、見慣れた文だった。暫く、そうしている内に、その著書の中に、その時の自分の気持ちと、ぴったりな文章を見付けた。幾度、読み返してみて、その者は、感動に浸った。今までにない盲目への光を感じているようで、その者は、自分が幸せだと思った。空しい空気が、その者に、錯覚という薄い光を聞えさせたが、未だに、感動に浸っているその者にとっては、その感動は良いものであった。明日の光へと、旅立った。

「放擲秩序」
 夢に似た所作への落胆と、明日に生きている現実との狭間にて、苦しんでいる。私が考える”ものかき”という夢は、この世を悲観する職なのだ。それを、否定出来ない。悲観ばかりでは、精魂尽き果てる。他人とも会えやしない。友人が、明日、もの言いをかいたプラカードを下げて、やって来るのだ。私は、生きている故に、それに対応しなければならない。生きることは、決して、魂を売ってゆくことではないのだ、という思いを、誰に向って、言えば良いのか。”他人に頼っちゃいけない”という、頼りなく、か細い、決心が、私の頭を渦巻く。まるで、動じない世間は、その私を見て、冷笑しているようである。明日よ、早くこい。

「罹災」
 過去からの、黒く、そわそわと忍び寄っていた人影に対して、その少年は、生れて来た生命の尊さを感じ、美しさを感じて、あらんかぎりの勇気を見えない囲いの中へ投げ捨てた。不条理。少年は、その勇気を奮って、すべてが終った。

「男と女」
 蹂躙されるベッドの上で、ひどくやつれる少女が居る。半生涯を終えて、手にしたものは、鷹揚と、寂寥の成就であった。愛する男(ひと)は、その愛妻をみて云う。美しい、と。

「佳人」
 目の見えない、ものを言わない壁に向って、青年は、大きく闊歩した。最愛の者を、そこに見たからであった。


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