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作品名:キャッチ・アンド・リリース 作者:SO-AIR

第14回   14
.27 センチメント


 研究棟の前で立ち話をしている小野さんと浅田さんを見つけた。この糞暑いのに、外で立ち話なんて、井戸端ババァか。
 「おはよーございまーす」
 2人そろって「おはよう」と返事をくれる。
 「小野さん、浅田さん、負けですので、私とさいちゃんに各200円ずつ払ってください」
 2人は顔を見合わせて、そして揃って私の顔を見た。
 「ヤったの?」
 「ヤりました。だから私達の勝ち」
 小野さんは手を叩いて爆笑した。
 「アッハハ、さっすがノッチだ。俺の認めたノッチだ。頭あがんねぇよもう。後で払いに行くから」
 その後、頂いた200円を握りしめ、さいちゃんと自販機でサイダーを買って飲みながら、サトルさんの話をした。この糞暑いのに、外で立ち話なんて、井戸端ババァか。


 日付が変わる前に将太が帰宅した。
 「お帰り」
 「ただいま。今日早く終わったから実家に寄ったんだけど」
 実家に寄る暇があるなら早く帰って来いや、と思ったが口には出さなかった。どうやら彼はマザコン属性があるらしい。

 「姉ちゃんとこ、子供が生まれたんだって。これ写真」
 まだ生まれて間もない、これが人間の子供か、と思うようなくしゃくしゃな赤ん坊が写った写真と見せられた。
 「へぇ、おめでたいね」
 うん、と言って写真を鞄にしまう。
 「何かお祝い送らないと、と思ってさ」
 「そうだねぇ」
 私はソファに腰掛けた。将太は鞄を床に置き、隣に腰掛けた。
 「出産祝いって、何が良いんだろう。現金?」
 「身内だから難しいよな。商品券とかでいいんじゃないかなぁ」
 「じゃぁ商品券、近々買っておくよ」
 暇な時間が多い私が、買い物をかって出た。

 「もう1回写真見せてよ」
 あぁ、と言って鞄から写真を取り出す。
 「へぇ。言っちゃ悪いけど、赤ちゃんって可愛くないよね。自分の子供なら可愛いのかなぁ?」
 将太は返事に困った様子だったが、苦笑いしながら答えた。
 「まぁ自分の腹から生まれたらそりゃ可愛いんじゃないの」
 「将太は子供、欲しい?」
 「欲しいけど今はいらない」
 そりゃそうだ、今みたいに派手に散財できなくなるもの。ネットオークションで、プレミアが付くフィギュアを買ったりしているのを私は知っている。
 「ミキは?」
 「私は子供好きじゃないもん」
 ふーん、と答え、またいつもの様に、各々が好きな事をやり始める。あぁ、これがいつまで続くのだろう。幸せではない新婚生活。幸せではない夫婦生活。
 幸せってどこかその辺に転がってないかなぁ。靴の裏にくっついてた、なんて事ないのかな。やり場のない気持ちを、ブログに吐露する。


 結婚式を挙げようと言ったのは将太だった。家族も誰も呼ばず、2人で、新婚旅行も兼ねて。
 急ではあったが、旅行社に問い合わせると、偶然希望する日に空きがあったので、サイパン島で挙式兼新婚旅行をする事になった。親はきっと子供の花嫁姿を見たかったんだと思うが、「海外なんてお金かかるから行かない」と端から行く気が無い素振りを見せた。
 パスポートを持っていなかったので、急いで作りに行き、旅行に間に合わせた。

 挙式は勿論ギャラリーなんていなかったが、神父さん、ホテルの従業員、カメラマンさん、メイクさんが総出で盛り上げてくれたお蔭で、感動的な物になった。祝福の歓声には涙腺が崩壊した。
 真っ白な砂浜を、真っ白なウエディングドレスで歩く。海は空の色をそのまま写している。いつか見た、群青色の海と空を思い出したが、記憶をかき消した。

 旅行の最中は、買い物や散歩、名所めぐりをし、それなりに楽しんだ。久方ぶりのセックスもした。幸せかと問われれば、幸せだと答えられる旅行になった。職場に、実家に、タキに、レイちゃんに、沢山のお土産を抱えて帰国した。

 帰国して待っていたのは、またいつもの生活だった。決して幸せではない、生活。
 
 
 「これ、お土産、食べてくださーい」
 職場の中央にあるテーブルに、マカダミアナッツチョコレートの箱をでんと置いた。
 あちこちから旅行の感想やら結婚式の感想やらを訊ねられたので、適当に答え、席に戻る。

 「やっぱビキニ着たの?」
 さいちゃんがにやけた顔して言うので、頭を1発叩いてやった。
 イテェと呟きながら頭を擦っている。
 「着たけど写真は残ってないよ」
 「ノッチは背が高いから、ビキニが似合うだろうなって、小野さん達と話してたんだ」
 「あんた達はヒトの留守中に何つー話をしてるのっ。年中盛りがついてる雄犬か?君らは」

 まぁ、大方予想はついたが、同じ質問を小野・浅田両氏から聞かされたのは、その日の午後だった。
 「日本に銃刀法がなかったら、今頃先輩方、ハチの巣ですよ」
 そう言っておいた。



.28 ジョーカー


 タキを夕飯に誘った。夏も終わりに近づいていた。久しぶりに馴染みのラーメン屋でラーメンを食べ、それからカフェでお茶をした。

 「お土産、中身見てもいい?」
 「いいよ、大したもんじゃないけど」
 白い紙袋をがさごそと開け、「あ、チョコだ」とテーブルに置く。さらに下にある箱を取り出す。
 「はぁ?何これっ、何?」
 「何ってトランプ」
 ありとあらゆる男性が、男性器をさらけ出してドヤ顔で写っている写真が、トランプになっている。残念なお土産だ。
 「だって食べ物以外に良いもの無くてさぁ」
 「だからってこのトランプかよっ。まさかレイちゃんにはこんなものあげてないだろうな?」
 「こんなものとはなんだぁっ。あげてないから大丈夫。木製の食器を郵送しておいたよ」
 料理をするレイちゃんが懐かしい。もう暫く会っていない。メールは頻繁にやり取りしているのだが。

 「その後、夫婦仲は良くなったの?」
 コーヒーにドバドバと砂糖を投入するタキ。苦いコーヒーは苦手らしい。溶けるのかなぁと心配になる。
 「良くなってないよ。それと、これは言って無かったよね。サトルさんとセックスしました」
 口をあんぐりあけたまま私の顔を凝視する。マーライオンみたい。
 「あんた――」
 言った後、諦めたような顔をしてマドラーで撹拌を始めた。
 「まぁそうなるとは思ってたよ。あんたがしたいようにしたらいいよ。このまま仮面夫婦を続けるもよし、離婚してさっぱりするもよし、私はあんたの味方でいるから」
 顔を上げたタキと目を合わせる。
 「お前、超いい奴」
 右手を差し出して「シェイクハンド」と言うと、タキは笑ってその手を握った。
 「私は元鞘になったから」
 「え、どこの鞘?多すぎて分からないんですけど」
 「アンタと違って2つしかないよっ。」
 中距離恋愛をしていた彼が、横浜に押しかけてきたらしい。丁度、前の彼との別れ話が持ち上がっていた事もあって、そのまま何となく同棲が始まった、という事だ。
 「あ、でも基本的にはうちに住ませてるというよりは、寄らせてる、だから、昼間は出て行ってもらってる。だから土日は遊びに来て大丈夫だから」
 夜だけの同棲。私も同じような状況だ。「夜しか会えない」という気持ちから、きっと二人はラブラブしてやがるんだろう。くっそー。


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