.13 令二
「今度のバーベキュー、彼氏も連れてくるんだって?」 俺は昼飯を食っている時に、バーベキュー幹事であり、俺の尊敬するチームリーダーである鈴木さんから、その事を聞いた。 先日の、志保ちゃんの怪我が頭を過ったのは言うまでもない。その加害者たる彼氏が、会社のバーベキューに顔を出すと言うので、驚いている。 まさか皆の前で志保ちゃんに手を上げる事など無いだろうが。 「うん、みんな家族連れで来るし、どう?って試しに訊いてみたら、来るって。私も意外でびっくりしたんだけど」 濁度のデータを見ながらブラインドタッチでテンキーを忙しなく叩く志保ちゃんを暫し眺める。 「何?」 俺の視線に気づいたのか、こちらに顔を向ける事無く話す。 「いや、彼氏、と同棲してるんだもんね。家族みたいな物だもんな」 「ん、そうだね」 そこに俺が入り込む隙なんてない事は分かっている。勿論入り込もうなんて汚い事は考えちゃいない。 ただ、時折暴力を振るう彼にぞっこんな志保ちゃんを見ていると、そこに割って入りたくなる。 俺は暴力振るわないよ?どっちがいい?なんてね。俺は志保ちゃんに惹かれている。これは紛れもない事実だ。
それでも志保ちゃんは今の彼を選ぶんだろう。 暴力を振るう事をも帳消しにしてしまうような魅力があり、何か埋められない過去の経験を埋めてくれるような、そんな彼氏なんだろう。 そんな風に考えていると、段々と彼の事が「良い人」の様に思えてきた。 バーベキューでは話し掛けてみよう。確か歳は俺と同じだったと記憶している。
.14 志保
明良が安心してくれるならいい。そう思ってバーベキューに誘った。 誘った時点でもう、明良は安心しているだろう。 私がいくら鈴宮君と仲良く喋ろうが何だろうが、そこに「彼氏」として明良がいれば、明良は満足だろう。
そんな風に簡単に考えていた。後々この考えは間違えだったと気づかされた。
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