荷物と共に電車を降りた真生は再び圧し掛かる重さに耐えながら定期券を駅員に見せる。ここからは自転車に跨り進まなくてはならないと思うと心なしか荷物が重く感じられた。地面に反射する光に目を細めたとき、背中を撫でるような声に呼び止められた。振り向けば他校の女生徒数人が期待と不安を表情に表しながら近づいてきていた。彼女たちを見下ろしながらくしゃみが出そうな自分に焦って鼻を軽くすすった。ついでに腹も鳴りそうになる。連絡先を聞いてくる彼女たちをあしらうべく適当に容姿を褒めにこりと笑う。化粧の赤みとは別の朱が顔に浮かんだのを見て急ぎの用があるからとその場を逃げ出した。
女は自分の容姿が好きなのだろう。なんて腐るつもりはないが、なぜ一度も話したことのない人間に対し自分の感情を表すようなことができるのか不思議だ。電車の中で隣に座った女の子のことは受け入れられて彼女たちは受け入れられない理由を考えようとしたが風をきる心地よさにいつのまにか浸っていた。
自宅で晩御飯を作る母親からごろごろしてるならお風呂掃除でもしてくれというお達しが出たため、仕方なく風呂場をピカピカに磨き上げ湯を張った。我ながら掃除の出来に満足しているとご飯が出来たと言う声がした。正直に言うと母親が作る料理以上にうまいと思ったものはない。小さいころから食べさせられていれば当たり前かもしれないが、母は偉大なのだ。 ただ、高校生にもなって母と仲良くするのは恥ずかしいという思いの方が勝るためあえてうまいとは言わない。それでもあれこれと世話を焼きたがる母はにこにこと真生の食べる姿を見ている。そしていつも一杯目の白飯が終わるころにお替りあるよと茶碗を持っていく。夫が出張で家にいないせいもあり愛情が全て息子にゆくのは仕方のないことである。大量に作ったから揚げがいつの間にかなくなれば母の喜びは一入なのだ。
その夜熱が出た。あれだけしっかり食事を取ったことが不思議な程実は風邪が酷かったようだ。息子の危機を察知したのだろうすぐに駆けつけてきぱきと手当てを施す母の心配そうな顔になぜか笑ってしまい怒られた。真生の頬にいつの間にか小さくなった手を添え心配する。愛情が篭ったひんやりとする手の気持ちよさに不本意ながら目を細めてしまう。それを見てくすくす笑う母にとたんに恥ずかしさを覚えもう寝ると部屋から追い出した。
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