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作品名:w.o.r.l.d. 作者:赤鉈 塩

最終回   caution !! this is 〈R〉 part !
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 作者註)意味を解さない無思慮な読者だけに注意しておくが、この物語はフィクションである。
文中に出て来るいかなる人物、団体名、出来事などと、実在する人物、団体名、出来事などとは、まったく、一切、これっぽっちも、欠片も、露ほども、関係ありません。
 作者がどれほど技量の粋を尽くしてリアルに説明するように努めようと、そして、読者が想像力の限りを尽くして、その稚拙な作者の説明を脳内で補完しようと、フィクションはフィクションだ。他の何ものでもない。その事を私はここに高らかに宣言する。
 私にこの物語を書く引き金を引かせた人物の一人として、ウィトゲンシュタインの名前を挙げておきたい。多分この人物は実在の人物で、少し昔の哲学者のはずだ。
 私の理解が正しければ、世界とは共同の事実認識の集合体である。つまり、我々の言葉がお互いに通じあえば、我々の世界は成立する。我々の理解の範囲外に我々の世界は存在しない。我々の世界は我々が我々のためだけに作り上げた世界なのだ。
 逆に言えば、我々の共同の認識に則れば、どのようなものも我々の世界に存在することが出来るだろう。例えば、私の好きなライトノベルのある登場人物の言葉にこのようなものがある。
「確かに私はキミにとってヒトの言葉に聞こえるかのような音を出しているかもしれん。だが、・・・・・・何をもって、キミは私が言葉通りの意味を込めた音声を発しているのだと確認するのか」
 失礼、登場ニャン物だった。まあ、とにかく、総体として事実が成立していればいいのだ。それが、全くの受け手側(或いは双方)の勘違いだったとしても、成立さえすればよい。
  私が、コンピュータの音声合成技術による楽曲を好むのは、そこに理由がある。作り手がどれほど“心”を込めて『彼女』に歌わせても、『彼女』がどれほど“心”を込めて歌っているように思えても、我々が『彼女』の声にどれほど“心”を動かされても、それはまったく、完全に、絶対的に、受け手側の勘違い、思い込みに過ぎないのだ。
  ・・・・・・無いのだ。最初から、“心”なんか無かったのだ。
 しかし、それでは……この、『彼女』の声を聞いて震える“これ”は何なのだ……?
 彼らの楽曲を聴いて視覚情報受信装置から溢れてくるこの水は一体何なのだ……?
 私としては、この世界が例え空っぽであったとしても、スネコのように反応する方が正しいと思う。そうでなければ、生きている意味なんか塵ほどもないだろう。
 さて、そろそろ物語に戻ろうか。
 というか、次が最後の章だ。この章で、スネコはベリカを殺す。自分の意志でそうする。終わり、だ。……まだ続きが気になる人だけ読むといい。ではどうぞ。
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「ここが……ベネザリア……か」
「でっ……かぁ……い。ほんとに大都会、だねぇ」
「……。」
 さっきからベリカが無口だ。いや、ベネザリアに近付くにつれて段々口数が減っていく。……なんかあからさまに。こりゃなんかあるな。まあ、こういうキャラは死ぬか、裏切るパターンだよな。ライターの立場に立って深読みすると、ベネザリアはベリカの生まれ故郷で、何らかの事情で辺境の街まで逃げてきていた、って感じかな。

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 作者註)あーあ、それを今から説明しようとしてたとこなのにな。言っちゃうんだもんな。何を隠そう、ベリカは序盤のサイドストーリーの中核をなすキャラで、パーティの属性により三パターン、プレイヤーに対する絡み方が用意されているのだ。……しかし、こういう人はフィクションを充分楽しんでいると言えるのだろうか?まあ、こういう楽しみ方をしている、と思えばいいか。
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 小さめの山をこつこつ削って何千人も暮らせる住居を抱える都市にしたのか、下から石を積み上げていって山のような都市を築いていったのか。どちらにしてもこんな、要塞のような建造物を作り上げるのには膨大なエネルギーと時間が必要だったことだろう。
 こちらの世界に来てそろそろ一ヶ月。いいかげん、ギルドから僕らの望む良い情報がもたらされてもいい頃だ。タウンマップを呼び出し、ギルドの位置を確認する。流石大都会、ベネザリアには、四つの入り口付近と中央に一つ、合計五つのギルド窓口があるようだ。
 すぐ近くの東門のギルドを目指す。その通りには、目移りするようなバラエティ豊かな出店が立ち並び、どの店も活気がいい。
「二人でここら辺見てろよ。ギルドに三人で行っても意味ないからな」
「うん!」
 ……コレデヨロシイデショウカ、カミサマ。
 何か動きがあるとすればここしかないだろう。
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 ギルドで端末をいじっていると、案の定、表でスネコの悲鳴が聞こえてきた。
「どうした!」
 表に飛び出すと、可哀想に、スネコがパニックを起こしてぼくに縋りついてきた。
「ベリカが……!」
 こうなる事は大体予想は付いていたが、ここから先はわからない。二、三パターンシナリオを先読みしておかなくては……。取り敢えず、スネコが指さす裏路地の奥を目指す。
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作者註)こうドライに対応されると、こっちはやる気が無くなっちゃうよねー。と、いうわけで、あらすじだけで進行させます。
 実はベリカは、ある犯罪組織によって作り出された愛玩奴隷だった、という体で話が進みます。で、そういった犯罪組織を根絶しようと一人孤独に戦うワータイガーの男が出て来て、ベリカと行動を共にしていたジル達を、犯罪組織のグルと勘違いしつつ、誤解だと主張したりしつつ、問答無用とバトルになったりしつつ、最終的には協力者になって、犯罪組織のアジトに潜入、あと少しでベリカの元に辿り着く、という手前で、なんか強そうな奴が出て来て、虎男が『ここは俺が食い止める! お前ら二人で先に行け!』て感じの死亡フラグを立て、ジルとスネコは彼に礼を言って走り去ります。
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 いかにも怪しげな扉を開く。その部屋はやたら広く、部屋で執り行われていることに似つかわしくないと思えるほど、妙に明るい光に照らし出されている。まるで、部屋の隅々までじっくり観察して下さい、といわんばかりだ。
 部屋の中では、裸の男達が、裸のネコミミネコ尻尾の少女達とペアになって一心不乱に交わっていた。ぼくらが入ってきても、誰もこちらを向こうとはしない。
 呼吸をすると、飛び散る体液のすえた匂いと共に、咳き込むほど強い香の香りがした。
 『キャット・ハーフの製造工場』……ということか!?

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 作者註)勿論そういう体、である。彼女たちには生殖能力はない。雰囲気作り、という奴だ。そのほかにも、手前の部屋の黒板には、
『○月○日まで、○人、緊急!』なんて書いてあったり、『ネコミミ少女とエッチするだけの簡単なお仕事です』みたいなスパムメールが来てたり、結構細かい演出がしてあったんだけど、全然見てくれないんだもんなー。
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 部屋の様子を窺うことに集中し、そして目にした異常な光景に呆気に取られて気付かなかったが、扉のすぐ近くに、まさに『用済み』といった感じで、裸のベリカがぐったりと転がっていた。
「……!? ベリカ!」
「……にゃ……? スネ……コ……、……ジル……」
「良かった! 生きてる……! よし、帰るぞ! スネコ! ……? スネコ……?」
「……。…… שִׁינֶבַּאִינוׄנִי 、 שִׁינֶבַּאִינוׄנִי 、……מִינְנַשִׁינְג֜יַאֶבַּאִינוׄני ……」(ヘブライ文字です。意味は、ちゃんと調べて書いたので、読める人が読めば多分わかると思います。でも変換できないのでは……?ですが、ただの演出、意味不明の呪文という体なので、このままにします)
「……! な……!? スネコ……!? そのスペルは……!! や」ばい……!!
 天を仰いで涙を流し、胸の前で両手を組んだスネコの口から、朗々と“聖なる歌”が紡ぎだされる……!その瞬間、スネコの周囲にエネルギーの風が巻き起こる!エネルギーの凄まじさから、スネコの祈りの強さがどれほどかがわかる。
 突如展開された緊迫した空気をぶちこわすように、『ピンポーン』とインフォメーションアラームが鳴り、
『このスペルの発動には、パーティリーダーの許可が必要です』
という、無味無臭のガイダンスが流れる。
 ……はぁ……。こんな無価の存在のために、ここまで思い入れるかねぇ……。
 ま、スネコらしいといえばスネコらしいか。
「続行、してくれ」
∵ ∴ ∵ ∴ ∵
 同時刻。“この世界”のどこかにある、しかし“この世界”から隔絶されたとある場所。 その名も、“法龍の神殿”。
 その一番奥の間に、いかにもそれらしく勿体振って鎮座する、銀色の巨大な龍。
 その身から溢れ出る、身体の巨大さ以外の要因による圧倒的なオーラが、この存在が他とは一線を画す、異質の存在であることを見る者の本能に理解させる。
「・・・・・・。ほう・・・・・・」
 龍は何かを知覚したようだ。目の前の巨大な水晶玉のような、球体ディスプレイに手を伸ばし、映し出された少女の顔を確認する。
「・・・・・・その望み、叶えてやるのはやぶさかではない・・・・・・。・・・・・・しかし、それがどういう事を意味するのか、理解しているのだろうな・・・・・・?」
「・・・・・・。・・・・・・よかろう」
 ディスプレイに向かって、力を満たした手を翳す。
 ふと、法龍は、大昔の哲学者が、死ぬ間際に呟いたという言葉を思い出した。
「悪法もまた法、か・・・・・・」
∵ ∴ ∵ ∴ ∵
 時を違わずベネザリアの上空に、雷のような轟音と共に黒い雲が沸き起こり、その厚い雲の隙間から幾筋もの強烈な光線が降り注いだ。
−−次の瞬間!
 集束され、圧縮された光エネルギーが大都市ベネザリアを襲った。それは一瞬の出来事だった。
 遠くから観察する者がいたなら、一瞬白い闇が訪れ、その現象が過ぎ去るとそこには、ベネザリアと呼ばれていたはずの、ただの瓦礫の山が姿を現したように見えたことだろう。
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 瓦礫の山に跪く裸の少女。天を仰いだその瞳からは、はらはらと涙がこぼれ落ちる。スネコは、この“奇跡”を発動させたペナルティにより、“この世界”を訪れた後手に入れたあらゆるものを“ロスト”したのだ。
 ……来た時と同じ状態になっただけだ。ただ、それだけだ。……。だが……。
「……スネコ……ベリカ、スネコに会えて、楽しかったにゃ……ありがと、にゃ……」
 彼女の手に入れたものの中には、NPCも含まれる。
 ベリカはスネコの腕の中で、チェシャ猫のように微笑みだけを残し、光の泡になって消えていった。
 見上げた空に、翼を取り付けたコンテナのような形の、飛行機型移動式ギルドが現れた。流石はギルド、対応が早い。
 ぼくは、スネコの裸を隠すためのブランケットをポーチから取りだし、そっと肩にかけてあげながら、すったもんだの所為で伝える暇のなかった事をスネコに告げた。
「帰ろう。元の世界へ」

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ending theme:ユラメク                  /   lylic:ヘブンズP

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>スペースポートのエントランスで両親に飛び付く普段着のスネコ。
>スネコの後ろからやはり普段着のジル。
>スネコの両親は心配そうな顔。スネコは首を横に振る。そしてジルを振り返る。
>屈託のない笑顔で。
「また、行こうね!」
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 作者註)もう一回ഠ彡゜ もう一回ᆼ彡゜
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