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作品名:N.Y.M.P.H. 作者:赤鉈 塩

第2回   −43200


「もうすぐお昼でございますよ。ランチになさいませんか? ユーゴお坊ちゃま、サーラ皇女殿下」

メイドが庭先の東屋に、銀色のトレイを抱えてやってきた。
やはりサーラは筋がいい。飲み込みも早い。少し稽古を付けてやっただけで巧みな剣捌きを見せるようになった。もう二、三日じっくり相手をしてやれば、片眼片腕で相手をするのがきつくなる腕前に上達するだろう。
メイドの差し出すタオルで汗を拭いながら、午前の総評をしてやる。

「なかなかいい感じだぞ、サーラ。午後からは、利き腕の方でやらせて貰おうかな?」
「ふん。いちいち癇に触る奴だ。どこまでわらわを貶めれば気が済むのだ? 今に見ておれ、すぐにその眼帯を払い落としてみせるぞ」

目は怒りの色を湛えているように見えるが、どこか嬉しそうだ。強がりさえ可愛らしく聞こえる。それともこれが俗に言う “身内の欲目”というものだろうか?

「ふふん。飯食う時は外すさ」
「少しは仲良くなってくれたようじゃの?」
「う……、じーじ……」

祖父が満面の笑みを浮かべて近付いて来る。夕べあれほど反発した手前、ばつが悪い。

「あ……、う、えっ、と……。そ、そんなんじゃねえよ。サーラが剣の稽古を付けてくれって言うから仕方なく……。剣の道を志す者には、例え嫌いな人間といえど皆平等に接しないとな。ほら、俺これでも一応師範だし」
「あ、アヤノコウジ様……あ、あの、実は、わたくしたち、その、もう、セッ」
「あー! がー! あーっと。スマン、コーヒーかけちまった。ちょ、着替えてこいよ。アキラさん、お願いします。」(びっくりしたー、何言い出すかと思ったよ)
「そうじゃったか。ふむう、困ったのう。お前達二人に、世界の未来が掛かっておるのじゃが……。そうじゃ、午後からお前達二人におつかいを頼もうかのう。どうじゃ? 儂の知り合いに男女の相性を占う霊験あらたかな術者がおってな。その者の所で、お前達二人の相性を占ってきて欲しいのじゃ。行ってくれるか?」
「あ、ああ。別にそんぐらい構わねえよ。あ、サーラと二人で? そうか、二人で行かねえと意味がねえのか。じゃあサーラが準備できたらすぐ行く」
「手筈は儂が整えておく。行く用意が出来たらアキラにでも声を掛けよ」
「ああ、わかった」

何かさっき、さらっと凄い事を言われたような気がしたが、多分気のせいだろう。


  + + + + +


「アリスちゃん、これ、見た?」
「うん。これ、でしょ?」
「アリスちゃんとわたしだけの専用クエスト、だって。しかも緊急。てことは、午後の授業とかテストとか全部無視していいんだよね? あらゆる事に優先される、ってやつ」
「んん、ゴクゴク。ぷふぅ。うんうん、そうそう。これは行くしかないでしょ?」
「でも、個人を指名した緊急の専用クエストなんて聞いた事ないよね。大丈夫かな?」
「大丈夫でしょ! ほらほらスズナ、とっとと食べちゃって!」


  + + + + +


「ミルク様はユーゴ様のどんな所がお好きなのですか?」
「ぶはっ!? こ、こらあ! 食事中に変なこと訊かないぃ。べ、別にユーゴの事なんか好きでも何でもないってばぁ。もうっ」
「隠さなくても結構ですよ。ミルク様を見ていれば分かります。わたくしにわかるくらいですから、きっとユーゴ様もミルク様のお気持ちに気付いておられるはずですよ」
「あいつは……あたしのことなんか……。っていうか、ナデシコちゃんこそユーゴと何か関係があるんでしょ?」
「わたくしは……わたくしは……。そうですわね。ミルク様に隠しても仕方のないことですわね。んっんん。ミルク様にだけ打ち明けますわ。実は、わたくし、ユーゴ様の許嫁なのです」
「ごぼっ! ぶへっ! ぶごへっ!? んんっ! はあ〜、牛乳で溺れ死んだ人第一号になるところだった。い、い、いいなづけぇ!? ……ん。ごめん。お茶漬けとか福神漬けの間違いじゃなくて? へぇ〜、そ、そうなんだぁ〜。ナデシコちゃんがねえ、ユーゴとねえ。へ〜え。ふ〜ん。あ、そお〜。お、お似合いのカップルなんじゃない?」
「わたくしとても困っているのです。結婚ということも男の人のことも何もわからないのに、結婚だなんて……。せめてお相手のことを知りたい、と思って、ユーゴ様と同じ学校に通えるように取り計らって戴いたのです。ミルク様はユーゴ様のお人柄をよくご存じなのでしょう? ミルク様はユーゴ様のどんな所がお好きなのですか?」
「あ、あたしは……、あたじば……。ごめ、がおあらっでぐる」
「ミルク様……?」


  + + + + +


竹林の間に、圧倒されるほど大きな赤い鳥居が等間隔で並ぶ、真っ直ぐな一本道を、ジンベイザメのような一台の黒塗り高級フロートモービルが、音もなく滑るように通り抜けていく。
サーラは窓の外に映る、オリエンタルな異国情緒溢れる景色に、素直に驚きと感動の眼差しを向けていた。

「これは……。素晴らしい……。美しい……。はあ……。」

確かに、ニホンに来ても、向こうと変わらないお城のような建物ばかり見させられては、来た甲斐は無かろう。 じーじの家が……、いや違うな。じーじがユーゴのために宛がった屋敷が、サーラの生家と殆ど変わらない造りをしているのは、サーラがこちらで生活することになっても戸惑わないように、であったのだろうか。ただの外国かぶれだと思っていたが、じーじなりの心遣い、ということか。
眼をキラキラ輝かせ、感歎の溜息をつきっぱなしのサーラと、窓に反射する彼女の顔を優しく見つめるユーゴを乗せたモービルが途轍もなく大きな木造りの門に近付く。ひとりでに門が反応し、少しだけ隙間を開けると、モービルはスピードを落とすことなくするりと滑り込み、門の中に消えていった。


  + + + + +


「はあ、はあ、はあ……。……やっ、と、……つい、た……。こ、ここ、に、姫、様、が……。……う」


  + + + + +


学食のテラスに、ぼろぼろのスーツ姿の女性が倒れているのを、一番最初に見つけたのは、ミルクだった。

「ちょ、ちょっと! あなた、大丈夫!?」

一目見てとても大丈夫そうには見えない。うつ伏せで、今にもダイイングメッセージを書き残しそうだ。とりあえず医務室に、いや病院か。助けを呼ぼうとおろおろするミルクの耳に、彼女の微かな声が届く。

「み……みる……く……」
「み、なに? 水? 喉が渇いたの?」
「みる……く」
「ミルク? 牛乳のこと? 牛乳がいいのね? ちょっと待ってて!」


  + + + + +


ナデシコと二人がかりで彼女を抱え、医務室に連れてきた。ジョッキになみなみと注いだ牛乳を飲ませる。

「んぐ、んぐ、んぐ、んぐ、んぐ。ぷはー! 生き返ったでござる。あ、忝ない、もう一杯戴けませぬか? まさしく牛乳は完全栄養食でござるな(※個人の感想です)。生命力が漲ってくるようでござる」
「お腹が空いて倒れてたのね。もう、びっくりしたわ」
「この学校の関係者……のようには見えませんわね? お名前は何と仰るのですか?」
「は、名を名乗らぬとは重ね重ね無礼極まる行為、何卒お許し下され。それがしはピコーと申す。さる高貴なお方に仕える者、けして怪しい者ではござらぬ。実はここに、ある人物がおられる、と聞き及び、そのお方を捜すためにこちらに参ったのでござる。密命である故、多くは明かせませぬが、助けて戴いた恩、努々忘れる者ではござらぬ。必ずやこの恩に報いること、お誓い致します」
「ねえ、その人ってどんな人? もしよかったら探すの手伝おっか?」
「なんと、そのようなことまで! しかしこればかりは拙者が主人から承った使命、自ら果たさねばなりませぬ」
「どんな人? 顔とか名前とか、わかるの?」
「いや、顔は存じませぬが、お名前を預かっているでござる」
「なんて名前? この学校の人ならこの学校の人に訊いた方が早いよ」
「うむう、確かに左様でござるな。然らば……、拙者の探しているお方の御名前は……」


  + + + + +


両側に、ユーゴの二倍の背丈はあろうかという、厳つい面持ちの木彫りの像が立ち並んで見下ろす廊下。経年変化を感じさせるものの、檜の香り漂う、ぴかぴかに磨かれた床。天井には金を基調の色として、意味不明な、しかし立派な謂われがありそうな絵が描かれている。
どう安く見積もっても “霊験あらたかな占い師”というレベルではない。もっとこう……。ただベクトルが違うだけで、じーじと同じような、物凄い家系なのであろう。
段々小さく、しかし段々豪華になっていく門構えを三つくぐり、玄関、といっても、小さな一軒家がまるまる入りそうな空間を有した玄関に通され、少し説明を受けてこの廊下を暫く歩いている。ひたすら真っ直ぐなのが不気味だが、ちょっとしたハイキングコースだ。

「すごい……! すごい!」

サーラはユーゴの腕を取って、興奮している。少し諫めてやらなけれなばらない程だ。しかし、これがニホンの平均的な家、と思って貰われては困るな。ユーゴも多少は豪邸、というものを知っているつもりではあるが、こんな屋敷は初めてだ。世が世なら、文化的に貴重な遺産として登録されて然るべき建造物である。
漸く廊下の終点が近付いてきた。足下だけを照らす蝋燭が揺れるこの廊下よりは少し明るい。
厳格にして神秘的な空間の奥の奥。神経が研ぎ澄まされるような、それでいて、正常な判断力を鈍らせる幻覚に陥りそうな、訳のわからない雰囲気が漂う。部屋自体は何十畳かあるようだが、目の前に白い薄絹で仕切りをされており、向こうがよく見えない。部屋の隅に蝋燭が灯っているだけなのに、部屋の中心がぼんやり明るいのも奇妙だ。何か……、わからないが……、異様な……。妖しい空気が……漂う……部屋だ……。あ、頭、が……

「ようこそいらっしゃいました。ユーゴ様、サーラ様。どうぞこちらへ……。さあ、どうぞ……」

何だか……体が……重い……。力が……入らない……のに……、まるで……自分の……体じゃ……ないように……勝手に……うごく……。……サー……ら……これ……ナン……か……オカ……しい……。ま……テ…………


  + + + + +


「ああ、ユーゴ様……。お会いしとうございました。カヤはこの日を幾年お待ちしておりました。さあ、お召し物をお脱ぎになって下さいな。あなたもよ、サーラ様。そう、いい子ね。いいえ、全部よ。それもお脱ぎなさいな。こちらに、さあ、こちらに横になって下さい。そう、この夜具の上に仰向けになるの。そうよ。サーラ様はわたしの言葉が難しいのかしら? ごめんなさいね。はあ。ユーゴ様……。なんて立派な……。これが……カヤの……わたくしたちの……。ああ、凄い……! ああ、アヤノコウジ様……! 間違いございません! このお方こそ、わたくしたちの夫になられるに相応しいお方。もう、こんなに力が漲って……。〔申し訳ございません。ここから先はこのサイトでは掲載することはできないルールになっているようです。〕……」


  + + + + +


「ねえ、これどう見てもおかしいよ。これ、ダンジョンじゃなくて、どこからどう見てもお城だよ。見るからにラスボスの出て来るラスダンだよ。アリスちゃん、どうしよう?」
「だいじょぶ、だいじょぶ! ラスダンだったら、ほら、宝箱に伝説の剣とか、最強の鎧とかあるもんでしょ?前半凌げれば何とかなるって。行こ行こ!」


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「ミルク様、と言う方でござる。ミルク・ルネアルナ皇女殿下。訳あって、皇宮から離れ、今は一般人としてお過ごしになられているとか。道理でいくら探しまわっても見つからない筈でござる……。どうされたか? 御仁」


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「ち、違うよ……あたし、そんなんじゃないよ……」
「ルネアルナ様って……」
「そ、そうだけど、ほ、ほら、同姓同名ってあるじゃない……? ね……?」
「ま、まさかあなた様が、ミルク・ルネアルナ殿下でござったか!? こ、これは、知らぬ事とはいえ、今までのご無礼の数々、平に、平にご容赦を! 斯くなる上は腹をカッサバいて多少なりともお詫びを……!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなんじゃないってばぁ! やめてよ恥ずかしい!」
「ミルク様が、あのルネアルナ皇国の……。あの事件のお噂は予予聞き及んでおりましたが、本当の事だったとは……! ははぁ! わたくしのような者がご尊顔を拝謁する特権に預かり恐悦至極にございます!」
「もお、ナデシコちゃんまで……!? 絶対人違いだってばぁ!」
「恐れながらミルク殿下。割腹する前にご確認だけさせて下され。アヤノコウジ・ユーゴ陛下の后になられるお歴々には、体のどこかに、花の紋の痣が現れることになっております。その事を確認し、主人に報告した後でなら、このピコー、喜んで命をお捧げ致します故、それまではどうか命乞いをさせて下され」
「何で痣のこと知ってるのぉ!? 後、別に怒ってないから、切腹とか物騒な事やめて! その難しい敬語とかも。は……!? ユーゴ……陛下!? 后!? 何がどうなってるの……!? はぁ……、頭がクラクラしてきた……」


  + + + + +


ミルクは、医務室の硬いベッドにへたり込み、横になった。

「ミルク殿下!」

向かいのベッドの脇、医務室の床に正座して、ジャケットを脱ぎ、上半身を腹部に巻いたサラシと豊かな乳房を包む黒いブラだけにした、ピコーと名乗った女が、慇懃にミルクの体を心配する。

「大丈夫。大丈夫よ。ちょっと気分が悪くなっただけ……」

ごく短時間のうちに次々と判明する驚愕の事実。重要度順に並べ替えることも、系統ごとに整理することも難しい。ミルクの脳がコンピューターだったら、火花を散らし、焦げ臭い煙を大量に吐き出して、あらゆる種類のエラーメッセージをディスプレイに映し出していることだろう。電源を切らなくては……。いや、もう火事になってしまう……。水、いや、消火器……。どこ……? 助けて……! ユーゴ! ……あたし、ユーゴの……

『決めた! あたし、ユーゴの……お嫁さんになる!……』

子供の頃、ユーゴと交わした約束。余りにも幼く、深い意味など考えもせず、小さな小指を絡ませて指切りをしたあの日。きっと、いや、確実にユーゴはそんな事忘れているだろう。
でも、ミルクは、その約束を思い出す度に、胸が熱くなる。
どうして?
自分の心に正直に向き合えば、簡単に答えが出て来るのに、余りにも近すぎて口に出すことを憚られた思い。
まだ『愛』とは言えない。それでも、その固い殻を破って、芽を吹き出そうともがいているのを感じる。
名付けるとすれば、ただの恋。『結婚』という言葉は、余りにも重すぎる。堅苦しすぎる。
でも、明日も、明後日も、ユーゴに会えないのは絶対に嫌だ。
そうだ。
ミルクの出すべき答えは、最初から決まっていた。

「……見て。ここよ。……痣……」

ミルクは、ベッドの上で仰向けになり、スカートを捲り、パンティをずらした。


  + + + + +


「然らば失礼して、拝見させて戴くでござる。……成る程、確かに花の紋、この印に相違ありません。……確かに間違いないのでござるが……。少々見にくい所にございまするな。いや、拙者が確認する分には問題ないのでござるが、我が主に報告せねばなりませぬ故……。その……、写真に撮って、送らねばならぬのです……。お許し戴けるでござろうか……?」
「もうどうにでもして……」
「その……周りに生えているものを剃って見やすくするという事でござるが……よろしいのでござるか……?」
「……構わないわ……」
「重ね重ね忝ない……。すっかり済み申したら、拙者のことを好きにするとよいでござるよ」
「……」
「……用意をするので少々お待ち下され」


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「あの……ミルク殿。御手を……」
「……ごめんなさい……くすぐったいの……」
「……ナデシコ殿、ミルク殿の御手を……」
「ごめんなさいね、ミルク様……」
「……う、ん……。は、ん……。はぁ……」
「……これで良し。失礼……。よく見えるようになったでござるよ。これを……、『ピロリ〜ン』……。これで、完了でござる。お疲れ様でござった、ミルク殿」
「……でも、……ふふっ。ミルク様のはチューリップなんですね。とても可愛らしい」
「……。……ナデシコちゃんのは……?」
「わたくしは百合でございます。多分……あなたも、ユーゴ様と何かご関係がお有りになりそうね……?」
「は……拙者は、菊にございます」
「ピコーも……?」
「は……! 及ばずながら私めもユーゴ陛下の為、命を懸ける所存にございまする」
「じゃあ切腹とか駄目じゃない。ちゃんとユーゴにお仕えしなくちゃ、ね?」
「恐れながら……、ニンフに召される者の数は決まっております。拙者がどうなろうと拙者の魂を継ぐ者がユーゴ陛下の元に集うのでございます」
「……でも……それでも駄目……。折角お友達になれたんだから……ね?」
「……何と有り難きお言葉……! 勿体のうございまする……!」

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ったく……!あんのタヌキじじぃ……!そういう事ならそういう事って先に言やいいのに!くぅ、まだ頭ががんがんする……!俺が戻って来れて、そん時まであれがまだ生きてたらただじゃおかねえ。
……まあ、この計画は俺の論文を元にしてるみたいだし、俺の夢というかロマンみたいなもんだからな……。しかしそれでも……、本当にやっちゃうかねぇ……。科学者と大金持ちがくっつくと倫理観が崩壊するという事例の最たるものだな。

「本当に俺達は乗ってるだけでいいんだな?」
『はい、加重力対策も、着陸態勢の制御も完璧です。全て坊ちゃまのレポートを元に考案されております。まさにコペルニクス的転回の発想、わたくし一目見て背中に電流が走りました。これはまさにおじいさまから坊ちゃまへのお誕生日プレゼントでございますよ』

俺がやるつもりではなかったし、もっと、ずっとずっと先のことだと思っていたんだが……。自分でできるんならもっとこう……。ま、いいか。


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小さな花壇の小さな双葉に、小さな如雨露で出鱈目な音程の歌を歌いながら水を撒く幼い女の子。
彼女のすぐそばには、地面の土を小さな手で握り締め、その感触を楽しむ、よちよち歩きの男の子。

「だ。だあ。うー。」
「あ、だめぇ!あんく!おはな、だいじだいじして。」
「だ?」
「レイキー、アンクー、ご飯よー」

遠くの方で彼女たちを呼ぶ声がする。

「あーい!いこっ、あんくぷん」

小さな女の子と小さな男の子は、大きな、苔むした建造物の中に消えていった。
空には太陽が、地球からの見え方に比べたら、ゴルフボールぐらいの大きさの太陽が、神秘的な青い夕焼けを展開させている。
太陽の近くには地球が、望遠鏡でしかそれと確認できない大きさで浮かんでいる。
実に興味深い光景だが、人類はきっと、これよりももっと奇妙な光景を宇宙中で見る事ができるだろう。




ending theme:Far Away


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