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作品名:L.e.v.e.l. 作者:赤鉈 塩

第8回   Level.8
                                                                                                        BGM:Insomniac
 次の日。
 そう、また次の日は来た。どんなに心配しようとそれはやってくる。
 来なければいいのに、と言う願いだけは聞き入れられない。
 もし、明日が来ないとしたら、あなたはそうなった事に気付きはしないだろう。
 今日と明日と昨日の区別が付く事、それが、あなたが存在している事の証拠なのだ。
 ……ついうっかりハイデガーを一席打つところであった。危ない、危ない。時々、少々ならよかろうが…な。
率直に述べると、ユーカの杞憂が本当になったのだ。

「レベルに登録している奴は集まれってさ」
「ああ、だろうな。今行く」
「?」
「昨日出てみたんだ。オレはそれほどでもなかったんだけど、寧ろいつもより面白かったぐらいで。でも、連れがなんか変だ、ってな」
「ユーカちゃんと? 二人でか?」
「んむ、ああ、まあ」
「バカヤロウ、あんまユーカちゃんに無理させんな」
「わかってるよ。すぐ帰ってきた。全然無理はさせてない」
「ま、お前なら大丈夫だろうけどな」
「みんな集まってるな。こういう時運動部系の奴は即戦力になるな」
「役に立たないのは、初期レベルの奴らか。あいつらを護りながら戦うのは骨が折れる」
「いや、あれはあれで使い途はある筈だぞ。例えばデリンジャーは、唯一オートターゲッティングが付いてる遠距離武器だし、初期レベルの特典で、デフォルトでキラーアラームを備えたアクティブレーダーも付いてる。余ってる奴からポイント貸して貰って最強にすれば、連射も確か十六ぐらいまで上がるし、威力もそれなりになる。そいつで、塀の上みたいな安全な位置からでも戦闘に参加すれば・・・」
「おーい、みんな。ちょっとシンゴの作戦を聞いてくれ」
「あー、いや、作戦という程でもないんだが・・・」
 その場にいる全員の目がシンゴに向けられる。
「ちょ、ちょっと待った。オレでいいのか? こういう事はちゃんとした奴がやらないと、命に関わるぞ。オレはそこまで責任は取れない」
「実戦経験のない教師の決めた方法より、お前の立てた現実的な作戦の方がいいに決まってる。頼むよ、シンゴ」
「まあそうだろうけど。じゃあ、提案だ。飽くまで提案。今からオレはでかい独り言を言う。参考程度に聞いてくれ。多分今からやろうとしてた事は、普通にパーティを組んで、普通に戦う、っていう事じゃないか? オレはそれでも構わないが、それだと、強い奴だけ残って、弱い奴はあっという間に戦闘不能になる。人数が少なくなれば強い奴も負担が多くなっていずれ潰れる。そこで、オレが提案するのは、全員生きて帰れる方法だ。先ず校門と塀の上に足場を組んで、狙撃台を作る。そこから遠距離攻撃で粗方掃除して、その後少数精鋭で様子を見に外に出る。こんなもんだ」
「よし、それでいこう」
「準備が大変だ。足場になりそうなものを集めよう」
「そいつは俺達に任せろ」
「悪いな。頼む。・・・先生、もしよかったら、メンバーリスト見せて貰えませんか?」

                                                                     BGM:恋は戦争
「頼りになるよ」
「七年前の事、覚えてますか? 実はオレ、あの時からハンターだったんです。これは長期戦になりますよ」
「籠城戦なら心配するな、物資は充分ある。近隣の住民の分まである。連れて来る事が出来さえすれば、だがな」
「ええ、それが出来るかどうかも試してみようと思います。しかし、オレの提案の主な目的は、一番低いレベルの人間の底上げです。今から始まる戦争に備えるためのね」
「う、うむ。戦闘に参加できる者は全て参加させよう」
「んー、無理矢理全員参加、という事はよくないでしょうけど、まあ少しは経験しておいた方がいいでしょうね」
「ふむ」
「それで、出来るだけ経験者と初心者、バランスよく混ぜた方がいいと思うので、えっとこれがメンバーですね。主に今回の作戦で使いたいのはアーチェリー部と弓道部ですから、」
「パーティ編成やりましょうか」
「おお、アキラさん。ではお言葉に甘えて宜しくお願いします。あ、ちょっと。もし出来るなら、男女も交ぜて編成してみて下さい」
「了解しました」
「最後は外に出て行くパーティか。言い出しっぺのオレが出るのは当たり前として、うーむ。とにかく最強で、攻防のバランスのいいパーティを目指さねばな」
「レージは?」
「ああ、あの突進馬鹿。しかしまあ先ず死ぬこたないだろうな。だがなあ、あいつのフォローが出来る奴となると相当だぞ?」
「お前の言う事なら聞くだろう」
「オレの声が届く範囲で暴れてくれればな。まあいい、一人目はレージ、と。後二人か。片付けはオレとレージでするから、自分の身を守りながら援護も出来る奴、出来れば女子がいいな」
「男女混合にこだわるんだな」
「うーん、というかオレの持論だが、男と女はイメージを共有しない分、互いを補い合う事が出来ると思うんだ。勿論個人差はあるだろうけど」
「なるほどな」
「あと、思春期だとお互いを意識し合って能力を最大限に発揮する事もあるかもな。いい所を見せたい、ってな」
「だったらユーカちゃん連れてけよ」
「ぶは!?」
「三人目決定」
「うぐぐ、マジかよ。覚えてろよ」
「あー、だったらさ、後一人はナナじゃねえか」
「 ? あぁあ、そういうこと?」
「そういうことそういうこと。ナナってレベルなんぼ? おお、凄い凄い。カテゴリーは? へえ、マシンソードってメチャクチャ扱うのむずいんだぞ。すげえな、バッチリじゃん」
「まあ、ほぼ最強だろうな?」
「ああ、がんばれよ」
「ちょっと外の様子を見てくるだけだ。もしこのパーティで無理なようなら・・・て、事だからな」
「とにかくチームシンゴを招集しよう。ユーカちゃん呼んでこい。レージとナナに声かけてくる」

 男の教師や柔道部や相撲部などの手により、即席の足場が組まれていく校門の前。
「何でアタシがレージと組まなきゃなんないんだよ」
 鋭い目をした少女が不満げに抗議する。しかし隣の、背の高いやんちゃそうな少年はと言うと、そのような言い方さえ意に介さず、寧ろ余計にテンションが上がっているように見える。実にわかりやすい。
「まあまあ。これでも熟慮は尽くしたんだ。多分これがベストの筈なんだ」
「レベルだけならね。ったく、まあいいけどさ」
「塀の上の準備が出来るまでゆっくりしててくれ。割と命がけっぽいぞ」
「大丈夫さ。あんたがパーティにいれば」
「だといいがな。自由にしていいけど、呼んだらすぐ来てくれよな。オレはこの辺りにいる」
「お仕事手伝おっか」
「あ、ああ。え、っと、そうだな。取り敢えず初心者の訓練だな。鎖の強さは、一番弱い輪っかの強さで決まる。」
「皆さあん、聞いてくださあい」
「あ、わ、悪い、いやほんと申し訳ない。あ、あ、テステス。えー、っと。あー、なんだっけ? ああ、そうだ。鎖の強さは一番弱い輪っかの強さで決まる。つまり、全ての輪っかが平均して強かったら、その鎖は頑丈、という事だ。誰か一人が強くても仕方がないって事だな。それでだ。パーティ編成を見てくれれば分かると思うが、アーチェリー部や弓道部などの経験者と、ぺーぺーの初心者とまぜこぜにしてある。経験者は率先して初心者の訓練をして欲しい。初心者が強くなればその分、経験者の生存率も上がるから、自分の事と思ってやって欲しい。そしてこれは参考までに、という事で、うーん、出来る者だけでいいって事なんだが、もしよかったら初心者の人間にポイントを貸してやって、デリンジャーを最強の状態か、それに近い状態にしてやって欲しいんだ。勿論持ってない物は貸せないから無理して貸さなくてもいいんだが、デリジャーは千もあれば最強になる。今ちらっと見たけど、一時間もバトれば千なんて軽く稼げる。利子を付けてもいいぐらいだ。余裕があったらそうして欲しい。あー、三十人くらいならオレのポイントも貸せるから遠慮なく来てくれ。それと、こっからが一番重要な事なんだが、基本的な戦い方についてだ。アーチェリーの特徴は一発毎にリロードしなくちゃならん事とチャージショットが出来る事だな。デリンジャーは連射できるが、何発か撃つ毎にリロードしなくちゃならない。初心者ならちょっともたもたするだろうから、一秒か二秒か攻撃が途切れる。それで、それらの弱点を補い合いながらやってみて欲しい。チャージしている間にデリンジャーともう一人のアーチェリーが一箇所に集めるように攻撃して・・・、ていう風なな。どうかな? 今の説明で分かったかな? 質問があれば受け付ける」
 ユーカから渡されたペットボトルのキャップを開けて一口飲む。こんなに長時間喋ったのは初めてだ。質問はなかった。そこまで無理な要求はしていないだろう。
「OK、もし試し撃ちをやってみたい者が居たら、出来上がった足場に登ってやってみてくれ。あと、もう少しポイントがあれば強化できる、みたいな奴も登っていいぞ。でもあんまり長居するなよ。マナーを守ってな」
 ふう。こんなもんだろう。
「お疲れ様。シンゴ隊長」
「こういうのは苦手なんだけどな」
「いやいや、立派立派」
「うるせえ、バカヤロウ。っと、進捗状況は?」
「おう、あと二、三基作れるらしい。それで全部だな」
「うん、速いな。そろそろ準備するか」

                                                                      BGM:千本桜
「開門!」
「っしゃあ! やンぞこらぁ!」
「おい、レージ! 正面は上の人間が片付ける。オレ達は先ず左に行こう。無茶するなよ」
 『止まれ』の標識みたいな長物をまるで小枝のように振り回す少年に声を掛ける。スピアーを扱うのはそれほど簡単ではない。突きが基本になる。リーチが長いので仲間に迷惑が掛かるからだ。しかしレージの場合、全くの我流で、それはもう扇風機のようにあの長いのを振り回して、ゾンビの塊に突進していく。本当にこいつを諫めるのは骨が折れる。だがこういう状況では頼りになるのも確かだ。
 しかしそれでも・・・。数が多過ぎる。圧倒的じゃないか・・・。まるで波のように押し寄せるゾンビの大群。塀の上からの援護射撃で幾らか減ってこの有様だ。もし、無策で外に飛び出していたらと思うとぞっとする。
「大丈夫か?」
「八! やってらんないね!」
 憎まれ口を叩きつつ、ナナは意外と楽しそうだ。ナナの手に握られている厳ついごてごてした機械がマシンソードの柄だ。刃がスペツナズナイフのように飛んでいく機構になっているが、スペツナズナイフと違って、傘ぐらいの大きさで、しかもこいつの刃は飛び出したきりではなく、柄にまた戻ってくる。柄と刃はエネルギーワイヤーで繋がり、柄のボタンやらスロットルやらレバーなんかで自在にコントロールできるのだ。勿論普通に近接攻撃も可能で、遠近兼用の万能武器だ。何といっても見た目がかっこいい。その上この難しい武器を自在に扱う様は実にかっこいい。そのためマシンソードのライセンス取得挑戦者は後を絶たない。実際にライセンスを取得できるのはごくわずかだし、ナナのようにオリジナルのコンボまで持っている人間となると、ほんの一握りだ。段位制度があれば間違いなく上位の有段者だろう。
「無理するなよ」
「わあってるよ。血、アタシにじゃないのかい? つまんないね。朱!」
 シンゴとしては、ナナとユーカ二人に声を掛けたつもりだったのだが、殿として退路を確保するべく、援護射撃が打ち損じたゾンビを始末するのに手一杯のユーカは反応しなかった。
「レージ! 帰る体力残しておけよ! お前がやられたらヤバいんだからな」
「おおう! まかせろ! なんかシンゴとはやりやすいぜ!」
 こっちがお前に合わせてやってんだよ、という言葉は飲み込んだ。このように飲み込んだ言葉は一体どこへ消えて行くのだろうか?

                                                                     BGM:彗星
「苦!」
「おい! ナナ!」
「大丈夫だよ! ちょっとミスっただけさ」
「待て! レージ! 戻れ! もう戻ろう! レージ! レージ! くそ」
 緊箍児の輪みたいなアイテムがあったら付けさせた方がいいかも知れない。
「アレをやる! 二人で飛べ!」
 シンゴは大きく剣を振り回して、さっきから豪快にゾンビの破片が飛び散っている辺りに向けて足首薙を放つ。
「アウチ!」
「帰るぞ! レージ!」
「ああ、わりいわりい」
 悪びれない所が憎たらしいが、逆にそういう所も友達が減らない理由とも言える。
「しかし戻るのもまた大変そうだな。弾幕薄いよ! なにやってんの!?」
 それでもまだ冗談を言う暇と余裕ぐらいはある。
「アシストアイテム持ってるか? オレは使った事もないんだが」
「今用意してる」
 ナナが取り出したのは確か製品名を『無効空間』という巫山戯た名前のアイテムだ。
「ちょい待ち」
 シンゴは迫るゾンビを一薙ぎして、それを校門の方に一メートル近い位置に設置させた。スイッチを押すと、エネルギーが噴き出して、大きめのテントぐらいの範囲に透明のドームを形成する。範囲内にはゾンビは近寄れなくなるが、同時にこちらの攻撃も無効になるアイテムだ。L.E.の純正品は信頼と実績があるものの、この光景は余り長く見ていられるものではない。
「スピアーのチャージ攻撃ってどんなんだっけ? 範囲攻撃か?」
「ああ、『天雷獅咬』。円周攻撃? かな」
「ん。丁度いいな。やるか? 肩貸す。乗れ」
 レージに背中を向け剣を杖代わりにしてしゃがむ。
「すまねえ」
「遠慮するな、しっかりやれ。あ、ほんの少し、後ろ目にな。降りる位置に気をつけろよ」
「やるぜ!」
「いっ、てこい!!」
 シンゴをトランポリン代わりに、四、五メートルは飛び上がっただろうか。放物線の頂点で、
「喰らえ! ナスティ・スコール!」
 正規の名称ではない、オリジナルの技名を叫んで、手にしたスピアーを思いっ切り振りかぶって下に投げつける。天からエネルギー化した無数の槍の雨が降ってくる。周囲のゾンビ共が一瞬にして蒸発した。シンゴは、わざと勿体を付けて、無効空間の効果範囲外に足を踏み出す。
「よし、次はオレだな」
 マックスにチャージされたサーペンタインを振りかぶると、レージに触発されてか、
「大! 波動断!!」
 と、叫んで振り下ろした。別に叫ばなくても出せるのだが、叫んだものは仕方ない。
 ランクAのオーバーカスタムツヴァイハンダー・サーペンタインのフルチャージ波動断。剣から放たれた赤く輝くエネルギーの光は、両側に聳える耐エネルギー障壁一杯に満ち、十メートル向こうの校門辺りを超えて、更に先にいたゾンビ共を一瞬にして蒸発させた。発生した衝撃波が、直線上にいたそのまた向こうのゾンビ共を大量に吹っ飛ばし、一時的に行動不能にした筈だ。
「やり過ぎたか? ちょっと可哀想になるな。走るぞ!」
「門開けてえ!」
 頭上から光の筋を降り注がせ続ける校門が、シンゴ達を迎えるように開く。ナナとユーカが門の中に滑り込むのを確認すると、射撃部隊が撃ち漏らしたゾンビをレージとシンゴが一匹ずつ斬り伏せてから、中に入った。

                                                                            BGM:ネトゲ廃人シュプレヒコール
「ふう、ざっとこんなもんだな」
 戦闘評価A、受けたダメージはナナの掠り傷とシンゴがレージに当てた足首薙のみ。ダメージはどちらも0だが、判定は判定だ。状況を鑑みれば上出来中の上出来だろう。
 ん?L.E.のサービスは支障なく継続されている?冷静になって考えてみるとこの状況はおかしい。でもまあ、このぐらいのサービスならホストコンピューターのオートプログラムでも出来る事は出来るか・・・。
「お? レベル上がったぜ! 二コも! おっしゃあ!」
 シンゴもレベルアップしたかも知れないが、カードの状態では、専用のドライブスロットに読み込ませないと分からない。50近くなると滅多にレベルは上がらないが、・・・いや、それよりもまずは・・・。
「ナナ、念のため医務室に行っとけ。ユーカ」
「カスリ傷だって言っただろう? 大丈夫さ」
「念のためだ、念のため。それと・・・、誰かL.E.と繋がる奴居ないか?」
「実は……、さっきから試しているんだが、全然つながらないんだ……」
「・・・やっぱりな・・・。もしかしたら、どこもこんな感じなのかも知れんな。対応に追われてるんだろう。これはひとまず、」
「シンゴ君」
「あ、生徒会長。丁度よかった。今から話を伺いに行こうと思ってた所です。いやはや大変な事になりましたねぇ。((・・・レージ、会長向こうに連れてったら上の奴、撤収させろ))さあさあ行きましょ行きましょう」
「シンゴ君。分かってらっしゃるわね。これは越権行為ですわよ。もちろん緊急事態というのは認めますが、」
「てめこら会長! こちとら体張ってンだぞ! その、その、」
「越権行為?」
「そうそう。そういう言い方あねえだろうよ?」
「越権行為って意味ご存じでらっしゃるの? レージ君」
「知らねえけどよお、なんか悪い意味だろうがよ」
「ですから緊急事態という事は認めたでしょう。通常でも外に出るのは危険なんですから、事前に生徒会の許可を得て、」
「まあまあ、オレ達にも非がある、やめろってレージ。無鉄砲に無策で飛び出して行きそうな勢いだったから、策を練ってやったんだ。出しゃばった真似して済まなかった。許してくれ」
「まあ、無事に帰ってらっしゃったんだから構いませんけど・・・」
「じゃあこれで」
「ちょっと、まだですわ。これから大事な話があるんですから。一緒に生徒会室にいらっしゃい。レージ君は始末書を・・・は無理かしらね。では、この件に関してはシンゴ君の的確な判断に免じて不問にいたしましょう」
「ちょ、待て待て。考えるのは上の人間だけでやってくれよ。オレは会議とか嫌だぞ」
「あなた以外にこの危機的な状況を救える人物なんて居ないでしょう? ほら、いらっしゃい」
「ああ、分かった分かった。分かったから引っ張るなって・・・」

                                                                      BGM:トップシークレット
 道成学園の生徒会は、周囲の都市自体が学園を中心に構成されているため、非常に重要な役割を担っている。よって、生徒会役員は特進コースの特に成績優秀な者の中から選ばれる。サユリは特別に優秀で、歳はシンゴの一つ下なのだがシンゴの同級生というややこしい設定(笑)で、特例中の特例という事で高等部一年で受けられるようになる特進コース選抜テストを中三の時に受け、全教科一位という快挙を成し遂げ、文句なしで会長に推薦された。彼女は所謂 “スキップ ”をしたのだ。二年の選抜テストでも(特進コースでは生き残りテスト、とも呼ばれる)当然同様の結果を残し、という事は、二年連続の生徒会長であり、これもまた異例中の異例である。
 さて、ここでまた読者は以前の記述と相容れない点を見つけたかと思う。それは、シンゴが学年トップの成績であるという所ではあるまいか。確かにシンゴは学年トップの成績である。特進コース選抜テスト以外では。 
 覚えてくれるまで何度でも言うが、シンゴの人生の目的は(略)である。シンゴの行動原理はこれに尽きる。
 この原理に合わぬ事態は少しくらい信念を曲げても、他人に迷惑を掛けない程度に全力で回避する。つまり、シンゴは特進選抜テストを全教科白紙で提出したのだ。当然これもまた史上初の珍事件である。何も白紙じゃなくてもよかろうに、と思うが、そこがシンゴの人柄を表していると言えよう。然りとて、豈図らんや他人に迷惑を掛けない程度、とはいったものの、この事件、些か各方面に波紋を呼び、特進コースのあり方や選抜テストの意義など、様々な問題点を浮き彫りにした、まさに道成学園の教育理念に一石を投じる事件であった。
 当のシンゴは、自分の信念が理解できない人間の事などお構いなしなので、そのうち学園は平静を取り戻していったが、抱え切れぬ蟠りやら痼りやらが溜まりに溜まっていた人物がいた。その人物こそ誰有ろう、生徒会長のサユリである。それもその筈、特進コースに籍を置きながら、常に学年三位というお粗末な成績(無論、上二人はシンゴと、シンゴに恋したユーカだ)であるにもかかわらず、その自分より上の彼らは特進コースにはいないのだから。彼女のレーゾンデートルは崩壊寸前、噛めるものなら本当に臍を噛み切って死んでやりたい(意味不明)、憎たらしい、という思いが積もり積もっていたのだ。とは言え、そんな感情などおくびにも出せる訳もなく、シンゴと接する時は、誰と接する時よりも、努めて冷静に対応するサユリさんなのだった。  
 ………………。
(先程のシーンと次の会議のシーンの間に特筆すべきイベントが起こったのだが、校閲されてしまった。それとなく変化を匂わせるように表現してみるので、類推しつつ想像を膨らませて欲しい。あ、この表現も駄目ですか。消します消します。ごしごし。アンドゥ機能は便利だな)
 ………………。

― + ―

直撃インタビュー!元関係者に聞くゾンビの正体
――
「そうですね。一番最初に言わなければならないのは、アレはゾンビではない、という事ですね。つまり、空想上の怪物である所のいわゆるゾンビではない、という意味ですが。
――
「いわゆるゾンビの特徴というと、死んだ人間そのものが動き回る、というイメージではないでしょうか。具体的な例を挙げると、特殊なウイルスに感染して死後も動き回るようになった、とかですかね。詳しくは知りませんが。もう一つの特徴としては、そのゾンビに噛まれるとやがてゾンビになってしまって、ネズミ講式にゾンビが増える、と。そういう映画、なかったですかね?
――
「そういうモノではない、と。
――
「ええ。もちろん噛まれると痛いですし、実際不衛生ですから何かしら病気に罹ってしまうかもしれませんが。決して、自分もゾンビになってしまう、という事はありません。
――
「そういう事になりますね。実の所、奴らへの有効な対処法が考案されたのも、同じような指摘があったからなんです。丸京大学の北殿顯士朗名誉教授、あの方が社説に寄せられたものの中にあったんですね。教授は、かなり早い段階で、奴らはゾンビではない、と指摘していました。もうその頃はバカみたいな噂でもとりあえず耳に入れておこう、という状況だったので、名誉教授という事で、藁よりマシなものと、飛び付きました。普通の物理的な攻撃が意味がないなんてねえ、本格的に人類終了って思いましたよ。ほら、最後はロケットランチャー、とか、ゲームとかでよくある奴。
――
「ここから先はあんまり詳しくはお伝えできませんし、信じてもらえないとも思いますけど、とりあえず、かいつまんで説明しますね。L.E.の公式見解ですけど、『穢れた土に死者の魂が展着し、意志を持つようになった』と。うーん、わかんないですよね。僕もいまだに正確にはわかりませんし。
――
「詳しくはちょっと勘弁して下さい。電気的化学的に『浄化』する、という説明で、どうでしょうか。
――
「ああ、そうですね。『キラーシリーズ』と呼ばれるタイプのものです。というか、こっちが勝手に名付けたんですけど。恐らく、条件の良い『穢れた土』に通常より多くの魂が『展着』した事によって、異常に強い個体になったものと考えられます。普通の個体とまったく区別が付かないので、多くのハンター達がこいつらに殺されてしまいました。それを教訓に開発されたのが、あなたのにもキラーアラーム、付いてますか? 詳しい仕組みは企業秘密ですが、キラーシリーズを見分けて注意を促すアクティブレーダーです。この機構により、より安全にゾンビを始末する事が出来るようになりました。
――
「あ、ゾンビじゃないですね。でも、別に構わないと思いますよ。見た目はまんまゾンビですし。
――
「いえいえ、こちらこそ、どうもありがとうございました。」
                                           「週刊サルヂエ」より一部抜粋


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