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作品名:L.e.v.e.l. 作者:赤鉈 塩

第4回   4
BGM:just a game
 文章にも書けない衝撃的な共通体験によって、急速に緊密になった二人。
 しかしここは、敢えてその事は表に出さず、秘密裏に、慎重に、交際を進める事にする。
 なぜか分からないがその方が自分達にとって都合がいいような気がしたのだ。
言わずもがな、学校にいる間セックスしなければいいだけなので、改めて慎重にならなくても、ごく普通に学園生活を送っていれば、ごく普通の生徒のように見える筈だ。多分。どうかな。わからない。
「シンゴ君、水曜の数学のノート取ってる?」
 シンゴは普段ノートを取らない。勉強が嫌いなのではない。記憶力がいいのだ。もし自分の記憶からすり抜ける物事があるとしたら、それは記憶する程の価値が無かった、という事だ。シンゴがノートを取る場合は、このシンゴの学習理念に理解を示さない、ファシスティックな教師の欲求を満たしてやるためだ。シンゴ自身は板書を書き写す事が学習能力を高めるとは思わない。まあ、モデルを精密に描く練習とか、嫌な教師と折り合いを付ける能力のトレーニングと思えばいい。偏見かも知れないが、数学の教師にそういうのが多いような気がする。
「ああ、取ってる」
「エミィが休んでたのマツキチが忘れてて、提出してないって五月蠅いの。貸してあげて」
「いいとも」
 この会話のどこに不審な点があろう?
 もしかしたら言葉の端々や些細な態度に、微妙な変化があったのかも知れない。要するに…、
 勘のいい親友にあっさり交際を見破られ、かなり広範囲に言いふらされてしまったのだ。
 万事休す…、という程ではないが、厄介な事になった。
 二人とも根が変人なので、そうと意識していないが、見た目は美男美女である。
 考えるに、人というものは、無いもの強請りをするものである。何というか…自分に釣り合わない、美しい少女と付き合ってみたい、とか、友達に自慢できる、かっこいいイケメンを彼氏にしたい、とか。それを同時に叶えたのが、シンゴとユーカだったというわけだ。羨ましい、うまくやりやがって、こん畜生、etc、etc…。
 二人は、祝福のオブラート(そう、それは脆く破れやすい)に包まれた、好奇と羨望と嫉妬のシャワーを、盛大に浴びせ掛けられる事に耐えなければならなかった。
 ここに迷惑の例を挙げ、諸兄各位に注意を促したい。
 先ず、何かに付け話題に取り上げられるようになった。前に書いているが、シンゴがこの学校に入ったのは、本を厭きるほど読むためだ。この時点ではそれ以外の人生の目的は見いだせていない。誰にも邪魔されず、ひっそりと本が読みたい。ただそれだけが小さな、そして唯一の幸せだった。
 それはあの日を境に破られた。誰もが二人を放って置かなくなったのだ。もう、一挙手一投足を冷やかされた。自分だけの問題ならシンゴは気にしない。だがこの問題には相手がいる。ユーカを傷付けたり、嫌な思いをさせたりするわけにはいかない。朴念仁の人でなしかと思っていたのに、こうも変わるのか。恋って素晴らしい。
 そこでシンゴは一計を案じ、『ユーカとは付き合っているが、キスもした事がない』と説明する事にした。
 今ではそれさえ愚かな、浅薄な言動だったと大いに反省している。ここからはもう書きたくない…。
 一応どうなったかだけ手短に。
 みんなの前でユーカとシンゴはキスをすることになりました。どうしてそんなことになってしまったのかは分かりません。思い出したくもありません。おしまい。
 しかしその後、冷やかしの報告件数が大幅に減った事は追記しておかなければならない。つまり、事実婚として承認されたというところか。人というのは奇妙なものである。

― + ―

リビングデッド・エンタープライズ【Living-dead Enterprise】 :地の底から湧いてきたモンスターに対処するべく、様々な業種の企業が結集して立ち上がった、モンスター対策専門の統合企業集団。通称、〔L.E.〕。現時点で世界に同じような業態の(モンスターの掃討、警備の依頼等直接モンスターに関わる以外の方法で利益を得る)企業はない。日本政府から代替統治を委託された企業でもある。
                        「新世界重要キーワード事典」サルヂエ学会


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