お・ま・け☆
BGM:キミ想い、片想い 「お兄ちゃん!」 シンゴは声のした方を振り返る。シンゴには妹はいない。シンゴの事をそのように呼ぶ人物はただ一人。 「なんだチドリ。勝手に高等部棟に入ってきちゃ駄目じゃないか」 チドリ、というのは子供の頃からずっと一緒に育ってきた、近所の幼馴染みだ。シンゴの一コ下なのだが、家族ぐるみの付き合いで、いつもせっついてくる。 「ちゃんと許可もらったよお。ほら、アイちゃん」 チドリは隣に、同じ学年と思しき少女を、まさに『連行』していた。もじもじと恥ずかしがるような仕草でシンゴを眩しそうに盗み見、半ばチドリの体に身を隠すように、寧ろ隙あらば逃げ出そうとしているかのように所在無さげにしている。 「同級生か?」 「うん。アイちゃん、っていうんだよ。ほおらあ、アイちゃんってばあ」 「そうですか。いつもチドリがお世話になっております。こいつのオモリは大変でしょう?」 「はうう、い、いえ・・・。そ、そん、な、こ、とは・・・」 「もおお。アイちゃん、お兄ちゃんに渡したいものがあるんだよねえ? ほらほらぁ」 「?」 「もおおお、お兄ちゃんもどぉんかあん。今日わぁ、何の日でしょお?」 「今日? 今日がどうかしたのか?」 「じゃあああん! はっぴい・ばれんたいいいいん!」 そうだった。今日まで連綿と続く悪しき習慣の一つ。無意味で、不毛で、不利益で、非生産的。いったいいつになったら人間はこのような愚かな行為と決別するのだろうか?このような行事一つ無くせないで、犯罪、食糧不足、政治の不正、ましてや戦争といった、真に愚かな行為など無くせるものではない。ふっ、認めたくないものだな・・・。 ・・・そうだ。今年の学園祭の図書部の出し物、小説にしようかな。ヴァレンタイン・デーという単語が出てこない話。うん。そうしよう。 電脳世界が舞台で、ぼくがチート的存在としてその世界を救う悲劇のヒーローになるんだ。 ぼくは・・・うん。オッドアイの大剣使いで、不幸な生い立ちがあって、自分で望んだわけではないのに最強の力を持っていて・・・。で、片眼の色が違うことにコンプレックスがあって、それを隠すためにその力を使うんだな。 よしよし、乗ってきた・・・。 あ、ユウカちゃん出そうかな・・・。かわいいよなぁ・・・。よし、あの子は、・・・後で考えよう。 それと、五年の時ぼくをいじめたレイジ、あいつはフルボッコにしてやろう。 ヤス君はどうしようかな。一応親友だし、一番いい死に方を・・・。一番いい死に方ってどういうのだ・・・? ・・・でも、まあ、何とかなるだろう・・・。
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