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作品名:L.e.v.e.l. 作者:赤鉈 塩

第15回   B.A.B.E.L.
                                Opening theme:Fairy-taled
「掲示板見たか? イキメの森のどっかに洞窟があって、そこ出るらしいぞ」
「じゃあ、週末パーティ組んで行ってみるか? 誰と行く?」
「サーラと……、後一人は……ナデシコか、カヤはどうだ?」
「おっ、いいねえ。タカは目の付け所が違う」
「「ぎゃはははは」」

 まったく、何と下品な笑い方が出来るのだろう。男子は二人揃えばこういう話ばかりだ。いや、少し言い過ぎかも知れない。勿論、中には好感の持てる男子もいるにはいるが・・・。アリスは教室の片隅で、誰にも悟られぬよう小さく溜息をついた。
 しかし、良い事を聞いた。掲示板は情報量が多過ぎるうえ、情報の入れ替えが目まぐるしく、いちいちチェックするのは難しい。確かに男女混合は推奨されているが、飽くまで推奨なので、女子だけのパーティでも問題なく組ませてくれる。イキメの森は庭のようなものだ。早速、スズナを誘って今日の放課後にでも行ってみよう。あの子は大人しくて頼りなさそうに見えるけど、あれで中々どうして援護と回復の成績は人並み優れて良い。
 そうと決まれば昼休みのうちに、クエストを申請しておかなくては。手続きだけしておけばどうにでもなる。
 アリスは、もう違う話をしている男子達に気取られぬよう、ただひたすらさり気なく教室を出て行った。

「すいませーん。ナナ先生いますか?」
 職員室の扉を開ける。職員室には、背の高い男の教師しかいなかった。アリスに気付くとにやけながら近付いて来る。
「おう。なんだアリスか。どうだ? やってるか?」
 この男の口癖だ。セクハラですよ、と訴えてやりたいが、実際悪意がある訳ではなく、単なる挨拶だ。
「クエストの申請をお願いしたいんですが、ナナ先生いますか?」
「なんだよ。そんぐらい、俺でもできるぜ?」
「わたしはナナ先生に提出したいんですけど」
「俺じゃ、役不足、ってか?」
「使い方間違ってますよ、まったく。教師のクセに」
「ンだとくら、生徒のクセに」
「ふふ、じゃあ宜しく頼みますよ。レージ先生」
 職員室正面のボードに書いてあったが、恐らく今は職員会議が行われているのだろう。あの槍術教師だけいたのは、留守番か、バックれたか。十中八九前者なのだが、日頃の行いの所為で一、二割疑われるのだ。
 一抹の不安はあるものの、曲がりなりにも教師だ。手違いなどあるまい。アリスは、背の高い槍術教師に申請書を渡し、一礼して、職員室を後にした。

 ああ、ナナ先生。お会いしたかったなあ。担任でもないと、他のクラスの教師に会う機会は少ない。もう、ナナ先生は、めっっっちゃくちゃ、かっこいい。あのナナ先生があの無粋なレージ先生の奥さんだなんて、未だに信じられない。ホント、どこが良かったんだろう。昔はぶいぶい言わしていた、とは本人の談だが眉唾ものだ。
 まあいいか。届け出も済んだし、後はスズナに声を掛けなくては。
 スズナは、ナナ先生とは一八〇度ベクトルが違うが、これがまた魅力的な眼鏡少女だ。ぐふ。おっと、いかんいかん。何というか、嗜虐趣味をそそられる、というか。
 うむう、文学的な香りを醸し出してもフォローが出来ないな。仕方がない、バラしてしまえ。アリスは、実は、女の子が好きな女の子なのだ。本人はこれでも隠し通しているつもりなのだが、男子に対する態度と女子と接する時の態度が著しく違うので、よくよく観察すれば分かる。
 これでもアリスは保守的な方だと自分で思っている。本命のナナ先生は既に他人のモノだ。手を出す訳にはいかない。しかしスズナは・・・。スズナ・・・。春の野原を彩る愛らしい花の名を持つ少女。その素朴な花のイメージそのままにアリスの心の内を疑う事なく、純粋無垢に快く付き合ってくれる。
 あれはいい娘だ・・・。
 あ、いっけない。妄想してたら、午後の予鈴が鳴っちゃった。急いで戻らなくっちゃ・・・


 イキメの森。学園の近くにあるものの、未だ未踏地が残る広大な森林地帯だ。アリスもここへソウルハントに足繁く通っているが、今回のクエストの詳細マップを貰うまで、こんな所に洞窟があるとは気付かなかった。
 確かにソウルレーダーに反応がある。
「おじゃましまーす」
 大きな洞窟ではないが、身を屈めなければ進めない程ではない。ブロードソードを鞘から抜き、戦闘態勢で慎重に進む。
「後ろ警戒しててね、スズナ」
「うん。今のところ異常はないよ、アリスちゃん」
 洞窟はそれほど深くなく、しかも一本道だ。きっと四人で来たら拍子抜けしてデートにもならなかっただろう。
「・・・いた」
 宙をぐねぐねと飛び回る濃密な闇。死者の魂が幾つも集束して凝り固まり、目に見える程物質化したもの。
 まさに、魂の塊『魂塊(ソウル)』とはよく言ったものだ。
 素早く印を切り、術式を展開する。集中して・・・
「アリスちゃん! ね、ネコ・・・!」
 集中が途切れ、できかけの封印八卦がパキン、という音と共に崩壊する。
 振り返ると、大きなマーブルタイガーが入り口を塞いでいた。
 しまった。この子の塒だったのか。入る時もっとよく調べていればすぐ分かる筈だったのに、迂闊・・・。
 封印が解けて自由になったソウルが、アリスから離れるように、洞窟の奥に一旦ぶつかった後、アリスの顔を掠め、入り口の方へ飛び出して行く。突然のソウルの突進にマーブルタイガーは身軽に退き、洞窟の入り口は通れるようになった。
 洞窟からは出られるようになったが、まだまだ厄介事は続く。ソウル独特の興味深い動きに、ネコの本能を擽られ、マーブルタイガーはソウルを追いかけ始めたのだ。追いかけられるまま、ソウルは旧市街を目指す。
 アリス達も必死になって追いかけるが、人間の脚で追いつけるものではない。
 その時、『パシュン、パシュン』という銃撃音と共に、
「アリス! やっぱり来てたのか!」
 聞き慣れた声が近付いてきた。
「「ユーゴ!」さん!」
 フローターに跨り、マーブルタイガーをハンドガンで威嚇しながら、ユーゴはアリスを注意する。
「まったく、無茶しやがって! 慣れた頃が一番危険なんだ! 先生に習わなかったのか?」
 ぶー。反抗的な顔はしたが、心の中では、いつもピンチの時に現れてくれる頼もしい弟を誇りに思っている。しかしながら、ハンドガンではすばしっこいマーブルタイガーを仕留める事は難しい。
「ソウルが!」
「心配するな。向こうでトラップ張ってる。ここら辺のを纏めてふん縛ろうって寸法だ。よし、行ったな。オレももう行く。ネコは頼んだぞ!」
 疾風のように現れて、疾風のように去って行った。フローターに乗って。二丁拳銃じゃない所が惜しい。
 さてと。
「ネコどうするの? 殺さないと駄目? ・・・だよね。術式の邪魔されたら大変だもんね」
「暫く邪魔にならなきゃ良いんでしょ? ウォールで囲んじゃおうか」
「あ、そだね。良い考え。やっぱりアリスちゃんだ」
 ソウルが出没しやすい『穢れた』土地では多くの生物に異常な変異が見られる。マーブルタイガーもその一種だ。元はただのネコだった。生物それぞれによって違いはあるが、往々にして巨大化するようだ。
 ソウルハンター・アリスの標的はソウルのみ。あ、これにて一件落着う。
「行こう!」

 ユーゴはアリスの一つ年下の弟だが、既に軍人、階級も大尉だ。尤も、能力と働きで見れば中将クラスでも良いくらいだが、年功序列は厳しい。才能も勿論あるが頑張り屋さんで良く気がつく。いろんな事を先回りして考え、それに合わせて行動する。弟ではあるが、目指すべき目標でもある、というのは実に複雑で、さっきみたいに裏腹な反応をしてしまう。ちゃんと、助けてくれたお礼言わなきゃ。それこそ、ソウルハンター・アリスの名が廃るってもんよ。

 森を抜け、開けた所に出て来た。旧市街地。読んで字の如く、その昔街があった所だ。街の一角に軍の(キ)―変換できず。鬼にょうに機のつくり―動兵器が騒然と集まっていて、古びた小さめのビルを、黒いピラミッドのような巨大な三角錐が覆い隠している。
「なにやってんの! ユーゴ!」
「何って、ビルごと封印するんだよ」
「もう、そうじゃなくて! 中に誰もいないの確認したの?」
「見れば分かるだろう? こんなビルに住んでる奴はどうなったって構わない奴だけさ」
 アリスは鬼のような形相でユーゴを睨んだ。
「う、冗談だよ。一応型どおりの警告はしたさ」
「・・・じゃあいいけど」
「アリスの許可が降りたぜ。仕上げだ、いくぞ!」
 ユーゴが止め印を切ると、三角錐が分裂して立体の中心を軸に反転し、巨大な黒い金平糖が出来上がる。
 過圧多層二重構造三次元結界反転半捻封印縛鎖。何人もの上級軍人が関わらなければ完成しない強力な封印だ。
 涼しい顔をしているがユーゴが一番エネルギーの消耗が激しい筈だ。常人なら話しかけただけでも術式が失敗するのに・・・。うう、ごめんなさい。
 黒い金平糖がまるで硝子で出来ていたかのようにばらばらに砕け散っていく。その破片は、白い光となって、空高く舞い上がっていく。封印が成功したのだ。ビルを鉄骨剥き出しの哀れな姿にして黒い破片は消え去っていった。
「ふう、上出来上出来。みんなあ。お疲れさあん。とっとと帰って飲もうや」
「こおら。未成年」
「オレじゃねえよ。おっさん達は飲むために仕事してんだからさ」
「ふふ、お疲れ様でした。ユーゴさん」
「スズナさんこそ、いつもアリスに付き合って下さって有難うございます。そうだ、日頃のお礼をさせて下さい。うちに寄っていかれませんか?」
 わたしのスズナを口説くなー!
「いいんですか? じゃあお言葉に甘えて」
 スズナも頬を赤くするなー!
 ん?うち?うちに来るの?スズナが?こ、これは、スズナともっと深くお近付きになるチャーンス!ついに、『アリスちゃん』が『アリスたん(はぁと)』に・・・!よ、よし。こ、ここわ慎重に行動せねば・・・。
「お腹空いたなー。なんか作ってよユーゴ」
「ああ、いいぞ。じゃ、ちょっと材料調達しなくちゃな。先に帰って風呂でも入っとけよ」
 おっしゃあ!スズナと二人っきりい!ざっとこんなもんよ。


 スズナの眼鏡は伊達だ。実は凄く目が良い。何故眼鏡をかけているのか?それはこの、彼女のでっかいおっぱいと関係がある。スズナの胸は成長期の早い段階から大きくなり始めたため、目立つようになるとすぐに、男子はあのいやらしい目で舐めるように眺め腐り、『デカパイ』という極めて頭の悪い仇名で彼女を揶揄するようになった。その仇名を使った男子は一人残らずアリスが泣かしてやったが、それ以来巨乳はスズナのコンプレックスとなり、胸を押し潰し、胸が目立たなくなるような服を選び、背中を丸めて歩くなど、涙ぐましい努力を試みていた。
 しかし、胸の成長は留まる事を知らず、胸を締め付ける苦しさに耐えるのも限界が出て来ると、眼鏡をかける事によって、巨乳の印象を少しでも別の方に逸らさせようにしたのだ。
 それによって得られた効果は、『デカパイメガネ』という、アホ丸出しのそのまんまな仇名に付け直された、という事だけだった。勿論その男子もアリスの気が済むまでこてんぱんに伸してやったが、それからというものスズナは眼鏡をかけるようになったのだ。

 しかし、それにしても・・・デカイ!おっぱいって水に浮くのかー!す、すげー!CMの後、衝撃の新事実発覚!という感じだ。それに比べてわたしは・・・。とほほ。同じ生物、同じ化学組成をしているとはとても思えない。
 チクショー!完全体になればー! ・・・なぁんちゃって。今こそ!同性という特権を天高く振り翳すべき時!
「良いなー。スズナ、おっぱい大きくて羨ましいよー」
「そんな事ないよお。ヤな事いっぱいあるよお」
「半分分けて欲しい」
「んふ。そんな事が出来たらいいのにね」
「あや」
「アヤ?」
「かり」
「カリ?」
「たいっ!」
「きゃああぁあぁああ!」
 んほー!やーらけー!
「も! もう・・・!」
堪らん・・・!
「う・・・! くぅ・・・ふ」
ふおおおお。
「は! ・・・ん・・・! ん!」
君がッ!
「んふう!」
泣くまで!
「も・・・やめ・・・!」
揉むのを!
「て・・・!」
やベシ!?
「えい!」 ベシ!
「・・・ごめん。調子に乗り過ぎた」
「・・・・・。」
 スズナは涙目で胸を押さえている。
あと、神様にも謝らなくては。不謹慎な用い方をして申し訳ありませんでした。
(…一分間反省…)

 冷たい床に寝そべって、アイスを囓りながら、少し逆上せてしまった体を冷ます。扇風機の風も気持ちいい。スズナは窓際に腰掛け、濡れ髪をタオルで押し拭いている。いろっぺー。ホントに同級生か?
 見るに付け、この少女は絶対に幸せにならなくてはならない少女だ。わたしがしなくては。そのためにはもっと強くならなくては。今日のような無様な失態はもうしない。そのためには・・・。
 アリスは起き上がり、スズナを真正面に見て胡座を掻いた。
「・・・スズナ。今度の日曜、試しの塔に付き合って欲しいんだけど」
「うん、いいよ。アリスちゃんは頑張り屋さんだねえ」


Insert theme:1/6
 試しの塔は学生パスを使って行ける範囲内で唯一の、魔獣化したソウルが出没するダンジョンだ。殆ど学生専用の修練場になっている。どういう仕組みかは知らないが、個々の能力やパーティの編成などに合わせて、最も適した魔獣が現れ、学生達を、ぎりぎりクリアできる程度に苦しめる。教師にとってはとても便利な場所なので、試験なども主にここで行われる。

「うおー! あーぶなかったー!」
 最上階から、屋上へ通じる扉が勢いよく開かれ、アリスとスズナが飛び出してきた。
「はあ、はあ、さっきの、マンティコア、はあ、ちょっとやばかったねえ」
「でも何とかなった、でしょ?」
「うん」
 目の前には、遠くまで見渡せる雄大な景色が拡がる。屋上には、何故か魔獣は出て来ない。
「はー、お腹空いたー」
「うん。わたしもお腹ペッコペコ」
「お昼にしよっか?」
「うん!」

 アリスは大きなおにぎりを一つ。スズナは可愛いバスケットにサンドイッチ。
「はい」
 スズナがアリスにサンドイッチを一つ差し出した。
「いただきあふ。ん、んむ、んんん!」
 んまーい!具は薄くスライスした甘辛チキンだ。嫁にしたい。いいや限界だ!するね!噛み締めながら、大きなおにぎりの、歯形の付いてない方を、半分スズナに渡した。
「はい、ありがとう」
 スズナは、渡された半分のおにぎりを更に半分にして、大きい方をアリスに返す。まったく、小食なんだから。一体何をどれだけ食べたらそんな大きなおっぱいになれるというのか。
 スズナから差し出された四分の一個を平らげ、片手を空かして、お茶を飲み、一息つく。
 至福の一時だ。

 アリスとスズナが行動を共にするのには、恋愛感情(一方通行)以外にも理由がある。それは、ある重大な秘密を共有しているからだ。というか寧ろこれが最も大きな理由であって然るべき、と言える。その秘密とは、父親が同じ、つまり異母姉妹、という事だ。まあこれだけなら普通かも知れないが、最も重要な秘密は父親にある。何と彼女達の父親は、魔王なのだ。勿論一般的にそう思われている、というだけなのだが。
 一般的に流布している、つまり、学校で歴史として教えられている史実はこうだ。
 世界は死者を司っていた魔王によって一度メチャクチャになったが、アカシア、という伝説のハンターが、今の世界の基幹となる部分を造りあげ、その後、命を賭して魔王を何とか封印する事に成功し、今に至る。
 だが魔王の力は、まだ完全には滅しておらず、魔王に操られた死者の魂が世界に漂っている、という。
 しかしそんなのは嘘だ。・・・あ、違った。

 嘘だッ!!!

 本当は魔王などいない。実の所アリス達の父親は、死者の魂の管理をしているのだ。アリス達の母親を含めた数人の女性が、妻としてその仕事を支えている。そういう所は女として、どうかと思うが、『死者の魂』という考えも及ばない程特殊なもの(もの?)を扱っているのだから、きっとそれなりに事情があるのだろう。

「スズナのママ・・・。元気?」
「・・・うん」

 スズナの母親はとても素敵な女性だ。彼女とはとても気が合う。とびきり明るくて元気なおばさま、んーん、お姉さまだ。こんな大人しい娘の母親とは思えないが、そんなものだろう。アリスの母親も、アリスと違って、おっとりしてよく気が利く優しい母親だ。余り頻繁には会えないけど、大好きだ。

 アリスには夢がある。野望と言ってもいい。
 いつか、架空に過ぎない伝説のハンター、アカシアを超える、有名な伝説のハンターになって、この世界の嘘を曝露してやるのだ。そして、アリスの隣には、王妃の盛装をしたスズナが・・・。
 いや、今でも充分幸せなのだが、目の前の光景を見ていると、とんでもなく壮大な野望がふつふつと湧きあがってくるのだ。

 地平線の彼方からでも見える、天へと突き刺さる一本の柱。
 【B.A.B.E.L.】
 一般の人々は “浄化された魂を集める装置 ”と思っているが、それも勘違いだ。
 軌道エレベーター。まだ完成には程遠いが、あの塔は宇宙に向かって伸び続けているのだ。
 計画した本人から聞いたのだから間違いない。正式名称は・・・
 〈B〉uilding for 〈A〉ll human kind 〈B〉elieve in 〈E〉verything need 〈L〉ove  ・・・だそうだ。
 ソウルの《質量が0であるにも関わらずエネルギーを持つ》という性質と、《一定量のエネルギーを加えると融合する》という性質を利用した、自律的に成長する人工建造物。根っ子は最深で地底数qの深さに及び、今ではセイソウケン(?)に達している、らしい。
 気の遠くなる程遠大な話なので半分も理解できなかったが、何とも愉快な話ではないか。
現在を形作り、過去の者となった死者の魂達が、未来に生きる人類の礎になるのだ。
 アリスにとって、あの、屋外にいればどこにいても見える壮大な建造物は、人間の無限の可能性を、まざまざと見せ付けるシンボルとなっている。
 そもそもバベル、というのは、昔の人が天を目指して造ろうとした塔の名前らしい。昔の人も、大したものである。
 アリスが、彼の話を聞いた後、今度は自分の夢を語って聞かせると、優しく微笑んで頭を撫でてくれながら、『願いとは常に個人的な約束だ。自分との約束は自分で守りなさい』と、言ってくれた。

 今日も、世界各地から、キラキラと美しい光の筋が、塔を目指して集まってくる。塔に近付くと、角度を変え、天に向かって、塔の周りを螺旋状に駆け上がっていく。この光景は幾ら見ていても厭きない。
 死者の魂なのだから見世物ではない、とある人たちは言うが、アリスはそうは思わない。 
 この光は、今を生きる人たちの魂を震わせ、明日へと向かう心の糧となる。
 それで良いではないか。
 あの光が誰かは知らないが、今、この瞬間、最後にアリスの心を震わせたのだから。
 ただ生きているだけでは、そんな事出来ない人はいっぱいいる。
 この光は、その人が生きていた証なのだ。

「ご飯粒付いてる」
「ん、ありがと」
 さて、と。
「戻ろうか?」
「うん!」
 さあて、来週はどこに行こう?

                                 Ending theme:StargazeR




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