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作品名:L.e.v.e.l. 作者:赤鉈 塩

第14回   14
― 最終楽章 ― メドレー 〜 骸骨楽団とリリア、KILLER LADY、からくり卍ばーすと

「学園の中でシンゴ君のことを覚えているのは、この八人だけみたいね」
「不思議ね。まるで、シンゴ君が最初から居なかったみたいに綺麗さっぱり忘れ去られているなんて・・・」
「共通点は、女の子、ていうことだけか・・・」
「あの・・・共通点、他にございますよ?」
「ヒナさん・・・?」
「シンゴ様と深いご関係にある方々でございます。シンゴ様はまさしく太陽王たる資質をお持ちになられるお方。皆様はそのシンゴ様に仕える・・・」
「おほん。わたくしからご説明致します。昔々、シンゴさんの一族は、とっても凄い人たちだったのね。で、わたしたちのご先祖様はその人に仕える立場の人たちだったの。だけど、時代が変わって、そういう人が一人で絶対的に支配するんじゃなくて、民主的に、みんなで話し合って決めよう、てことになってきたのね。それで、シンゴ君のご先祖様は、自ら身を引いて、一般の人たちにそういう事を任せるようにしたの。でも、世界を支配できるぐらいの力は持ち続けていたから、そういう力を使って、裏から世界を微調整していたんだって。でもね、ある時、多分何十年も前の話だと思うんだけど、シンゴ君の一族に仕える一族の一人が、野心を抱いて、自分が世界を支配しちゃおうとしたんだって。でね、シンゴ君のお父さんがそれを止めようとしたんだって。で、その野望は潰えたんだけど、タイミングが悪かったのか、こういう、今の世界になっちゃったんだって。 ・・・この説明で合ってますか? ヒナさん」
「明晰にご理解戴き感謝致します、サユリ様。まったくその通り、しかも簡潔にわかりやすく要約されております」
「あたし達が、そのシンゴに仕える一族だった、てわけ? う〜ん、いきなりそんな事言われてもなあ」
「わたくしもそう思います。それで、皆さんに提案したいことがあります。シンゴさんに直接ご説明をして戴きたいのです。皆さんもそう思われませんか? 恐らくシンゴさんはL.E.本部に行かれたのだと推測されます。女子だけでは心許ないので本意ではありませんが、致し方ありません。ヒナさんのロボット、ヒョードル君も出張って戴けるなら、道距は幾らかでも安全になるのですが、如何ですか? 皆さんはどうですか?」
「異議なーし!」
「わたくしも異存はございません」
「あのう・・・、二人ぐらい、レベルに登録してない人がいるみたいなんだけど・・・?」
「登録はしてなくても、パーティには加えられるよね?」
「そうね。その人を護りながら戦わなくちゃいけなくなるけど・・・」
「パーティの編成も考えなくちゃな。能力のばらつきも気になる。あたしとユーカは結構やれると思うけど、他の人達はどう? 会長さんは、超初心者でしょ?」
「関係ない人たちを巻き込んじゃまずいかもだけど、誰か一緒に行って貰おうか?」
「帰り、その人達だけになっても大丈夫な人達、か・・・」

@ @ @ @ @

CAUTION!! LAST MISSIONのお知らせ
腕に覚えのある者、指定する場所に集え! このミッションが最後になる! 心してかかれ!
※こちらの不手際で、皆様には大変ご迷惑をおかけ致しました。実は、この度わたくしどもは、この不毛な戦いを終わらせる妙案を捻出するに至り、その下準備をするために、一時サービスの質が低下していたのです。このミッションには出来るだけ沢山の皆様のお力が必要です。我こそは、と思われる方、是非奮ってご参加下さい。
但し、パーティは組まず、ソロで参戦せよ。
もし、ミッションコンプリートの暁には、…そうだな…、世界の半分でもくれてやろう。

ミッションに参加しますか?

YES \ NO

本当に参加しますか?そんな装備で大丈夫ですか?

YES \ 大丈夫だ問題ない

@ @ @ @ @

「ナナ、もし、俺が、このミッションから無事に帰って来れたら、お、俺と……」  魔法カード「死亡フラグ」発動! このカードを発動させたプレイヤーはあとで必ず死ぬことになる!
「ちょ、レージそれ死亡フラグ!」      伏せカードオープン! 罠カード「死亡フラグクラッシュ」発動! このカードはそのターンに発動した死亡フラグを回避させる効果がある!
「もお! 俺、マジで本気だってば!」
「えぇっ!? ちょ、ま・・・! レージって、マイコ狙いじゃなかったのかよ・・・?」
「俺、ナナ命だってば! も、マジで!」
「く・・・! アタシは、ほんっと、不意打ちに弱いな・・・」

@ @ @ @ @

「声かけやすそうな人、理由を聞かずに頼まれてくれそうな人、帰りも確実に大丈夫な人、ていう条件でいうと、・・・ジュード君、カンナちゃん、マリアちゃん。そしてナナちゃん、か」
「どいつも強いけど、毛色が違うから振り分けが大変だな」
「声だけ掛けに行こうよ。駄目だったら他当たらなくちゃいけないし。サユリちゃん・・・会長、パーティの編成、大体決めておいて下さい」
「わたくしたちの間では名前で呼んで下さって構いませんよ。ジュードさんかカンナさんは必ず連れて来てね、ユーカさんにスミレさん」

@ @ @ @ @

「ナナちゃん!」
「うおわ! ・・・っと。 ・・・なんだ、ユーカ、か。ど、どうかしたか・・・?」
「どしたの? 顔赤いよ?」
「な、何でもない、全然何でもない。ゆ、ユーカこそ、どうした?」
「実は頼まれて欲しいことがあって。女の子だけでちょっと遠出しなくちゃいけない用事ができちゃって。ナナちゃんもパーティに入って、そこまで送ってって欲しいの」
「タクシークエストか」
「うん。一般の人も初心者もいるの。わたしたちだけじゃどうしてもフォローできる自信が無くて・・・」
「アタシは・・・アイツを、待ってなくちゃいけないから・・・」
「ねえねえ、それ死亡フラグだよ。この場合死ぬのは、その相手の人だけど」
「な、マジか!? っぶねえあぶねえ。行く行く、どこでも送ってってやるよ。アタシに任せな!」
「よかった! ありがとうナナちゃん! あとはマリアちゃんか。生徒会長室に行ってて。そこにみんな集まってるから」

@ @ @ @ @

「ヒナさんは、ヒョードル君に搭乗して一人で先頭。A班は、スミレさん、ツグミさん、ハルコさん。このパーティにナナさんが入って貰います。B班は、ユーカさんとわたくし。そこにマリアさん。一番大事なシンガリは、イノセントのアイさんとチドリさんに、ジュードさんとカンナさんが加わって戴きます。こんな感じでよろしいですか?」
「とりあえず一度これで行ってみよう。もし勝手が悪かったら、最寄りのゲートか、キャンプポイントに入ってもっかい練り直せばいいんだし」
「帰りはアタシ達四人か」
「そうですわ、もしよろしかったら、お帰りの際、ヒョードルに乗って帰られませんか? あのロボット、○騎のコントローラーを流用しておりますから、ナナ様でしたらきっとすぐ自在に扱うことが出来ると思いますよ」
「鉄○て・・・」

@ @ @ @ @

「ここかな、ミッションエリア」
「おっしゃ! 一発やるか!」
ピピピ、ピピピ、ピピピ……
「はえ!? 警報? どこ? 近くにはいねえけど……」
「あれじゃねえか? 何であんな遠くにいるのにデフワンアラームが鳴るんだ?」
「なんか、嫌な予感がする……。あんなゾンビ見た事ねえ。ヤス、気をつけろ!」
「はん、何だろうと、俺のスナイパーライフルで撃ち抜けねえものはねえぜ!」
ヤスのターン! ヤスのオーバーレンジバスター! ヤスは狙いを定めた!
「!? なんだこれ!? なんか違う!?」
アルテミスのターン! アルテミスの攻撃! ヤスに9999のダメージ! ヤスは死んだ!
「は!? 死んだ!? お、おい、ヤス……ヤス! アルテミス……? なんだよそれ?」
レージのターン! レージは何もしなかった!
「くそ! どうなってんだ!?」
アルテミスのターン! アルテミスの攻撃! ミス!
「当たらなければどうという事はない!」
レージのターン! レージの攻撃! アルテミスに3725のダメージ! アルテミスは昇天した!
「はあ、はあ、なんなんだよ一体……。おい、ヤス、終わったぞ、返事しろ」
返事がない ただの屍のようだ
「冗談だろおい。ヤスぅ、なんか言えよお、ヤスう!」
……
「……確か、この辺り……うぐ!」

@ @ @ @ @

 レージは目眩を起こしてその場に片膝をついた。地面が歪むような錯覚を起こしたのだ。目眩の原因である右目を押さえるが、何の意味も無いことはわかりきっている。
 レベルが、恒常的に10を超えるようになると、強制的に受けさせられるハンター教習。そこで教えられる、ゾンビの能力と、それに対する様々な安全対策。そして手渡された一枚のコンタクトレンズ。の、ような物。
 生体ディスプレイ。早く言えば、ハンターに、人間関係に関する『嘘』を吹き込む装置だ。
 利き目ではない方の目にコンタクトの要領で装着すると、数ヶ月後には目と同化する。勿論戦闘に関する情報も映し出すが、それは飽くまで二次的な目的に過ぎない。
 特に、たった今死んだ人間に、ハンターが近付くことは出来ないように、視覚情報を混乱させる。それはもう『戦友』ではなく、『ゾンビの元』だからだ。これが、現実とヴァーチャルの狭間の世界で死ぬという事だ。
 一瞬、レージの頭にある考えが過ぎる。
 そうだな。確かに、情報を錯乱させる原因である右目を抉り出せば、『ヤス』を探し出すことが出来るかも知れないな。しかしこの暗闇の中では、バトルインフォメーションのガイド無しには帰る事も進むこともままならないのではないかな…?
「くそっ!」
 レージは導かれるように、地下ダンジョンの奥へと走り去っていった。
 思い留まってくれて助かった。お前には、しっかり働いて貰わないとな…。
 …さあ、景気よく行こう…。と、その前に、こちらをどうぞ。
                    ヤスの為の鎮魂歌(レクイエム):just be friends

@ @ @ @ @

ブッチャーバグ2の攻撃!
モーノに9999のダメージ! モーノは死んだ!
ブッチャーバグ9の チョークバイト!
アリオンに9999のダメージ! アリオンは死んだ!
ブッチャーバグ5の攻撃! 痛恨の一撃!
ハーマンに9999のダメージ! ハーマンは死んだ!
キルハウンドの攻撃!
ストラトに9999のダメージ! ストラトは死んだ!
ジャンボコボルトの 気紛れ五月雨斬り!
チェンに9999のダメージ! チェンは死んだ!
エマに9999のダメージ! エマは死んだ!
メレーナに9999のダメージ! メレーナは死んだ!
ガルフの クリティカルショット!
バリアグレムリンに0のダメージ!
バリアグレムリンの攻撃!
ガルフに9999のダメージ! ガルフは死んだ!
トッシンバイソンの 疾風迅雷傍若無人!
ダンに9999のダメージ! ダンは死んだ!
モンドに9999のダメージ! モンドは死んだ!
ハリーに9999のダメージ!ハリーは死んだ!
ミントに9999のダメージ! ミントは死んだ!
コカトリスヒドラの コンクリブレス!
ラーナは石になった! ラーナは打ち砕かれた! ラーナは死んだ!
ジルバは石になった! ジルバは打ち砕かれた! ジルバは死んだ!
ジャンヌの 百刀千断!
ゴーレムリョシカはまっぷたつになった!
おや? ゴーレムリョシカの様子が…?
ゴーレムリョシカαの攻撃!
ジャンヌに9999のダメージ! ジャンヌは死んだ!
ゴーレムリョシカβの攻撃!
パラボラに9999のダメージ! パラボラは死んだ!
アークグリフォンの サウザンドスター!
ゾディアに9999のダメージ! ゾディアは死んだ!
ノインに9999のダメージ! ノインは死んだ!
ユキに9999のダメージ! ユキは死んだ!
セーラに9999のダメージ! セーラは死んだ!
ナイブズのターン! ナイブズは何もしなかった!
ワイバーンの攻撃!
ナイブズに9999のダメージ! ナイブズは死んだ!
マンティコアの 氷河期ブレス!
ギルは氷漬けになった!
ハヅキは氷漬けになった!
マンティコアの 大蛇の尻尾!
イノオに9999のダメージ! イノオは死んだ!
ギルは打ち砕かれた! ギルは死んだ!
ハヅキは打ち砕かれた! ハヅキは死んだ!
アサルトベヒモスの攻撃!
エイトに9999のダメージ! エイトは死んだ!
―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ!―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ―は死んだ! ……! ……! ……! ……! ……! ……! ……! ……! ……! ……! ……! ……! ………………………………。

@ @ @ @ @

 レージは、誰の言葉だったか忘れたが、『一人だけ強くても仕方がない』という言葉を思い出した。いつ、どういう状況で言われたかも思い出せないが、確かにその通りだ。どうしてそんな当たり前のことを忘れていたのだろう? レージのレベルは、レージのレベルだけは、そろそろ100に達しようとしている。自分だけ強くても意味がない。誰も守れない。一人ぐらいなら……いや、どうかな……? こんな状況では……。
 警報は止まり、ガイドは沈黙した。
 終わった……のか……?
 俺だけ、残して……?
「くそっ!」
 レージは、手にしたグングニルを渾身の力を込めて、地面に叩きつけた。固い岩盤に槍の切っ先がぶつかり火花が散る。
「……!」

@ @ @ @ @

「これで、全部……かな……? これは、髪、長えから女、かな……? これは……手、か。あ、指輪……。エンゲージ……かな……? えっ、と……? 左手、だよな? こっちが手のひらで、親指がこれ、だろ? 人差し指中指薬指。……だな。はは、俺って、ホントあったま悪りいな。帰ったらもうちっと勉強してみようかな……? おっしゃ……! 帰るぞ、こいつら連れて……て、全員は無理かあ……。まいったな……、連れて帰りてえなあ……」
 どうやら、槍で地面を叩いて出た火花を頼りに、彼らの、辛うじて形を残した部位を探し回ったようだ。
「そうだ……。でぃー・えぬ・えー……だっけ? たしか、血で誰かわかるんじゃなかったっけ……?」
 レージはおもむろにシャツを脱いだ。
 そうか・・・。お前も、あの時のオレと同じ事を思い付いたんだな。
 ・・・おいおい、混ざったら血液型ぐらいしかわからなくなっちまうぞ。ホント、お前は・・・馬鹿だなぁ・・・。

戦士達の為の鎮魂歌(レクイエム):千年の独奏歌

@ @ @ @ @

 シンゴが、掌の上にころころと転がして弄んでいる黒いビー玉。のようなもの。これが、この世界の主な電力源である。部品名は『核魂(コアダマ)』と言うそうだ。お前が造っていたんだな? アベル。

 Exactly(そのとおりでございます)

アインシュタインに対する冒涜になるかも知れないが、架空の世界の設定なので構わず話を進める。アベルの能力の一つに、死者の魂をエネルギーに変える、というものがある。
 魂は、質量は無いがエネルギーは有る。それをどうにかすれば、無限にエネルギーを取り出すことが出来る、という理屈だ。それは論理的ではない、と仰る方は、以後フィクションの作品を鑑賞しない方がいい。
 無理矢理ネーミングするなら、 “魂子力エネルギー ”ってとこかな。ただ、無限は無限なのだが、大きなエネルギーを供給するには、それなりの巨大な施設が必要になる。最小はこのビー玉サイズだ。交換の必要がない電池、という風にみんな使っている。当然、それが『元・誰かの魂』だとは知らずに、だ。まあ、みんな、といっても、コアダマそのものを扱うのは、L.E.の極限られたエンジニアぐらいだろうけど。
 一般の人はどう思ってるんだろうな。オレは・・・シンゴは不思議で仕方がなかった。
 で、いつだったかな、八歳ぐらいだったかな、もう使わなくなった武器をバラしてみたら、こんなのが入ってた、ってワケだ。多分、分解できるようにはなってなかった筈なんだが、できちゃったものは仕方がない。
 そんで、秘密に近付き過ぎた者は云々、ていうお約束で、仕方なくL.E.専属の傭兵軍に所属させられたのだ。
 それが何かはわかるわけ無いのに。恐らく、オレの身柄を確保した奴も、その指示を出した奴も、何でこんな子供を、と思っただろうな。これが、オレとL.E.の腐れ縁の始まりだ。
 しかし、それが、こんな事にまでなるとはねえ・・・。
 シンゴは、手にした黒いビー玉を朝日に透かし、しみじみと眺めてから、宝石箱の天鵞絨の窪みに、大事そうにそっと嵌め込み、蓋を閉じた。
 では、あの台詞をやっときますか。 ・・・ん、んん。

 オレは人間をやめるぞ!

@ @ @ @ @

「おはようございます」
「「「おはようございます」」」
「見て下さいオグラさん、あれなんでしょうね?」
「いや、わかんない。何だろうねえ? デイブ」
「わからないですねぇ。ま、この時代なにが起こっても、もう驚かなくなっちゃいましたけどね」
「おーい、アマタツぅ!」

@ @ @ @ @

 海の上に浮かぶ、巨大な銀色の球体を閉じ込めた檻のような姿をしたビル。この建物は、テレビ局だ。
 例え、世界がメチャクチャになろうと、人間は、生きている限りは生きていかなくちゃならない。
 ゾンビが、どうやら土と関係があるらしい、とわかると、大金持ちは挙って、海に新天地を求めた。有名人、著名人、大金持ちなどは海上都市に住んで以前と殆ど変わらない生活を送っている。そして今、残念ながら、それが過去形になりかねない出来事が発生しようとしている。
 彼らが見ている、あれ。日本上空に現れた、途轍もなく巨大な透明の柱。誰がどう見ても、異常な気象現象と思うしかないだろう。
 水、だ。海水。多分百万トンも集めれば何とかなると思うんだけどな。何しろこんな事やったことがないから随分大雑把だ。今からオレは、日本から南西方向に五千q、極短時間で地中にトンネルを掘らなくちゃならない。そしてその穴を魂素で満たす。もっと時間があれば綿密に計画して、蚊が血を吸うように誰にも気付かれずに出来たのかも知れないが、できるだけ早く終わらせたかったんだ。すまない。…。いや、オレは魔王になったんだ。あ、『我が輩』にしようかな。…よし。
 
 ふはははは! この魔王に命を捧げよ、脆弱なる人間共よ〜!

 急激に起こった潮位の変化で海が歪む。こじ開けられた海面に、失われた体積を均一にしようと、周囲の水が押し寄せる。有り体に言うと、海底が跳ね上がるのではなく、海面が落ち窪むことによって起こる津波、だ。
 本来なら、ここに、この時死んだ人々の名前を、下の名前だけでも列挙しなければならないのだが、紙幅の関係で割愛させて戴く。黙祷。

     海に飲み込まれた、海上都市と沿岸地域に住んでいた人々の為の鎮魂歌(レクイエム):サイハテ
 
@ @ @ @ @

 人類初の戦争は、どのようにして始まったのだろうか。恐らく探しても資料はないと思うので、想像で書かせて貰う。
 人数と世代構成がまったく同じ、A と B という集団があるとする。特に干渉するわけではないが、お互いにお互いが見えるとしよう。神の悪戯としか思えない非人為的な偶然によって、どちらか一方が、明日死ぬとも知れぬ飢餓に陥ってしまった。川向こうの集団には食糧があるのに、我が子はひもじさに耐えかねて泣き叫ぶ。
 さあ、川向こうの子供と自分の子供、どちらがより可愛いだろうか。
 ひもじさを知らぬ理性的な現代人の出した答えも、この集団のリーダーの出した答えも、どちらも正しい。
 しかし、正しいからといって、人を殺していい理由など無い。
 純粋なる理性は非人道的で軽蔑されるべきものだ。獣性に支配されるぐらいなら餓死して死んだ方がマシだ。
 究極的には、人間は『何もしない』という事をするしかないのかも知れない。しかし、そう簡単にはいかない。
 それさえできれば、全ての問題は解決するのに。

@ @ @ @ @

 これで最後だ。長らくお付き合いして戴きましてありがとうございました。(※最終回じゃないぞよ。もうちっとだけ続くんじゃ)
 大気圏外から地球を見る事ができれば、ボルネオ島と名付けられた島の中心辺りから、天に向かって長い長い針が突き出してきたように見えることだろう。魂素の塊でできた、ある建造物の基礎 兼 電波塔。
 名付けて『ソウル・アンカー』の完成だ。
 針の先から電離層に向けて、強烈な電子の波が発射される。一回でいい。一回で十分だ。
 世界中の人間の記憶を改竄し、序でに、月との精密な距離を測定するには。
 レージ、お前にクリア報酬 ― 『世界の半分』をやろう。抉り出した右目の替わりだ。義眼だが、視覚の補助にはなる筈だ。
 それと、賢さのパラメータを30ぐらい上げておいてやろう。サービスだ。
 上げ過ぎかな。・・・いや、足りないか。まあ、あとはお前の努力次第だ。

失われていく世界の為に:ワンダーラスト


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