シンゴが子供の頃の話だ。 六歳か七歳ぐらいだ。母親に、近所におつかいに行って欲しい、と頼まれた。所謂、初めてのおつかい、というやつだ。 外は危険がいっぱいだ。だが、母親は手が離せない。極めて多忙だったのだ。極近所だし、男の子だし、大丈夫だろう。シンゴも、一人で外に行けることを示そうと、強がりを言う。このおつかいを成功させれば、一人で外を自由に出歩くことの出来る、一人前として認められることになる。 時刻は黄昏時。彼は誰ぞ、と尋ねたくなる夕まぐれの頃。商店街を抜け、踏切の前で電車が通り過ぎるのを待っている時分から、背後に異様な気配を感じたが、気のせいと自分に言い聞かせた。そう願った。 踏切を駆け足で渡り、その向こうの、田んぼが続く、家や人通りが途切れる一本道を全力で通り抜けようとしたシンゴの目の前に、音もなく一台の車が割り込んできた。 心臓は早鐘を打ち、足が竦む。 車のドアが開き、知らないおじさんが降りて来た。人懐っこそうな笑顔。 だが、彼には膝から下が無く、頭部の右半分が刮ぎ取られたように凹んでいた。 彼はゾンビだったのだ。シンゴは覚えがないが、そのおじさんはシンゴの事をよく知っていたのだろう。俗に言う “会いに来た ”というやつだ。この時シンゴは近くにたまたまいた大人に助けられ事なきを得たが、こういう事はよくあることだ。そして、殺される。 この世界のゾンビは、速く走ったり、毒液を吐いたりしない。ただ、忽然と現れ、辺りをうろうろする。歩くスピードも、人が普通に歩くよりずっと遅く、よたよたもたもたしている。 唯一、ゾンビの持つ能力が、これだ。 “死 ”の記憶を見せ付けること。それは人間の脳に、無理矢理恐怖をねじ込む、精神の根源を揺さぶる映像。 子供への恐怖はこの程度だ。子供にとっては、世界の全てが恐怖の対象になると言えるだろう。 百戦錬磨の屈強な戦士には、それ相応の恐怖がもたらされる。彼らが死の間際に見た映像の恐怖たるや、想像が付かない。そして、恐慌に陥った戦士の行動も。当然、強ければ強いほど被害が大きい。 レベルのハンターとして生きることを決意した者には、他者との断絶を要求される。シンゴの子供の頃の話からもわかるとおり、自分は知らなくても、他人から知られていれば、簡単に恐怖の映像を見せ付けられてしまう。 つまり彼らは、ヴァーチャルの世界で生きることを強制される、と言う訳だ。 はい。言いたいことはわかります。
『さっきまでの話はどういう事だ?』
まるっきり嘘ではない。という程度の話だ。あ、シンゴはそういう世界の中でも本当の世界の状態を知る事が出来る能力を得ているので、シンゴの感じた事には嘘はないと思ってもいい。しかし、シンゴも聖人ではないので必ずしも本当の事は述べないかも知れない。
…この小説、理解できる人がいるのだろうか…? 出来る、と仰る方がおられたら、是非作者にご教授願いたい。 閑話休題。
※警告:次の章では(作者の技量の所為で残酷な表現ではないが)非常に大量の “死 ”が描写される。気分が悪くなったら、読むのを直ちに中止し、医師に訴えるとよいだろう。『くだらない小説を読んで、気分を害しました。先に警告されたので怒りのぶつけどころがありません』とね。
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