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作品名:L.e.v.e.l. 作者:赤鉈 塩

第12回   12
 朝靄に包まれるL.E.本部ビルに近付く人影。守衛は、強大な睡魔の力と戦いながらも、この上なく不自然な時間帯に訪ねてきた訪問者に、平静を装いつつ型どおりの応対をする。
「おはようございます。ご用件は?」
「中に入りたいんだが」
「アポイントはお取りになっておられますか?」
「いや、そんなたいそーなモンはとってねえよ」
「ではご身分を証明する物をお持ちですか?」
「これで良いか?」
 その不躾な訪問者は、一枚のカードを取り出した。
「え? これってもしかして……」
「どうした?」
 異変に気付いたもう一人の守衛が、仮眠から覚め、近寄ってきた。
「そのカードは! 軍専属の特殊傭兵部隊の? 赤のライン、と、いう事は…… ちょ、超法規部隊!」
「通って良いかな?」
「お、お待ち下さい! 只今施設内には何人たりとも入ってはならない、と、通、告、が……」
 守衛の鼻先にカードがぴらぴらと躍る。
「その発言は、オレを超法規部隊の部隊長と認識しての発言なんだろうな?」
「うう、わ、わかりました。では一筆、私達の責任ではない旨を書いて戴きます。そしてこの事は上に報告致します。よろしいですね?」
「ああ構わん。そのつもりで来た」
「あ、あの……」
「?」
「ア、アカシア隊長! じ、実は自分は、隊長の大ファンなのであります!」
「ああ? その名前は昔の、特殊部隊に推薦される前の登録名だ。今は本名。シンゴだ」
「はっ! 失礼しました! シンゴ隊長!」
 アカシア、というのはシンゴの好きな芸人から採ったものだ。とても気に入っていたのに。
「一度ご本人に確認してみたかったのですが、国会議事堂解放作戦に参加された、というのは本当でありますか?」
「ああ」
「うおー、すげー……凄いであります! やっぱり噂は本当だったのでありますね!」
 しかし、あの作戦の目的があんなものだったとはね。総理大臣の・・・いや、これは本人の名誉のために伏せておこう。
「それでは米軍と共に、ドビンス空軍基地の解放作戦に参加した、というのも……」
「・・・ああ」
 確かに集合はジョージア州だった。しかし、そこから目隠しをされ、随分長い時間を掛けて別の所に移動させられた。恐らくあそこはヒューストンだったと思う。憖っか長くやっていると話せない事が多くなる。
「はいよ。んじゃ、入らして貰うぜ」
 どうせこいつらは下っ端。何を聞いても何も知らないだろう。もっと話の分かる奴・・・。
 シンゴは、ビルの入り口、固く閉ざされた門のセキュリティコンソールがあると思われる壁に手を添え、力を込めた。壁に四角い穴が空き、幾つかのボタンとモニター、カードスロットなどが並んだ情報端末が現れる。
 洒落臭い。シンゴは手を差し伸べ、力を放出すると、直接話しかけた。
「おい。誰かいるか? 聞こえたら返事しろ。オレは超法規部隊のシンゴだ。繰り返す・・・」
『な、こ、これは……? どうやって?』
「親父がいるか? いたら出しやがれ」
『シンゴ隊長……!? コマンダー! 超法規部隊のシンゴ隊長が……!』
「もういい。今そこに行く」
 シンゴが門を睨み付けると、それはすぐに音もなく開く。
 警備兵が警棒を手に駆けつけるが、シンゴを相手にしようという根性のある奴はいない。遠巻きに様子を窺っている。
「親父と話がしたい。いたら呼んでくれ」
 警備兵と喧嘩しても時間の無駄だ。もっと上の奴がいい。
「た、只今施設内は立ち入り禁止となっております! お願いします! お下がり下さい!」
「だったら話の分かる奴を連れて来い! オレは今猛烈に腹が立ってるんだ! 何だったらビルごとぶった斬っても構わねえんだぜ!?」
 手にしたカードが一瞬にしてレーヴァテインに変わる。
 施設内は強制的にレベルの機能が停止するようになっている。しかし、超法規部隊は別だ。非戦闘区域だろうが、戦闘禁止区域だろうがレベルを自在に発動できる。超法規部隊の超法規部隊たる所以だ。
「シンゴ殿! 博士は今、ある作戦のため出張っておられます! 自分がお話ししましょう! 剣をお納め下さい!」
 やっと話の分かる奴が出て来たな・・・。

〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

「・・・あ、あの・・・。お、おはようございます、ヤス様、レージ様。え、と・・・、シンゴ様・・・をお見掛けになられませんでしたか・・・?」
「は……? シンゴ……? って……誰?」
「あ・・・い、いえ・・・あの、その・・・お時間を割いて戴いて申し訳ございませんでした。失礼致します」
「あ、ヒナさん!」
「ああ、ユーカ様・・・! そちらの方は如何でございましたか?」
「だめ・・・。どうして・・・? みんなシンゴの事・・・。どうなってるの?」
「ああ、ユーカ様、どうか泣くのはおよしになって戴きますようお願い致します。ヒナは確かにシンゴ様の事、覚えてございますから・・・。それでも、本当にどうしてこうなってしまったのでございましょうか・・・?」

〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

 シンゴのリミテッドステータスは、情報の申し子《データハーフ》。情報を自由自在に扱う能力だ。特にこのL.E.の本部ビルのような、情報管理の集大成みたいな所では、まさに神のように振る舞える。例えば・・・。
 ここの全ての情報の流れを止めてしまえば、時間が止まったのと同じ状態になる、と言う訳だ。
 シンゴは司令の頭を左手で掴み、彼の脳から直接情報を読み取る。
 ・・・やはり、ゾンビは七年毎に超周忌大発生を起こすようだ。つまり、L.E.が開発した武器では、完全にはゾンビを消滅できていなかったという事になる。死者の魂の依り代である『穢れた』土を浄化していただけで、死者の魂は再び、穢れた土に展着する。しかも多くの場合、より強く、より大量に展着する。キラーシリーズ化しやすくなる、という事か。そんな中、博士は死者の魂流出の根源を探り当てる事に成功した。直接そこに行って、何らかの処置を施せば、以後死者の魂の流出は止まる、と思われる。成る程。しかしそれでは根本的な解決にはならないな。オレだったら・・・。

 やあ。こんにちは。シンゴ君。

 む!? 今、この施設内にオレに話しかける事が出来る人間はいない筈・・・。
「誰だ!?」

 私は君だ。シンゴ君。最上階に来て欲しい。君とじっくり話がしたい。

 頭の中に直接語りかける声。
 ロビーの正面、一機のエレベーターの扉がシンゴを招くように開く。
 そんな、馬鹿な・・・。この施設の中で、オレの意志に従わない存在がいるなんて・・・。

 シンゴは『天才は凡人の奴隷でなければならない』と思っている。
 『なぜなら、凡人は天才の食糧だからだ』。天才には凡人を食い物にする権利と能力が備わっている。つまり、そのような人間を『天才』と呼ぶのだ。
 凡人が居なければ、天才もまた生きてはいけないのだ。
 勿論この論理には、シンゴが天才であると仮定するならば、という条件文が付く。
 それはシンゴが図らずも、神にも等しい能力を手に入れてしまった事への罪滅ぼしのようなものかも知れない。

 エレベーターが最上階で止まり、扉が開く。目の前に『CEO』と書かれた表札が掲げられた、重厚な扉が現れた。近付くと、やはり独りでにそれは開いた。どうしてこんな事が出来る・・・? まるで・・・

 まるで、君の能力が私にも備わっているようだ。そうは思わないかね…?

 まただ。頭に直接。扉の奥には、堆く書類の積み上がった大きな机があり、その向こうに、シンゴに背を向けた黒革の椅子が置かれている。背もたれが大きく、誰が座っているのかは判らない。

 ようこそ、シンゴ君。手短に話そう。私は今とても困っている。私に手を貸してくれないだろうか?

「だからお前は誰なんだ! 素性も分からぬ者に貸す手などない!」

 ふむ。では、初めから説明するか。実は私は悪魔から死者の魂を管理する勤めを任された者だ。しかし、十六年前、私はその任を解雇された。君の父君が悪魔を殺してしまったのだ。上司が居なくなった私は、積年の呪いを解かれ、久方ぶりの自由を謳歌した。人間の時間で半年程遊び呆けて戻ってみると、まあ、見るも無惨な世界になってしまっていた、と言う訳だ。一応は私の責任ではあるものの、君の父君母君にも責任の一端はある訳で、君達家族を巻き込んで何とかしようと、私なりにやってみた結果がこの世界、と言う訳だ。いや、私もそれなりに、父君には悪い事をしたと思っている。父君はただ、自分の愛する妻を取り戻したかっただけなのだからな。
 悪魔を殺して私を解放して貰った時、母君は君を妊娠していたのだ。監督と贖罪を兼ねて私の力の一部を君に分け与えた。そういう訳で私は君であり、君は私だ。理解する必要はない。何となく雰囲気が伝わればいい。
 今何が起こっているのかというと、父君は、母君と力を合わせて、私の尻拭いをしてくれているのだ。本来は私がするべき仕事なのだが、死者の世界とこの世界を繋ぐ穴を塞ごうというのだ。私は止めたのだがな。私が数万年掛けてやってきた事だ。じっくり時間を掛けて修正するつもりだった。少しづつ人間達にヒントを与えてな。人間には寿命があるからか、どうもせっかちでいかんな。彼らは無駄死にだろう…。まだ判らんがな。
 …それと、ヒナ…か。ヒナは私とは関係ない。君とは大いに関係があるようだがな。どうも旧世会の人間は、君と君の父君の事を快く思っていないようだ。あー…。いなかった、か。どうも私には時間の概念は掴みにくい。死者も私にとっては存在しているのだ。彼らは唯一、この世界が君の父君によってこうなった事を知っている者達だ…ったのだ。
 …どうだろう?何となくでも分かってもらえただろうか。

「つまり、お前と一緒になって、この世界を元の世界に、或いはそれに近い状態に戻そう、という事か?」

 流石、理解が早い。君とは上手くやっていけそうだ。

「でもな・・・、オレは、この世界には、ゾンビぐらい居た方がいいと思うけどな・・・」

 ふふふ、中々不謹慎な事を言う。君らしい。

「オレに考えがある。お前のその力を貸せ」

 いいとも…。あ、違った。
 いいですとも!

「あ、名前。なんて呼べばいい?」

 そうか、確かにこのままでは不便だな。ふぅむ。…アベル、というのはどうだ…?

「聖書の中での最初の死者の名前だな。うむ、良い名だ」


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