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作品名:L.e.v.e.l. 作者:赤鉈 塩

第11回   Level.11
         BGM:you and beautiful world
 不思議な事に、・・・いや当たり前かな。男子はヒナの乗ってきた巨大ロボに、女子はヒナの珍しい服装と愛らしい風貌にすっかり魅了され、学園の連中はあっさりヒナを受け入れてくれた。極めて丁寧なその物腰に、罠とか、不審者などという考えは頭の片隅にも過ぎらなかった事だろう。いやいや、そこが余計に怪しいだろうに。
 シンゴの心の中のツッコミが聞こえたかのように、自分に不信感を抱く者に、ヒナは自らの事情を切々と語り始めた。詳細は省くが(口調が丁寧過ぎて、内容と文章量の割合が合わない。それに彼女も、言って良い事と悪い事を弁え、詳細を述べるのは差し控えた)、大体シンゴの予想を裏切らない事情のようだ。
 しかし、複雑な事情があっても、頼もしい仲間が増えるのは良い事だ。さあて、オレもロボ見に行こうっと。

※さあて、この小説は、小説である事を良い事に数多く文章作法の禁を犯してきたが、序でにもう少し禁忌を犯しておきたい。今から書くサユリとヒナの会話は、シンゴがいない所で交わされたので、この時点ではシンゴには知る由もない事だ。もしかしたらこういうのは普通の事かも知れないが、指摘されるかも知れないので一応断っておく。

「あなたがサユリ様、ですね」
「 ? あなた、ヒナさん、ね。あの噂の。わたくしに何かご用?」
「はい。サユリ様のお耳にだけ入れておかなければならないお話がございます。お人払いをお願い致します」
「・・・承知しました」 
 アキラを生徒会長室から退室させ、ドアの鍵を閉め、念のためカーテンも閉めた。
「さ、お話し下さいな、ヒナさん」
「心してお聞き下さい。実は・・・わたくしは・・・。」
 意味深に間を置く。ただならぬ雰囲気に、サユリは息を呑んだ。
「シンゴ様を殺すためだけに生み出されたクローンなのでございます」
「なあんだそんな事・・・・・て! 本むぎゅうんむぐぐ」
 余りにも想像の範囲を超越した異常な告白に思わず、キャラを無視したノリツッコミが飛び出す。大声を上げて叫び出しそうになったサユリの口をヒナは間髪入れず塞いだ。
「大丈夫でございます。わたくし、今はそのような者ではございません。だからこそ、こちらに匿って戴かなければならないのです。どうか、お気を確かに、サユリ様」
「どういう事なの? 出来るだけ詳しくおっしゃいなさい! ・・・ごめんなさい」 
 サユリは心を落ち着かせるため、深呼吸をした。それでも脚の震えは収まらない。大きな机の死角になってヒナには気付かれていない筈だ。
「大丈夫でございますから、どうかお気をお鎮め下さい。こちらをどうぞ」
 ヒナが木綿のハンカチを差し出した。何のためにか、サユリには一瞬分からなかった。サユリは泣いていたのだ。
「信じて・・・いいのよね・・・。ね・・・? わたし・・・あの人・・・」
 ヒナは、受け取ったハンカチで涙を拭うサユリを優しく見つめ、肯定の微笑みを投げかける。
「もう少し、突拍子のないお話がございます。サユリ様にもご関係があるお話です。よろしいですか?」

 …ヒナに代わって解説しよう。諸君は魂が不滅であると信じるだろうか?そうであるとして話を進める。さあ、その魂は死んだ後どこへ行くのだ?そうだ “輪廻”という考えもあるな。それは事実だろうか?諸君は馬鹿では無かろう。人口は増え続けている。その数十億人分の魂はどこから来たのかね?牛や豚の魂が人間に転生したというのか?は!いよいよ諸君らは阿呆だ。もしそうなら、その分だけ “善人”が増えなければならない筈だ。なぜなら彼らは前世の善行の故に人間に転生したのだからな。果たしてそうかね?よく周りを見回してみたまえ。
…結論を言う。魂は生まれてきたそれぞれ一人に一つずつ。今まで生まれて死んだ人間は…ざっと数百億人か?それらの魂は地に繋ぎ止められている。いた。過去形だ。失礼。その数はそのまま、今この世界に溢れるゾンビに『展着』している魂の数と言える。或る時、地獄の釜の蓋が開き、不浄と混じり合って人間を襲い始めたのだ。何故?それは知らない。少なくとも私の所為ではない。私はただ自分の…。今はこのぐらいにしておこうか。
 実の所、ヒナはこんな事を述べたのではなく、ここから先を掻い摘んで述べたのだ。
 シンゴは、神の時代、人の時代に続く、新しい時代を支配する王になる人物である。そして、ヒナを初めとする数人の少女が、妻、また侍女として選ばれ、シンゴに仕えるのだ。その中にはサユリも含まれている。
 ヒナはその事を魂で理解した。クローンという、肉体と魂が初めから分離している存在だからこそであろう。
 …この説明で伝わるだろうか。余り自信はない。しかしこれは単なる小説だ。伝わらなくても私は一向に気にしない。ただの文字群として目を通して戴ければ結構。では失礼。

    BGM:Lost story
シンゴ達の活躍により、学園周辺のゾンビの数はほぼいつも通りの数に激減した。飽くまで極限られた周辺だけに過ぎないので、警戒態勢は解く事が出来ないがそれでも、学園内では通常通りに振る舞う事が出来る。いつもと少しだけ違うのは、一般人が幾らか目立つ事ぐらいか。しかしその事が却って、特定の学園行事を生徒達に想起させたのも致し方のない事だった。
「ねえ。 ・・・学園祭・・・どう、すんの・・・?」
「……ばぁか。こんな状況でできるわけねぇだろ……?」
「いや、やろう。学園祭。やろう。出来るだけ沢山人集めてさ。そうだ、学園祭だ。やるぞ」
「シンゴ……?」
 学園祭や模擬結婚式をあんなに嫌がっていたシンゴが、積極的に事を進める様子に、妙な違和感を覚えたものの、得体の知れないもやもやの捌け口を求めていた生徒達は、すぐに学園祭の開催に賛同した。
 出来るだけ規模は小さく、しかし出来るだけ華やかに。コンセプトだけ告げると、シンゴは学園祭実行委員会を再度立ち上げるべく生徒会長室に走った。
英雄化した少年の少年らしい直訴が、簡単に採択された事は想像に難しくないだろう。
早速次の日からシンゴは、周辺住民を掻き集めるだけ掻き集めるため、ヒナとヒナの巨大ロボ(只今愛称募集中。このままだと第一候補の[ヒョードル]になってしまう)を中心にした救助部隊を編成して、近所を駆けずり回った。
 まるで何かから逃げ出そうとしているかのように…。
 そういう訳で、学園内は一般人で溢れかえるようになった。それでも元々学生と教師だけでは余りにも大き過ぎる施設ではあったので、立錐の余地もない、という程ではない。寧ろ賑やかで良い。・・・こんなものだろう。

         BGM:カラフル×メロディ
 学園祭が始まった。シンゴの提案で、三日掛けて行う筈だった全てのイベントを一つに纏めた、盛大なショーを催す事になった。
 シンゴのアイデアでステージを準戦闘区域に設置し、レベルにアクセスする事によって衣装がチェンジできるように調整した。
 最初の演目はシンゴ達ての希望で、シンゴの好きな歌を女子二人で歌い踊る、というものだ。
 準備期間が短かったにも関わらず、ほぼ完璧なクオリティのパフォーマンスだ。
 その後も、華やかで元気が湧いて来るような演目が続く。

          BGM:グリーンストレート
 いよいよシンゴ達の出番が近付いてきた。
 勿論シンゴの隣にはユーカがいる。
 そして勿論、ユーカはウェディングドレスを着ている。
 巧く言えないが、チープな表現しか出て来ないが、敢えて言おう。美しい、と。
 ふとユーカは、それまで絡めていた腕を解き、自分のお腹に手を添え、何事か呟いた。
「・・・・・になってね」 
という所だけ聞こえたが、シンゴは何も聞こえなかった振りをした。
 なぜなら、願いとは常に個人的な約束だからだ。
 人は、一人では生きていけないのだから。

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        BGM:Last Night,Good Night
  

 学園祭成功の興奮を、遅くまで分かち合った後、日付が変わり夜深く。
 暗闇の教室に、ひっそりと簫やかな、そして何より馥郁たる幸せを孕んだ寝息が溢れている。
 シンゴは一人一人、彼らが確かに眠っている事を確認すると、細心の注意を払って静かに教室を出て行った。


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