BGM:夢地図 「チェックチェック、ワントゥー。OK? インカムは常時オープンにしといてくれよ。よし、最終確認だ。言い過ぎて口の周りが酸っぱいけど、も一度言う。この作戦の最大の目的は全員が生きて帰る事だ。さっき言った余計な事は、ホントに余裕があったらでいい。ヤバそうになったら、ヤバくなる前に言ってくれ。それを目安に撤退しよう。そのためには何より退路の確保が最重要課題になる。カンナ、ジュード、みんなの安全はお前らに掛かってる。頼むぞ。後、剣道部員もな。お前らんとこの主将をオレ達特攻部隊に入れたのはある意味人質なんだぜ。人命救助に感けてると、主将が帰って来れなくなるぞ。それでもいいなら構わんが・・・て、これはフリじゃないからな。ホントにやるなよ。マジで頼むぞ。順調にいっても、三十分経過したら撤退する。それまでは思う存分暴れてくれ。ん、と。これで以上、かな。よっしゃ、いっちょやるか!」 差し詰め、超☆波動断! てか? 門が開くと同時に、手にした大剣を振りかぶり、振り下ろす。レーヴァテインのランクはS。最強のツヴァイハンダーだ。目の前のゾンビ共に向かって赤白い極太レーザーが襲いかかり、砂煙に触れたシャボン玉のようにプチプチと小気味良く消滅していく。直線百メートルは見通しが良くなった。 「おお〜。強烈ぅ」 門が開き切ると、カンナとジュードがごっつい武器(というか最早兵器)を抱えて飛び出す。 「いくぞ!」 シンゴは遠くに見えるビルディングに向かって真っ直ぐ走り出した。
BGM:ショットガンラヴァーズ 「うっっっきゃーーー☆☆☆ これさいっっっこおおお☆☆☆」 自分の身長ほどもある金属の筒状の兵器を軽々と操って光弾をばらまく少女。この細い体のどこにこんな物騒な物を抱えていられる腕力を秘めているのだろうか。ユーカは首を捻った。 カンナの武器は今の状況に酷く適していて、キラーシリーズが大量に現れても、瞬殺してしまう威力の遠距離攻撃を高速で繰り出す、頼もしい武器だ。但し、一定時間毎に放熱が必要で、その間無防備になってしまう。その短い時間、カンナをバックアップするのがユーカの仕事だ。しかし、その仕事も余り忙しくはない。ユーカがスリングのランクを上げた所為もあるが、何よりもカンナがこの扱いにくそうな兵器をほぼ完璧に使いこなしているからに他ならない。 「よおおおし、いっっっくよおおお! グンソオちゃーん☆」 しかしそれにしても、持ち物と同様、持ち主も騒がしい。それに、なんか目がイってるし。 「ねえ、その下に付いてるの、なあに? ほらこれ。動くみたいだけど」 「あこれ、アシついてたんだー。やだこれべんりー☆ ありがと☆ユーカ」 気付かれないように溜息を一つついて、後ろを振り向く。 「ジュード君? は・・・大丈夫か」 「・・・・」 ジュードと呼ばれた規格外の少年(?青年?男?大男!)が小脇に抱えているのは、みんな大好き(笑)パイルバンカーだ。この兵器もまた巨大で、ジュードと比較すればこそそれなりのサイズに見えるものの、普通は大人二人がかりで扱う武器である。 さて、この物語に出て来るモンスターはゾンビ一種類なので(正確にはゾンビでさえないが)パイルバンカーが必要か?という事なのだが、ご多分に漏れず、この世界のパイルバンカーもこの世界独特のオリジナル武器、という事で、一つ宜しくお願いしたい。形はやはり工事現場のドリルを二倍くらいに拡大したように見える。先ず一撃目でその先端に付いた槍をゾンビに突き刺し(どのようにかは不明だが)ゾンビを砲弾化させると、トリガーを引いてそれを発射する。矢鱈重いという欠点を除けば、ゾンビさえいれば無限に攻撃できる、リロードや放熱のデメリットがない極めて特殊且つ超強力な武器だ。因みに最初からあった訳ではなく、コアなハンターからの熱いリクエストによって生まれたものらしい。そういう事もあってこの武器にはランクというものがない。 「平気よね? ジュード君。大丈夫じゃなくなったら早めに言ってね」 「・・・・」 その大きな体躯で身軽にゾンビ共を蹴散らす様は傍から見ていて危なげないものの、シンゴに輪を掛けて無口な大男(もとい少年)の対応には苦慮してしまう。 ― もう、何でわたしにこの人達を・・・。うーん、でもわたしぐらいしかいないかなあ・・・。 この二人の絶大な攻撃力のお陰で、ユーカの身の安全だけは確実に保証されている。しかしそれに比例して気苦労も絶大である。 ― みんなは大丈夫だよね・・・。 ユーカは、シンゴが走り去った方角の空を見上げた。
BGM:夏恋花火 頭の中で流れる音楽に合わせて、リズミカルに両手に持った二丁の拳銃の引き金を引く少女。最初はその曲に合わせて口笛を吹いていたが、段々チェーンコンボが百の大台を回ってくると、無意識の癖なのか、舌をぺろりと覗かせて撃つようになる。不意に、一体のゾンビが小さな段差に躓いて転び、弾道から外れた。 「あー! コンボ切れたー! ちっくしょー!」 「チート入ってんだから関係ないだろ、斜!」 「ちっちっち。モチベーションが違ってくるんだなー」 右手に持った拳銃を手の中でくるくると弄びながら、マリアはナナに答えた。見た目はデザートイーグル50AEのクロームステンレスモデルに似ているが、レーザーガンなのでそれほど重さも反動もない筈だ。その証拠に、背中に回した左手の拳銃で曲撃ちのような事をしている。マリアはチートコードを使って武器を強化しなかった少数派の一人である。つまり、既に自分の扱いやすいカテゴリーを最強にまで高めていた、という事だ。 「そんなもんかね。刎!」 「それにさ、たいちょーが『後で法外なペナルティを請求されたりしてな』って言ってたよ」 「隊長? シンゴがか?」 「うん」 「ふうむ」 「なに?」 「アタシらを困らせるのが目的だったら、そういう回りくどい事はしないと思うけどね」 「もーやだなぁ。シンゴちゃんジョークだよ」 「いや、わからないよ。アイツら最近焦臭い噂が後を絶たないからね」 「んー? どんなの?」 「詳しくは知らないけど、あの中でゾンビを使って実験してるとか」 「ぐえ、マジ?」 「アイツ、アタシらには言わないけど、L.E.に行ってみたいんだろ?」 「うーん、やっぱそうなん?」 「例えばどんな事が考えられると思う?」 ジョーの手に握られているのは[プラズマソード]というカテゴリーの武器だ。ソードとは名ばかりで、通常は水平方向に当たり判定の広いエネルギーリングを撃ち出す。しかしチャージトリガーを握(以下略) 「丁度コイツらを片付け終わる頃にアタシらの武器を使えなくすれば、あっという間にオダブツさ。そうだろ?」 「げ!?」 「できなくはないだろうが、メリットはあるか?」 「自分らの尻拭いさ。奴らなら充分考えられる」 「お願いだからもっと気分がアガること話そうよ」 「……それもそうだな」 「帰ったらお風呂入るぞー!」
BGM:那由多の彼方まで 剣道部の主将、名前なんつったっけ?え、と、そうだ、ヨシノブ。紹介の節の根拠のない中傷を撤回したい。こいつ中々やるぜ。カテゴリーはバスタードソード。勿論、形に合わせて日本刀モデルだ。両手持ちが前提の武器は駄目だが、こういう片手でも扱える武器は、腕力検査をクリアすると余剰腕力の範囲内でサブカテゴリーを所持する事が出来る。定石は同じ武器を二丁だが、こいつのサブカテゴリーは、ロングソード[朧剣・血吸い]。「血ノ雨虎」という専用アーツを使う事が出来る。普段はこれは鞘に収めておき、ピンチになったら専用アーツを使う、って寸法だ。確かにこれならいつでもフルチャージ状態の必殺技が出せる。こういう戦い方もあるんだな。こいつもチートを利用しなかった一派の一人だ。お見逸れしました。 一方、もう一人の相方レージは、チートをがっつり使ってうはうは派に属する一人だ。レベル30を過ぎても、Cランクのスピアーを振り回していたとは、信じられん。一気に一つ飛ばしのAランク[ゲイボルグ]にしてがっちがちに強化した。ナナに『最強だぜ!』と、自慢していたが、ナナは冷静に『最強のスピアーはグングニルだ』と指摘していた。しかし、兎に角レージが一番チートで儲かった奴だろう。そして勿論それに見合った働きをしてくれている。 こう言っちゃ何だが、シンゴの出る幕は殆ど無いと言っていい。二人共矢鱈使いたがる広範囲円周攻撃タイプのチャージアーツに、自分ともう一人が巻き込まれないように気を遣うぐらいだ。しかしこれが割と重要な仕事でかなり忙しい。二人共周りに気を遣いなさ過ぎる。まったく、こっちの身にもなってくれ。 それでもこいつらの所為で、違った、お陰で楽に目的を果たせそうだ。三人合わせて優に五桁はヤっただろう。数だけでなく、シンゴの目指す場所にも近付けそうだ。と、その時・・・。 「おい、シンゴ。なんか変な音聞こえねえか?」 「は? 音?」 ……ズ・ズゥン……ズゥン……ズッシンズッシン……ゴンゴンゴン…… 確かに言われてみれば、奇妙な金属音が聞こえてくる。しかも、どんどん近付いて来るように聞こえる。 ズンズンズン、バババババ。バリバリバリッ。ズドドドド!ズシンズシン!ズシン!! ズシン系の音に合わせて、地面が揺れるような・・・。巨大な、何かが、こっちに、近付いて、来る・・・!? 「シンゴ……あれ、何だ……?」 それは、見た事もない、例えるなら六本脚の巨大な重機のような機械だった。くそ、自分の文章力が恨めしい。 「さあ・・・? ・・・あ、主将! 一旦、戦闘中止! 様子を見ましょう!」 敵ではないのは確かだ。なぜならこの六足歩行巨大戦闘マシーンの標的は足下に群がるゾンビ共だったからだ。サイズが違い過ぎる機関砲や刃物なんかで、シンゴ達が数十分掛けて叩き出したハイスコアを、ものの数秒で塗り替えていった。あっという間にゾンビが片付いていく。このマシーンもしかしたら・・・。 「やっぱり! L.E.のマークがある! 助かった! 軍が動いてくれたんだ!」 ふと、マシーンの動きが止まり、 “目 ”がこちらを、シンゴを見つめた。 『最重要たーげっと捕捉。声紋・虹彩・骨格でーた一致。本人デアル確率100%。たーげっと確認。コノ人物ガますた・しんごデス』
BGM:御名前 多分その時、シンゴ達は、初めて宇宙人に遭遇した地球人のような、思いっ切り間抜けな面をしていただろう。いきなり戦闘が終了した安心感も手伝って半ば放心状態のシンゴ達の目の前で、その馬鹿デカいマシーンの腹が、ばくっと開き、中から人が、それも絶対に降りて来ちゃ駄目な、違和感度を限界まで振り切りまくった、和服の美少女が降りて来た。それでは皆さんお待ちかね、少女の第一声にご注目下さい。 「ああ、シンゴ様。お会いしとうございました」 そう、シンゴはこの少女を知っていた。会った事はない。だが、顔は見た事がある。それも、極最近。 「・・・ヒナ・・・?」 そうだ・・・。夢で見た少女だ。そうか、あの夢・・・。恐らく、テレパシーか何かで・・・。はあ、・・・アタマイテ・・・。 「知り合い……?」 ヤベ。 「あー、そうだ。これで一旦引き返そう。そうだ、そうしよう。おーい、みんな、聞こえるか? 撤収。撤収う」 「あのさ、」 「行け、とっとと立ち去れ。でねえとたたっきるぞ。おら。ゲラウェイ!」 「・・・シンゴ様?」 「・・・。で? 君は一体何者なんだ?」 「ヒナはシンゴ様の奴隷でございます。侍女、と申しましょうか」 「ジジョ? 侍女、か。いやいや、訳わかんないし。どういう事? 君はL.E.の人間なんでしょ?」 「それが、少し複雑で・・・。ですが、ヒナはシンゴ様にお仕えするために生まれてきたのです。これはわたくし達が生まれる前から決まっていたのです。この心は嘘偽りございません。どうかヒナを信じて下さい」 「え、と、ヒナ・・・さん?」 「ああ、シンゴ様、勿体のうございます。わたくしめのような者に。どうか呼び捨てでお願い致します」 「じゃあ、ヒナ。これ、軍のでしょ? こんな馬鹿デカイのは見た事ないけど・・・。確かに、この事態にこれ一機だけで運用される筈無いもんな」 ・・・盗んで逃げてきたんだ。恐らく彼女はL.E.の実験体・・・。 夢の中ではあるが情事も済ませてあるため、既に情が移っている。それに夢の中の彼女は確かに何かを恐れていた。そして、この異常事態に動かないL.E. 。・・・繋がる・・・。こいつはやっぱり・・・。 「わかった。君も一緒にガッコに帰ろう。考えるのはそれからだ」 まったく・・・。大変な事になったな・・・。
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さて、いよいよこの過去の顕著な作戦を振り返る記事も、この項を持って佳境を迎える事になる。人類の生存発展に貢献してきたL.E.軍及びレベルによる激戦の歴史を語る事は、人類の歴史を語る上で避けて通る事は出来ない。しかしながら、作戦の一つ一つは、L.E.の異常とも言える秘密主義により超A級の重要機密とされてきた。しかし敢えて、拙著ではその暗部を詳らかにしてきた。最後に持ってくる事になった「国会議事堂解放作戦」は闇に葬られた作戦レポートの中でも特に秘匿事項で、決行されたかどうかさえも疑わしいものである。 この記事を読もうとする読者には周知の事実であろうが、当時国会議事堂は、政府への不信を露わにする武装勢力により、腐敗した政治の象徴として長年に渡ってゾンビが徘徊するまま保存、閉鎖されてきた。 軍を投入すれば、武装勢力もそれなりの動きをする。当然の帰結として、国内を二分する紛争に発展してもおかしくない状況であり、作戦は少数精鋭、出来れば夜陰に乗じて一人で、しかも電撃的に決行される必然性があった。この状況に、軍に所属せず、且つ、レベル登録者中最強の人物、伝説のハンター・アカシア号が投入された、という噂がぴったり合致する。しかし、この作戦自体も、アカシア号という伝説のハンターの存在自体も…… おや?こんな時間に誰だろう?うわ!なにすQAWやめDRFふじこLP;@:「(入稿されず)
※都合により、サルゴスティーニ・週刊「追想第二次ゾンビ大戦・国会議事堂解放作戦編」は出版を中止致します。
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