「お疲れ。さっ、早く帰って総選挙見ないとね。」 皆、似たようなことを口にしなから、足早に会社を後にしていった。 アイドルの人気投票がそんなに大切なのか?いい年して何がアイドルだ。まっ、それは人の好き好きか。私は興味が無いので道場へいくことにしよう。しかし私はこの時、自分の生命にも関わる問題を忘れていた。いや、忘れていた訳ではない。その問題と今日の総選挙が大きく関係していた事を、現時点の私には解る術がなかった・・・。 合気道・修康会館。それ程大きくはない町道場だ。 私は、「こんばんは。おねがいします。」と挨拶をしながら、道場の中へと入っていった。すると、私の予測を遥かに超えた信じられない返事が返ってきた。 「なんでくるんだよー!」・・・はい?私は一瞬、自分が何を言われたのか理解が出来なかった。ようやく出せた言葉は「えっ、何がですか?」だった。 「あ“!何がじゃねえよ!なんで総選挙の日に稽古なんかくんだよ!」恐ろしいまでに不機嫌な状態で佐崎先生は事務室から出て来た。 佐崎先生はこの道場の指導員で武術は凄いが、それ以外はワリと欠点、問題点も多い。その最たるものが、アイドルバカだ。指導にまでアイドルを用いて説明する。正直理解し難く、困っている。・・・その時やっと私は理解した、そして怖くなった。しまった。今日、人気投票するアイドルグループって、佐崎先生が好きな、ナントカ48?46か49だったかな?そんなことはどうでもいいや。やべー、ホントなんで来ちゃったんだろ。他の人来ない訳だ。自殺行為にしか思えないもんな。  まともに目を合すのは怖いので、チラっとだけ佐崎先生を見てみた。ヤバイ、眼が死神になってる・・・。誰か助けて。 そんなことを祈ったところで、どうなるものではないだろう。ところが、救世主はTVの中に現われた。
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