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作品名:ここは極東地区最前線 作者:アルみかん

第1回   序章 1
極東にある弓状の列島。かつて日本と呼ばれたその列島の半分は奪われてしまった。
「こちらα分隊。これより作戦を開始する」
無線機に語りかける男のコードネームはα1。迷彩服の上から防刃ベストに弾薬ポーチを装備し、素早く切り替えれるように利き手側の腰にハンドガンホルスターを着けている。肩に掛けるように人間工学に基づいて設計されたアサルトライフルを提げている。迷彩服の襟元には分隊長のバッチがついている。再び無線機に話しかける。
「α2、準備は?」
「バッチリだ、相棒」
α1は空を見上げて三度(みたび)無線機に話しかける。
「α3、α4首尾は?」
「こちらα4。上々だ」
低空を一機のヘリが通る。側面のハッチが開き、大型ライフルを構えた人物が手を振る。服装はα1と同じだが、体のラインから女性と遠めからでもわかる。α3だ。
「作戦開始だ」
荒野の真っ只中にある敷地内と思わしき場所に一人で入る。α1と同じ歩兵であるα2は別口から侵入する。そして、α1は走りながら作戦内容とミーティングを思い出す。









10時間前
ミーティングルームにはα分隊の4人と小隊長だけだ。
「先日偵察機が古い施設を確認した」
「施設?ただの施設なのに貴重な偵察機を飛ばした訳ですか」
長い黒髪を無造作に束ねて軍帽をかぶった女性α3が質問する
「あぁ。戦争初期まではあの周辺には研究機関が多かったらしく、それ関係の施設があるとふんでいた。近年の砂漠化で埋もれていたが、『奴ら』の出入りの影響で一部が発見された次第だ」
「つまり、その施設周辺に『奴ら』の巣が有るわけか」
額に防砂用のゴーグルを着けた高身長の男α4が質問する。
「その通りだ。そこで、今回α分隊にはこの施設の調査を依頼したい」
「あれか、俺たちに『奴ら』の巣の近くまで、接近しろと」
赤の混じった茶色の髪を肩まで伸ばし、服の上からでも解るくらいに鍛えている男、α2が怒りを混じらせて話す。
「そうなるな」
いたって冷静に小隊長は言う。その淡々とした物言いがα2を苛立たせている。
「ふざけるな!!」
α2は小隊長に詰め寄る。体格差は歴然で詰め寄るだけで、手を出していないあたり冷静さが残っているようだ。手を出してしまえばその時点で処刑になるからだ。
「俺達はな、命がけでこの前線を守っている。それを持ち場を離れて、『奴ら』の巣の近くで呑気に調査?はっ、そんなの願い下げだ」
α2そう言うと、鼻を鳴らして座っていた椅子のほうまで戻り、苛立ち紛れに座る。小隊長は掛けていた眼鏡の位置を正して話を続ける。
「つまり、君達は命が惜しいがためにこの作戦を拒否すると。やれやれ、どうやら私はα分隊を過大評価してたようだ。α分隊を解散し、β分隊に引き継がせるとしよう」
一区切りをおいて黙っていたα1に話しかける。
「どうかね、α1?」
小隊長は明らかに挑発を掛けている。
「構うことはねぇ。全部の分隊に掛け合っても声を揃えて無理だと言う」
「君の発言で分隊が生きるも死ぬも変わる。生きて恥をさらすか。はたまた、作戦に全力で挑むか」
「小隊長、あなたは愚かよ。そこまでして、調査をして何もなければどうするつもり?リスクが高過ぎるわ。隊長、こんな挑発に乗らないで」
α3が怒りを顕にしてα1を説得する。
「そこまでだ、二人とも。確かに無茶な作戦だ。だが、軍の命令は絶対だ。この作戦、α分隊が引き受けます」





敷地内を哨戒するα1。見えるのは倒壊しかけた建物だけだ。『奴ら』の姿もない。
「α2聞こえるか?」
「どうした?」
「『奴ら』の姿がない。そっちは?」
「こっちもだ。それと、報・・・告だ。建物・・の中に入って・・・みてわかったことだが、地下室があり・・・そうだ」
かすかに無線にノイズが入る。
「中の調査をしてくれ。外の哨戒は任せろ」
「りょ・・了・・解だ」
「α1からα4へ。メートル級の飛行タイプはいるか?」
「こちらα4。巣が近くにあるというのに気配すらない」
上空を見上げる。巣の近くなら飛行タイプの『奴ら』が居ても不思議ではない。それが全く居ないというのは妙だ。周辺の哨戒をしているうちにα2からの連絡が来た。
「ひゅぅ、・・こいつ・・は・・神様・・に・・・感・・謝だ・・」
ノイズ交じりの無線に耳を傾ける。どうやら地下に進んでいるみたいだ。ノイズもさっきよりひどくなっている。それよりも気になるのは『感謝』という言葉だ。
「何か見つけたか?」
「あ・・・ぁ。危う・・・くか・・かるところ・・・だった。し・・指・・向性・・・た・・対・・人・・・地雷・・・だ・」
指向性対人地雷。かつて旧時代の戦争に用いられた地雷である。起爆させると千個近い鉄球が扇状に飛び散る仕組みだ。人間同士での戦争が世界的にタブーとされているこのご時世にそんなトラップがあるということは、旧時代の建物に間違いない。そして、その地雷が撤去されていないということは新時代に変わって誰も訪れていないということだ。
「よくわかったな・・・そんな古臭いトラップ」
「少・・・し前に本・・・・で読ん・・・で・・・な。くそっ大量・・・・・に仕・・・掛けてあ・・るぜ。癪だ・・が、あ・・・の小・・隊長の言う通・・りかもな」
悪態をつきながらゴトリと装備を外す音がノイズ交じりに聞こえてきた。
「撤去方法はわかるのか」
周囲を見渡しながら無線にはなしかける。
「問・・・・題ね・・ぇ。・・・この手・・・・のト・・・ラップはワイ・・・ヤーの引張力・・・を・・利用・・・し・・て起爆す・・・る・・・かリモコン・・・・式か相場・・・・が決・・・まってる。リ・・・モコン・・・操作なんざ・・・できるわけ・・・ねぇ・・から・・ワイ・・・ヤー式だな。解除し…ながら進…んでみ…る」
無線がきれた。α2のことだから問題はないはずだ。空を見上げる。嫌味なくらいいい天気だ。今の自分たちの気持ちもこのくらい晴れやかならどれだけ良かったか…。α1はセンチメンタルに考える。幼少期に祖父が話した旧時代の話を思い出す。




「この空は綺麗だな。まるで人の笑顔のようだ」
空を見上げる度に祖父は言った。当時知らなかったが、既に病気で余命を宣告されていた。外出を禁止された筈なのにこっそりと出ていた。そして、自分を連れ出しては空を見上げる。
「でも、くらい顔をしている。おとうさんもおかあさんも」
それを聞いた祖父は寂しそうな顔をした。
「それはまた違うことでだ。ワシがお前くらいの時は空も人も暗かった。人間同士で殺しあい、全てを薙ぎ払う爆弾も使っていた。空は暗くなり、気持ちも暗くなった」
一呼吸をおいてこっちを見る祖父。
「お前には難しい話だな。だがな、これだけは覚えててくれ。人は必死に生きる意思を持つと輝く。前の時代は戦争がそれを壊した。今は皆が必死になって生きようとしている。だから、ワシには輝いて見える」
「よくわかんない…」
首をかしげていると祖父は笑いながら空を指差す。それに釣られて空を見る。眩しすぎる空だった。
「綺麗だろ。人間の顔もこのくらい輝いたらいいだろ?こんな人間になってくれ」
そう言うと祖父は帰路につく。寂しくなって手を繋いだ。それが最後の散歩だった。





「いい空だ」
α1は太陽の光を手で遮るように空を眺め続ける。
「α3からα1へ。サボってないで働きなさい」
「サボっていないさ。上空の敵を索敵中だ」
昔のことを思い出していたことを悟られないようにはぐらかすα1。それを打ち消すようにアラート音が響く。腕に付けている端末からだ。この端末は分隊員のナノマシンから発信される信号の受信機で、負傷状況から三種類のアラート音が鳴るようになる。現在鳴っているアラート音は危険(デンジャー)状態の音だ。無線機を無造作に取り呼びかける。
「α2、応答しろ!おい!」
返答はない。舌打ちをすると今度はα3に連絡を取る。
「α3、α2から連絡は?」
「だめ、こちらからも取れないわ」
「くそっ!α2と合流する。地上の哨戒をα3頼めるか?」
「こちらα4。駄目みたいだ。団体さんのお出ましだ・・・。α3に抜けられるとヘリが落ちてしまう」
α4の乗るヘリには武装がない。その上α3が地上に降りると丸裸も同然だ。冷静な判断を出すため心を落ち着ける。
「くっ・・・。敵との距離と数は?」
「距離およそ3000。数は10。いずれも1メートル級の飛行タイプだ」
「地上タイプは?」
「今のところ無しだ」
「二人でやれそうか?」
「問題ない。このヘリには優秀な砲手(ガンナー)が待機してるんだ。この程度の数は相手にならん。隊長、α2のところへ」
α4からの頼もしいセリフをありがたく思う。
「すまない」
提げていたアサルトライフルを構えてα2の入った建物へ駆けていく。


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