体育館の熱気に負けず劣らず、白熱したやりとりをする二人がいた。
「お前が僕の弟だろ!その台詞そっくりそのまま返してやるよ!」
「俺の方が兄っぽいじゃん?ってか、いい加減にどいてってば。まぁ、お前の体格じゃその子を庇うには物足りないけどね。」
「体格は・・・これから、男らしくなる予定なんだよ!!ってか、智貴は何でここにいるわけ!?」
「俺がどこにいようと、何をしようと達貴には関係ないじゃん。」
「確かに関係ないけど・・・」
「ってことで、そこどいて。」
「う・・・・」
ちらりとあゆを振り返った達貴。
どうしよう、と言わんばかりの困ったような表情をしている。
その表情に思わず「あら、可愛い」と思ってしまったのは、とりあえず内緒にしておく。
そんな心情なんてお構いなしに、どーすんだよ、と言いながらも、智貴はどんどん迫ってくる。
「ほーら、智貴。達貴を困らせるのはやめろって。」
「そうだよ。そんな事してると、達貴に嫌われるよ?」
「智貴はいっつもイタズラが過ぎるんだから。」
その時、達貴と智貴の間にバド仲間の三人が割って入る。
なかなか終わらない二人の攻防に、痺れを切らしてやってきたらしい。
「…なんだよ、もう来ちゃったのかよ。あともう少しで達貴、泣いちゃうところだったのにー。」
彼らの登場に大きく息を吐き、ベッと舌を出して肩をすくめる智貴。
その顔はさっきまでとは打って変わって、やんちゃな少年のものだった。
「な、智貴!お前、僕をからかってたのか!?」
「からかう?違うよ。俺は、達貴で遊んでただけ。」
「そ…それを世間では、からかうって言うんだよ!!」
「あ、そうなの?じゃあ、からかいました。」
無邪気に笑いながら、達貴をかわしスッとあゆの近くに来た智貴。
身構える隙も与えず、ごく自然な仕草で顔を寄せ、あゆの顎に指をかけ少し上を向かせる。
「あゆって名前なんだね、可愛いじゃん。あ、名前だけじゃなくて顔も可愛いよ。」
「え……!?」
囁くように言うと、そのまま離れていく。
その横顔はニヤリと笑っている。
少し顔を赤らめ呆然と立ち尽くすあゆ。
「こ、こらーー!!!智貴、何してんだ!!!!!」
その達貴の声をきっかけに、また無邪気なやりとりが再開される。
「まったく。困った奴らだな。」
「あゆさん、あの二人はあーなったらしばらくあのままなんで。」
「試合やってましょうか。2,3試合やってれば、そのうち合流してくると思うんで。さ、行きましょう。」
二人のじゃれ合いを見ながら、バド仲間の三人が冷静に教えてくれる。
皆、この二人のゴタゴタに随分と慣れているらしく、気にせずコートに戻っていく。
本当に大丈夫かな、と振り返りつつ、三人の後を追う。
「…達貴君て、弟がいたんだね。あたし、初めて知ったからびっくりしちゃった。」
そもそも達貴とはバドばかりしていて、家族構成なんて聞いたことがないんだから、知
らなくて当然だ。
優しくて綺麗なお姉さんがいるんだろうな、くらいにしか思っていなかった。
しかし、突然現れた智貴は想像とかけ離れているだけでなく、達貴とは性格も容姿も正
反対の男の子だった。
「だから、二人のやりとりにあんなにキョトンとしていたんですね。」
「俺らは、小学校の時からの付き合いなんで。」
「昔から達貴が泣かされてばっかりでしたよ。」
「そっか。達貴君、大変だったんだね。」
「まぁ、智貴は独占欲が強いですから。」
「それに、好きだからこそ苛めたくなるってやつです。」
まさしくLOVEだよな〜と、納得しあう三人。
「それに、達貴に好きな子が出来ると、必ず智貴が横取りするんですよ。どこから嗅ぎ付けてくるんだか、その早さったら。速攻ですよ?」
そうこうしてるうちに、コートに到着する。
グーパーでチーム分けをしてラリーを始める。
軽い打ち合いだが、久しぶりにラケットを握ったあゆは、すぐに身体が熱くなって息が
切れるのを感じた。
三人は息も切らさずに会話を続ける。
「でも、今日はなんで智貴来たんだろう。」
「確かに。普通にバドやりに来ただけだし。」
「…え、まさか…あゆさんが来るのを知ってた?」
「いや、あゆさんは偶然来たんだから、それはないでしょ。それに達貴って今、好きな
人いないでしょ。」
「て事は、やっぱりテレパシー?」
「さすが双子。」
うんうんと頷く三人。
相変わらず、一切息を切らすことなく冷静に会話をしながらラリーをしている。
さすが高校生…じゃ、なくて!
「あの二人が双子!!??」
思わず力が入り、スマッシュを打ち返す。
「おー、ナイススマッシュですねー。」
三人が感嘆の声を上げ、パチパチと拍手をする。
そんなのはお構いなしに、達貴の方を振り返ってまじまじと二人を見比べる。
顔付きも体格もほとんど違う。
でも、醸し出す雰囲気は近いものがあるように感じた。
あゆの不思議そうな表情に気が付いたのか、一人が説明してくれる。
「あの二人が似てないのは、二卵性双生児だからですよ。」
朝から色々なことがありすぎて、また夢だか現実だか分からなくなる。
少し混乱しそうになった時、達貴達がこちらにやってきた。
「結局のところ、智貴もバドしたいんだって。一緒にやっても良いかな?」
達貴が疲れた表情で言う。
「俺、ダブルス組むならあゆちゃんとが良いな♪」
智貴にグイッとあゆの肩を抱き寄せる。
それを見た達貴がまた慌てて声を上げた。
「だから、そーゆーのはやめろってーー!!」
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日が傾き全ての影が長く伸びる中、疲れ果てた若者たちが歩いていく。
特に達貴の疲れ方は尋常ではなく、その足取りは心なしかフラフラしている。
それでも何かから守るかのようにしっかりとあゆの横の位置はキープしていた。
「達貴君、大丈夫?あたし、ここからは一人で帰れるし。遠回りになっちゃうでしょ?」
「大丈夫ですよ!あゆさんを家まで送り届けるのが、今日の僕の最後の使命ですから!」
「でも・・・・なんか、フラフラしてるし。」
「そうだぞ、達貴。あゆちゃんは俺が家まで送るから、お前は安心して先に帰れ。」
「…智貴が一緒にいるのが一番心配なんだよ!!」
「まぁ、そうカリカリすんなって。」
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