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作品名:闇汁 作者:咲谷実里

第6回   6
「結局、一馬来なかったね…」
亜季が、少しため息をついて残念そうに言った。
「うん、闇鍋の会には今まで誰も欠席したこと無かったのにな…。淳はインフルエンザだから仕方ないけど…。あいつ連絡もよこせない何かがあったのかな…俺、このメンバーがそれぞれ結婚して父ちゃんや母ちゃんになっても、年に何回か集まって、こんな風に馬鹿な話をしたり昔話をしながら、語り合う時間って持ちたいなって思ってるんだよな…」
勝は壁にもたれながら、ビールから焼酎に切り替え一口飲んで乾いた口を湿らせた。
「そうよ…あたしは人妻になったけど、このメンバーとだけは一生つきあっていきたいって思うもん。そりゃ、夫のことは愛してるし信頼もしてるけど、ここにいるみんなはネ、特別なんだ。自分の人生から切り離して考えられない…」
亜季の言葉は皆の気持ちを代弁していた。
オカルト好きの変わり者達の集まりだが、思えば今となっては一番気の合う仲間になっていた。社会人になっても、これほどのウマの合う仲間とは巡り会えないだろうとここにいる誰もが自負していた。

「おい、ちひろ。ここ下水かどっかわるいんじゃないか?いまトイレ行ってきたら風呂場の方から、変な匂いするぞ」
部屋に入ってくるなりトイレに行っていた勝が、バスルームの方をふり返りながら入ってきた。
「あ…ごめーん。一週間くらい前から、下水の匂いがあがってきて管理人さんに頼んで、来週早々にも工事の人が見てくれることにはなってるんだけど…あと、ここんとこゴミの日に夜勤とか重なっていてなかなか捨てられなくて、今日はお風呂場のとこにゴミを寄せていたのよ。厳重に縛ったつもりなんだけど、やっぱり匂うのね…脱臭剤置いてるし、消臭剤もまいたんだけど…。もう一度消臭剤かけてこようかしら?」
立ちかけたちひろを亮介が
「戸を閉めてこの部屋にいる分には全然気にならないから大丈夫だよ」
と制した。
生ゴミの匂いは思いの外、強いらしい…
―この分じゃ、明日の朝ゴミ出しするときも匂いがするかも…管理人さんに注意されなきゃいいけど…―
ここのアパートの管理人は同じ敷地内の並びに住んでいるのだが、ゴミ出しには相当うるさくて朝の七時にはゴミ置き場の所に来て、指定外のゴミが出ていないかチェックに余念がない。住人達は、それを嫌い管理人が来る前にさっさとゴミ出しをして出勤してしまう。
―もう一回後でチェックしなくちゃー
ちひろは閉ざされたドアの向こうにあるバスルームに寄せてある三つのゴミ袋を思った。

「ところで、ちひろは?究極の失恋話ないの?」
全員がおじやも食べ終わって、コンロの火も消すと部屋は一層暗さを増した。
亜季が、ふざけて割り箸をマイクのようにちひろに向ける。
「そうそう、いっつも冷静沈着、頭脳明晰なちひろの失恋話って興味あるなあ…」
勝も亜季の真似をして、割り箸を向けインタビュアーを気取っていたが
「いや、待て待て…その前に亜季と俺の失恋話にしよう。ちひろの話はトリとしてとっておこうぜ。どうせ、俺も亜季もたいした失恋話なんて持っていなそうだし…」
「勝ってば随分ね…いいわよ。『たいしたことがない』亜季の失恋話をしてあげる。実は、この話誰かにずっと話したかったんだよね…」
ふっと亜季がため息をつく。
「藤川さん、包み隠さずにお願いします」
勝が割り箸を亜季に向けて再びリポーターの真似をしてふざける。
「この話は大学終わって、いまの保育園に勤めた頃だから…いまから四年前のことよ…その頃あたしがつきあっていたタカハシって奴知ってるでしょ?」
「ああ…そういえば同じ学部の高橋君とちょっとだけ遠距離してたんだっけ。」
ちひろと玲美は同時に顔を見合わせて思い出したようにポンと手をたたいた。
「そう…まあ結局はそいつは、職場の上司から両家のお嬢さんとの見合い話もらって、そっちに行っちゃったんだけど。いま思えば逆に遠距離だからあとくされなくて良かったわけ。実は、そいつが私に内緒でお嬢様とお見合いしていた日…もちろん私は全く知らなかったのよ…でも、ちょうどその当日…」
亜季の声のトーンが奇妙に低くなって行く。
「なにがよ…?」
玲美が、おそるおそる聞き返す。
「やつのお見合いの当日…何も知らない私は、自分の部屋でいつものようにパソコンでネットサーフィンして遊んだり、あと保育園で使うお遊戯会の衣装を持ち帰って、作ったりしていたの。昼食をとったあとで異常な眠気を催してそのままソファに眠り込んでしまったのね…そしたら、夢の中でやつが真っ赤な着物を着た女とお見合いしてるじゃない…現場に乗り込んだ私は、なにお見合いなんかしてんのよ!って怒鳴ったところで目が覚めたの。なんとなく憂鬱な気分になって、メールしてみたのよ。―今、なにしてる?―って…そしたらその夜になって返事が返ってきたの。実は今日は上司のすすめがあってお見合いしていましたって」
「こわーっ。ちょっと亜季、それって失恋話っていうよか怪談に近い物があるよ!」
「そうなのよ…結局は、お見合いなんかうけちゃった彼に幻滅して別れちゃったわけだけど…あの夢ってなんだったのかしらって…」
「亜季って、そういう能力あるんじゃないの?ダンナも浮気したら、きっと亜季の夢にその現場が出てくるんだぜ。こわいこわい…っつーか、ホラやっぱり遠距離恋愛なんてうまくいきっこないんだよ。俺は正しいだろ?」
亮介は、自分の両腕を上下にさすりながら、身震いする真似をしてみせたあとで、勝者のようなガッツポーズをとってみせた。


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