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作品名:本当かどうかは別として 作者:Sharula

第90回   自作自演の戦争劇と投資
和菓子を喜んで食べていたセルティは、ススムがアクセスしてい
たコンピューターの画面に、小さく点滅する光をみつけた。

ススムは自社のサーバーにアクセスしたままだったのだが、
誰かが彼とチャットしたいらしい。さっそくススムが画面を
切り替えると、常務の松岡が挨拶してきた。

彼は社内でも堅物といわれる保守派で、グローバル化を進めよう
とする経営陣には目の上のタンコブのような存在だった。実際、
ススムに対してはいつも厳しかった。おそらく、ヨーロッパや
中東で気ままにビジネスしているように見えたのかも知れない。


そんな松岡がなぜ?


珍しく緊張する面持ちのススムを見たセルティは、ちょっとした
見物ではないかという期待で、これからの会話が楽しみだった。


松岡はシリア情勢について、ススムに尋ねてきた。


シリアの内戦は、シーア派国家のイランやヒズボラがアサド政権を
支援する一方、反体制派には国民の7割を占めるスンニ派が多い。

そのような宗教的構図から、スンニ派が多いサウジアラビアや
カタール、あるいはトルコが反体制派を支えようとするのは、
当然の流れだろうとススムは話した。


セルティは、珍しくススムが歯切れの悪い物の言い方をするので
不思議でならなかった。いつもは。もっと快活に、自分の
言いたいことを話す男なのに…


実は松岡は“陰謀論”などという胡散臭い話を、一切受けつけない
人物だった。当然のことながら『世界同時多発テロ(2001年9月
11日)』が米国による自作自演などというススムの主張など、
まったく耳を貸さなかった。

さらに、彼は業務上の、ちょっとした見解の違いから、ススムと
対立するようになり、ススムを子会社に放り出すか、辞めさせろと、
社長や他の役員に圧力をかけたことがある。そのススムを
社内で拾ったのが、ススムのボス、中村喜一だった。


そんな過去のある松岡が、ススムに「本当にアルカイーダは
CIAが編成した組織なのか?」と尋ねてきたのだから、
ススムが驚くのは無理もなかった。


松岡は最近までベルギーに長期滞在となっていた。現地で仲良く
なった友人とパーティを共にした際、シリアで反政府軍の捕虜と
なったイギリス人写真家、John Cantile の証言を知る。


彼はその内容にひどく驚かされた。


“シリア反政府兵の組織なのに、シリア人が一人もいない。アラ
ブ語が話せる者もいなかったのだ。聞こえたのは、ロンドン南部
なまり英語だった。”
http://www.presstv.ir/detail/2012/08/06/254692/none-of-insurgents-were-syrian/


次に松岡は、中東やアフリカのいたるところに、米軍が展開して
いることを知る。さらに、アルジェリアやリビアの内戦にCIA
が深く関与してきたとの情報を耳にした。


日本国内では決して報道されない情報が、あまりに多すぎて、
理解不能と思えることも多くなった。それで、一度、ススムと
話をしてみようと思ったのだ。

そんな折、彼の秘書は会社のサーバーにアクセス
してきたススムのIDを見落とさなかった。


「アメリカは…、NATOは、本当にシリアに戦争を仕掛けるのか?」


松岡の質問の意図を、ススムは図りかねたが、
今度は、いつものように率直に自分の意見をぶつけてみた。


彼は、中東での米国の行動を理解するには
北朝鮮が参考になると切り出した。

北朝鮮は核実験を繰り返したり、韓国の延坪島砲を砲撃し、
一見すると極東アジアで自由に振る舞う悪者だ。


「もし北朝鮮が韓国と再び戦争をはじめるぞ!となれば、
金融市場はどうなるでしょう? たとえばVIX(恐怖)指数などは?」

「そりゃ、君。恐怖指数は危機レベルに急騰するだろう」

「それでは、もし米国やNATOがシリアに
 本当に戦争を仕掛けそうだとなれば、どうです?」

「う〜ん、まず、そうだなあ。石油と金の相場が急騰するだろうな。
それに一時避難で、円は高くなるだろう。日本もそうだが、新興国
も株安になるだろうな。『戦時のドル』といわれるから米ドルは買
われるだろうし…。でも、それより、君は何が言いたいんだ?」

「常務が金融筋の人間なら、北朝鮮が戦争すると分かる前に、恐
怖指数を買いませんか? それにあらかじめ欧米がシリアと戦争
する前だって分かったら、石油やゴードルなんか買いませんか?」

「そりゃあ、一種のインサイダーみたいなものだから、
 戦争前に買っておけば、確実に大もうけできるだろう」

「でも、北朝鮮やシリア・イランを利用して、
 もっと長期的に儲けれる方法があるとすれば、どうです?」

「えっ? そんなうまい話があるのかい?」

「ええっ、今まさに戦争するぞ!…の直前まで行って、
 何かそれらしい理由をつけて中止する。それを時期を
 置いて、繰り返すのです」

「何で? なぜ?」

「危機だけ煽るだけで、何度でも儲けられるんですから最高にお
いしい商売です。でも、本当に戦争してしまうと、コストもかか
るし、他のところで危機をあおる準備を、イチからやり直さない
といけない。それに市場の流れが予想外の方向に転じてしまうかも
しれないじゃないですか。それは投資家にとってリスクを増やす
ことになります」

「じゃあ、シリアで化学兵器がどうとかと言う話は?」

「それは、英国でハッキングされた軍事関係会社の情報から…。
 あっ、いけない。言っちゃマズイ話だったかも…」

「ああっ、分かったよ。『9.11』と同じような米国の自作自演
だって言いたいんだろう。だいじょうぶ、以前の私とは違うから、
お前を目の敵になんかしないよ」



ススムは、それから一時間ほど松岡とチャットで話した。セルテ
ィと沙知子は、二人の会話をコーヒーを飲みながら、少し離れた
ところで聞いていた。


二人の会話が終盤に差し掛かったと思われるとき、セルティの
フリーメールの受信箱に、イタリアからのメールが届く。





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